音質担当が新旗艦プリメインを語り尽くす
【開発者に聞く】マランツ「PM-10」は、“録音現場の音”を目指してスイッチングアンプを選んだ
■PM-10は「現代の録音現場の最前線」で鳴る音の忠実再現を目指す
澤田氏 こういう話をするとPM-10はアコースティック録音の作品に向いていないように思われるかもしれませんが、むしろ逆です。なぜなら、現在のハイレゾ録音の先端を担っている録音チームは、モニターにスイッチングアンプを使っているケースが多いのです。
スイッチングアンプはアナログアンプに比べて軽く、録音現場へ持ち運ぶのに便利です。軽い上に出力も大きく、録音時に重要なヘッドルームも確保できます。そして音の面でも、キャラクターを持たない傾向にあるスイッチングアンプが、録音エンジニアに好まれているのです。
ーー モニタリングにも好都合な音だということですね。
澤田氏 キャラクターを持たないといっても、透明なガラス窓から見るように聴こえるというほど完璧ではありません。それは磨りガラスかもしれませんし、若干濁っているかもしれません。
しかしアナログアンプだと、周波数やダイナミックレンジの変化で音色が微妙に変化します。これが心地よさを作り出す要素になる場合もあります。一方でスイッチングアンプでは、周波数やダイナミックレンジの変化に対して音色が一定です。
ーー このあたりの音の特徴は先ほどのコンデンサーを持たないという話にもつながります。
澤田氏 こうしたスイッチングアンプの特徴は、音楽製作の現場でモニターを行うためのツールとして都合が良いのです。そしてモニタースピーカーには、B&Wがよく使われますよね(笑)。スタジオ録音であれば、もっと昔からスイッチングアンプが使われています。こういった理由で、PM-10は最新の高音質ソフトを製作している作り手の感性に近いアンプと言えると思います。
ーー なるほど。
澤田氏 ただし、ノスタルジックな音を否定するつもりはなく、私もそういうものを好む1人です。私も家では、現代の録音を再生するときはB&Wを使いますが、古典録音を楽しむときはタンノイのAutographと真空管アンプですから。
■スイッチングアンプはマランツにとっての“新たな選択肢”
ーー このようなスイッチングアンプは、従来のアナログアンプに取って替わるものになるのでしょうか。
澤田氏 私はアナログアンプにも私は魅力を感じていて、チャンスがあればぜひ取り組みたいと考えています。しかし、スイッチングアンプやスイッチング電源はこれから主流になっていくものですから、マランツとしてはどこかで本格的に取り組まなくてはいけないと、ことあるごとに提案はしていました。
ただ、具体的な開発モデルがないと、なかなか本格的な検討というのはできません。マランツは、2002年から2004年にかけてB&Wのサブウーファーへスイッチングアンプを供給しました。このときに使ったのがHypexの元になったモジュールだったことは以前もお話しましたね。しかし、これ以降はHi-Fiにおけるスイッチングアンプへの取り組みが途絶えていたので、どこかでやらなければと考えていました。
一方でミニシステムではスイッチングアンプを使っていて、MC-R611では音にも非常にこだわりました。ここでの手応えが、Hi-Fiでスイッチングアンプに挑戦しようという機運にもつながったとも言えます。PM-10におけるチャレンジは、先を見据えた投資という点でも良い機会でした。フラグシップでもなければ、ここまで思い切ったことはできないですからね。おかげで開発に3年半もかかってしまいましたが(笑)。
尾形氏 我々にとっては、従来のアンプに加えて、スイッチングアンプという手札が増えたということなのです。スイッチングアンプが全てというつもりはありませんし、AB級アンプも引き続き取り組んでいきます。
澤田氏 それぞれにメリット、デメリットがありますから、両方のカードを持っているのはよいことです。
ただ、オーディオにもいろいろありますが、マランツは常に原音再生を旨としてきました。音楽ソフトも手がけるフィリップスという会社の傘下にあった時期もあって、再生機器には余計な色づけをしてはいけないとさんざん教育されてきました。
音楽製作の現場でスイッチングアンプがモニターに使われている以上、オーディオ再生は昔のままでいいとはいかないのです。その意味でPM-10のサウンドは、現在のオーディオに対して一石を投じるものになると思います。
