<対談>貝山知弘×マランツ澤田氏
マランツ歴代ディスクプレーヤー5モデルを聴く − 「SA-10」へ連なる進化の軌跡とは
■マランツにおける最後のCD専用プレーヤー
試聴モデル3
CD-7
1998年発売 450,000円(税抜/発売時価格)
澤田氏 時代は飛びますが、次に聴いていただくのは1998年に発売された「CD-7」です。1998年といえば、SACDやDVDオーディオが登場する前年です。CD-7はマランツにおける最後の高級CD専用プレーヤーとなります。
90年代に入るとD/Aコンバーターは1bitのビットストリーム型が全盛となりますが、このCD-7はマランツにおける最後の抵抗ラダー型DAC「TDA1541AS2」を2基搭載しています。先程聴いていただいたCD-34は、初期の抵抗ラダー型DACを搭載しています。
また、先程のCD-34のアナログ段についてはオペアンプを用いて増幅していますが、CD-7のアナログ段は全て、マランツのディスクリート・アンプモジュール HDAMで構成されています。
そしてこれが大きなポイントになるのですが、CD-7では初めてマランツオリジナルのデジタルフィルターをDSPに組み込んで搭載しています。
貝山氏 後に続くマランツオリジナルのデジタルフィルターがここで登場するわけですね。
澤田氏 CD-34のデジタルフィルターは、先ほどお話しした通り当時は一般的だったシャープフィルターを採用していました。あの頃は、20kHzで切って余計なものは出さない方が好ましいとされていたのです。それが90年代のある時期から、スローフィルターのほうが良いのではないかという意見も現れて、デジタルフィルターの論争が起こりました。
貝山氏 WADIAのCDプレーヤーが登場したころですね。WADIAはスローフィルターを採用していました。
澤田氏 はい。20kHz以上まで帯域を伸ばしたスローフィルターの方が、様々なニュアンスを表情豊かに再現してくれるという意見が出てきました。
こうして90年代に様々なデジタルフィルターが登場してきます。しかし、マランツは当時フィリップス傘下だったのでフィリップスのDACあるいはデジタルフィルターを採用していたのですが、これらは一貫してシャープフィルターだったのです。
その一方で、マランツ・ヨーロッパはデジタルフィルターによる音の変化に早くから着目していて、デジタルフィルターによって音像や音場が変化することも実験で検証していました。そして、やはりスローフィルターの方が優位性があるという結論に至っていたのです。ところがフィリップスがスローフィルターを備えたデバイスを作ってくれない。それならばと、DSPに独自のデジタルフィルターを書き込んでプレーヤーへ組み込むことにしたのです。このようにして、CD-7で初めて独自のデジタルフィルターが採用されました。
貝山氏 抵抗ラダー型DAC、デジタルフィルター、このあたりがどう音に出てくるのか気になるところです。
澤田氏 現在では抵抗ラダー型DACはほぼ消滅してしまい、1bitあるいはローbitで処理を行うタイプが主流になっています。このあたりは面白いです。当時はどちらが優れているのかという論争がありましたが、個人的には抵抗ラダー型はガッチリした音で、1bit型は空間情報や音の滑らかさに優位性があるというイメージを持っています。
デジタルフィルターの音質傾向でいうと、シャープフィルターの音像はカチっと整っていて、スローフィルターは音場感が豊かという傾向があります。CD-7は、抵抗ラダー型DACにスローフィルターというある意味で相反する組み合わせなので、開発中もこれはどうなるのかと思っていました。
貝山氏 実際に聴いてみて、先ほどのCD-34と比較すると音色の表現が多彩です。両モデルの間には十数年の隔たりがあるので当然とは言えますが、その点は大きく進化していると感じました。
澤田氏 表現する空間の広さはだいぶ広がっていて、現在のリファレンスのレベルに近くなっています。細かな表現や、古楽器独特のややきつめに出てくる音色も表現してくれています。ただ、少しジェントルですよね。
貝山氏 確かに、あまり荒っぽい印象はないです。ただし、ディテールやスケール感は良く出ていました。1998年というと、まさにSACD、DVDオーディオ直前ですね。『サンチェスの子供たち』では、低音の締まりが良いことに好感を持ちました。
澤田氏 重量感がありますよね。
貝山氏 それに比べるとCD-34の音は低音が膨らみすぎていました。それにしても、低音の表現はこの21世紀になっても難しいです。膨らみが抑えられていても、逆に締め付けたような低音になってしまっているプレーヤーを散見します。低音の出方にはシャーシも大きく関係していますよね。
澤田氏 はい。シャーシに加えて、電源部もCD-34とは比較にならないぐらい余裕があり、音の支えになる部分で大きな差があります。CD-7の空間の広さやディテールは、現代のプレーヤーに肉薄していると感じました。ただ、やはり音の出方はあっけらかんというのではなく、お行儀がよいという感じがしました。
貝山氏 そうですね。
澤田氏 CD-7の時代まで、マランツに限らずどのメーカーも同様だと思いますが、モニタースピーカーはB&WのMatrix 801やその類型を用いるのが一般的でした。CD-7の音質傾向の理由はここにもある気がします。
貝山氏 それはあり得るでしょう。
澤田氏 この次に聴いていただくSA-1の開発から、マランツのモニタースピーカーはB&W「Nautilus801」になります。これはクラシックモニターからオールマイティー・モニターへの大きなジャンプアップと言えます。以降の音の変化にも、このモニターの変化は大きく影響しているはずです。
