<山本敦のAV進化論 第140回>
ソニーのレコード生産、復活の裏側。デジタル+匠の技術で「最新のアナログ」
■アナログとハイレゾ、どちらも大事
ソニーグループとして「ハイレゾ」も積極的にプロモーションしている中で、ある意味では真逆の音楽メディアとも受け止められるアナログレコードの展開に力を入れることに矛盾はないのだろうか。この問いに対しては古川氏が明快な答えを示してくれた。
「音楽が好きな方々の、音楽の聴き方が多様化している時代です。私たちコンテンツの作り手側としては、ありとあらゆるお客様の好みや、音楽のリスニングスタイルに全方位でサポートできることが大事であると考えています。だから、これからはハイレゾや音楽配信も含めて、音楽の聴き方をどれか一つの方法に集約していくのではなく、お客様にとって楽しみ方が自由に選べる環境を整えることで、音楽全体を盛り上げていくことが私たちのミッションではないかと感じています。
だからハイレゾや音楽配信などデジタル音源と、アナログレコードはそれぞれに対立関係に置くべきものではなく、様々な音楽ファンの嗜好を広く捉えるためのメディアとして、どちらも大事に育てていくべきなのです」(古川氏)
古川氏が唱えるソニーミュージックグループの戦略が奏功すれば、アナログレコードを聴いて初めて「音質」に興味を持って、ハイレゾやオーディオ機器への関心を深めていく、これからの若い音楽ファンが増えていく期待も十分に持てるだろう。一方で、若い音楽ファンの、音楽に対する興味を喚起するために、ソニーミュージックグループでは「ジャケ買い」をもっと楽しくすることも課題として取り組んでいるという。
「アナログレコードのアートワークを制作するために必要なクリエイティブツールも、過去に比べていまはデジタル化が進んでいます。だからこそ、様々なデジタル技術をアナログレコードのジャケットに活かせれば、今までなかった斬新なレコードならではのアートワークが生み出せるのではないかと期待しています。ソニーミュージックグループのクリエイティブ部門のスタッフも奮い立って挑戦をはじめています。これから“ジャケ買い”したくなるような、斬新なレコードがたくさん生まれるのではないでしょうか」(榊原氏)
ソニーの挑戦が他の音楽業界のコンテンツプロバイダーやオーディオメーカーも巻き込みながら大きなうねりに変わることを期待したい。
(山本 敦)