【特別企画】開発者インタビュー
ハイレゾが普及したいま、改めて見直す“原音忠実” − Sound Realityシリーズ誕生の舞台裏
フルデジタルヘッドホンにいち早く挑戦
そのノウハウをワイヤレスモデルに入れ込む
続いて、Bluetoothワイヤレスヘッドホンの「ATH-DSR9BT」(以下:DSR9BT)の特徴に迫っていこう。「フルデジタル伝送のヘッドホン」と聞いてもあまり馴染みがない方も多いかもしれない。本体に電気回路を備え、入力されたデジタル信号を内部でアナログ信号に変換することなく、専用設計されたドライバーのボイスコイルに直接入力して、より高純度なデジタルオーディオ再生を実現するというものだ。
オーディオテクニカはPC用フルデジタルヘッドホン「ATH-DN1000USB」をいち早く商品化したメーカー。今回のモデルはそのコンセプトをワイヤレスヘッドホンに当てはめ、ポータブルリスニングにも展開した注目機だ。兄弟機として「ATH-DSR7BT」も同時発売されている。
通常のBluetoothヘッドホンの場合、入力されたデジタル音声信号はBluetoothレシーバーからDAコンバーター、アンプまでワンチップ化されたSoCによって処理されるため、アナログ信号へ変換を行う際に音質の劣化を伴っていた。DSR9BTの場合、ワイヤレスで届いたデジタル音声信号をSoCのBluetoothレシーバーで受け取ったあとにすぐ、デジタル信号処理技術「Dnote」を採用するICチップに送り込んで、高精度に処理されたデジタル信号を4本のボイスコイルに伝えて、専用設計のドライバーを駆動しながら音を鳴らすという独自のプロセスを採用している。オーディオテクニカではこの一連の技術を「ピュア・デジタル・ドライブ」と名付けて磨きをかけてきた。
「市場には既に沢山のBluetoothをはじめとしたワイヤレスオーディオのための技術を搭載するヘッドホン・イヤホンがあふれています。オーディオテクニカはヘッドホンブランドとして、同じワイヤレスオーディオというくくりの中で何か新しいアイディアを提案したい、ワイヤレスで聴いたことのないような高音質を届けたいという強い思いから、フルデジタル伝送のワイヤレスヘッドホンという企画を立ち上げました」(奈良氏)
“Bluetoothの音が悪い”理由を丁寧に調査して生まれた
「ピュア・デジタル・ドライブ」
開発がスタートした頃は、ポータブルヘッドホンのMSR7に、ATH-DN1000USBの開発から生まれた電気回路を乗せたプロトタイプがつくられた。社内での評価も高く、「ここからオーディオテクニカらしい、ユニークなワイヤレスヘッドホンがつくれる」という手応えを得て、今回発売されたふたつのDSRの開発が始まったのだという。
エレクトロニクス技術のエキスパートである築比地(ついひじ)氏は、まず始めに”Bluetoothの音が悪い”と言われる原因を一つずつ丁寧に調べ上げた。その結果、Bluetoothオーディオレシーバーの後段からSoCによる処理を抜けて、デジタル音声信号の処理をDnoteに渡すことで、音づくりの自由度が高まるという見識を獲得した。これがピュア・デジタル・ドライブが生まれた原点だ。
デジタル音声処理技術「Dnote」はTrigence Semiconductor社の開発によるものだが、そのチップを単純に組み込むだけではいい音が得られないどころか、ヘッドホンとしてまともに音を鳴らすことができない。そこでオーディオテクニカは新規にドライバーやボイスコイルの開発を1から起こしてDSR9BT/7BTを作り上げたのだ。