ーー 本日はありがとうございました。
(構成:編集部 小澤貴信)
澤田氏 こういう話をするとPM-10はアコースティック録音の作品に向いていないように思われるかもしれませんが、むしろ逆です。なぜなら、現在のハイレゾ録音の先端を担っている録音チームは、モニターにスイッチングアンプを使っているケースが多いのです。
スイッチングアンプはアナログアンプに比べて軽く、録音現場へ持ち運ぶのに便利です。軽い上に出力も大きく、録音時に重要なヘッドルームも確保できます。そして音の面でも、キャラクターを持たない傾向にあるスイッチングアンプが、録音エンジニアに好まれているのです。
ーー モニタリングにも好都合な音だということですね。
澤田氏 キャラクターを持たないといっても、透明なガラス窓から見るように聴こえるというほど完璧ではありません。それは磨りガラスかもしれませんし、若干濁っているかもしれません。
しかしアナログアンプだと、周波数やダイナミックレンジの変化で音色が微妙に変化します。これが心地よさを作り出す要素になる場合もあります。一方でスイッチングアンプでは、周波数やダイナミックレンジの変化に対して音色が一定です。
ーー このあたりの音の特徴は先ほどのコンデンサーを持たないという話にもつながります。
澤田氏 こうしたスイッチングアンプの特徴は、音楽製作の現場でモニターを行うためのツールとして都合が良いのです。そしてモニタースピーカーには、B&Wがよく使われますよね(笑)。スタジオ録音であれば、もっと昔からスイッチングアンプが使われています。こういった理由で、PM-10は最新の高音質ソフトを製作している作り手の感性に近いアンプと言えると思います。
ーー なるほど。
澤田氏 ただし、ノスタルジックな音を否定するつもりはなく、私もそういうものを好む1人です。私も家では、現代の録音を再生するときはB&Wを使いますが、古典録音を楽しむときはタンノイのAutographと真空管アンプですから。
■スイッチングアンプはマランツにとっての“新たな選択肢”
ーー このようなスイッチングアンプは、従来のアナログアンプに取って替わるものになるのでしょうか。
澤田氏 私はアナログアンプにも私は魅力を感じていて、チャンスがあればぜひ取り組みたいと考えています。しかし、スイッチングアンプやスイッチング電源はこれから主流になっていくものですから、マランツとしてはどこかで本格的に取り組まなくてはいけないと、ことあるごとに提案はしていました。
ただ、具体的な開発モデルがないと、なかなか本格的な検討というのはできません。マランツは、2002年から2004年にかけてB&Wのサブウーファーへスイッチングアンプを供給しました。このときに使ったのがHypexの元になったモジュールだったことは以前もお話しましたね。しかし、これ以降はHi-Fiにおけるスイッチングアンプへの取り組みが途絶えていたので、どこかでやらなければと考えていました。
一方でミニシステムではスイッチングアンプを使っていて、MC-R611では音にも非常にこだわりました。ここでの手応えが、Hi-Fiでスイッチングアンプに挑戦しようという機運にもつながったとも言えます。PM-10におけるチャレンジは、先を見据えた投資という点でも良い機会でした。フラグシップでもなければ、ここまで思い切ったことはできないですからね。おかげで開発に3年半もかかってしまいましたが(笑)。
尾形氏 我々にとっては、従来のアンプに加えて、スイッチングアンプという手札が増えたということなのです。スイッチングアンプが全てというつもりはありませんし、AB級アンプも引き続き取り組んでいきます。
澤田氏 それぞれにメリット、デメリットがありますから、両方のカードを持っているのはよいことです。
ただ、オーディオにもいろいろありますが、マランツは常に原音再生を旨としてきました。音楽ソフトも手がけるフィリップスという会社の傘下にあった時期もあって、再生機器には余計な色づけをしてはいけないとさんざん教育されてきました。
音楽製作の現場でスイッチングアンプがモニターに使われている以上、オーディオ再生は昔のままでいいとはいかないのです。その意味でPM-10のサウンドは、現在のオーディオに対して一石を投じるものになると思います。
ーー 本日はありがとうございました。
(構成:編集部 小澤貴信)