試聴モデル3
CD-7
1998年発売 450,000円(税抜/発売時価格)
澤田氏 時代は飛びますが、次に聴いていただくのは1998年に発売された「CD-7」です。1998年といえば、SACDやDVDオーディオが登場する前年です。CD-7はマランツにおける最後の高級CD専用プレーヤーとなります。
90年代に入るとD/Aコンバーターは1bitのビットストリーム型が全盛となりますが、このCD-7はマランツにおける最後の抵抗ラダー型DAC「TDA1541AS2」を2基搭載しています。先程聴いていただいたCD-34は、初期の抵抗ラダー型DACを搭載しています。
また、先程のCD-34のアナログ段についてはオペアンプを用いて増幅していますが、CD-7のアナログ段は全て、マランツのディスクリート・アンプモジュール HDAMで構成されています。
そしてこれが大きなポイントになるのですが、CD-7では初めてマランツオリジナルのデジタルフィルターをDSPに組み込んで搭載しています。
貝山氏 後に続くマランツオリジナルのデジタルフィルターがここで登場するわけですね。
澤田氏 CD-34のデジタルフィルターは、先ほどお話しした通り当時は一般的だったシャープフィルターを採用していました。あの頃は、20kHzで切って余計なものは出さない方が好ましいとされていたのです。それが90年代のある時期から、スローフィルターのほうが良いのではないかという意見も現れて、デジタルフィルターの論争が起こりました。
貝山氏 WADIAのCDプレーヤーが登場したころですね。WADIAはスローフィルターを採用していました。
澤田氏 はい。20kHz以上まで帯域を伸ばしたスローフィルターの方が、様々なニュアンスを表情豊かに再現してくれるという意見が出てきました。
こうして90年代に様々なデジタルフィルターが登場してきます。しかし、マランツは当時フィリップス傘下だったのでフィリップスのDACあるいはデジタルフィルターを採用していたのですが、これらは一貫してシャープフィルターだったのです。
その一方で、マランツ・ヨーロッパはデジタルフィルターによる音の変化に早くから着目していて、デジタルフィルターによって音像や音場が変化することも実験で検証していました。そして、やはりスローフィルターの方が優位性があるという結論に至っていたのです。ところがフィリップスがスローフィルターを備えたデバイスを作ってくれない。それならばと、DSPに独自のデジタルフィルターを書き込んでプレーヤーへ組み込むことにしたのです。このようにして、CD-7で初めて独自のデジタルフィルターが採用されました。
貝山氏 抵抗ラダー型DAC、デジタルフィルター、このあたりがどう音に出てくるのか気になるところです。
澤田氏 現在では抵抗ラダー型DACはほぼ消滅してしまい、1bitあるいはローbitで処理を行うタイプが主流になっています。このあたりは面白いです。当時はどちらが優れているのかという論争がありましたが、個人的には抵抗ラダー型はガッチリした音で、1bit型は空間情報や音の滑らかさに優位性があるというイメージを持っています。
デジタルフィルターの音質傾向でいうと、シャープフィルターの音像はカチっと整っていて、スローフィルターは音場感が豊かという傾向があります。CD-7は、抵抗ラダー型DACにスローフィルターというある意味で相反する組み合わせなので、開発中もこれはどうなるのかと思っていました。
貝山氏 実際に聴いてみて、先ほどのCD-34と比較すると音色の表現が多彩です。両モデルの間には十数年の隔たりがあるので当然とは言えますが、その点は大きく進化していると感じました。
澤田氏 表現する空間の広さはだいぶ広がっていて、現在のリファレンスのレベルに近くなっています。細かな表現や、古楽器独特のややきつめに出てくる音色も表現してくれています。ただ、少しジェントルですよね。
貝山氏 確かに、あまり荒っぽい印象はないです。ただし、ディテールやスケール感は良く出ていました。1998年というと、まさにSACD、DVDオーディオ直前ですね。『サンチェスの子供たち』では、低音の締まりが良いことに好感を持ちました。
澤田氏 重量感がありますよね。
貝山氏 それに比べるとCD-34の音は低音が膨らみすぎていました。それにしても、低音の表現はこの21世紀になっても難しいです。膨らみが抑えられていても、逆に締め付けたような低音になってしまっているプレーヤーを散見します。低音の出方にはシャーシも大きく関係していますよね。
澤田氏 はい。シャーシに加えて、電源部もCD-34とは比較にならないぐらい余裕があり、音の支えになる部分で大きな差があります。CD-7の空間の広さやディテールは、現代のプレーヤーに肉薄していると感じました。ただ、やはり音の出方はあっけらかんというのではなく、お行儀がよいという感じがしました。
貝山氏 そうですね。
澤田氏 CD-7の時代まで、マランツに限らずどのメーカーも同様だと思いますが、モニタースピーカーはB&WのMatrix 801やその類型を用いるのが一般的でした。CD-7の音質傾向の理由はここにもある気がします。
貝山氏 それはあり得るでしょう。
澤田氏 この次に聴いていただくSA-1の開発から、マランツのモニタースピーカーはB&W「Nautilus801」になります。これはクラシックモニターからオールマイティー・モニターへの大きなジャンプアップと言えます。以降の音の変化にも、このモニターの変化は大きく影響しているはずです。
次ページマランツのSACD対応プレーヤー初号機「SA-1」を聴く