<対談>貝山知弘×マランツ澤田氏
マランツ歴代ディスクプレーヤー5モデルを聴く − 「SA-10」へ連なる進化の軌跡とは
1982年、CD(コンパクトディスク)が産声を上げた。当時、CD規格開発に携わったフィリップスの傘下にあったマランツは、最前線でディスクレーヤーの開発に着手した。その後のSACDの登場も経て、ディスクプレーヤーの名機を輩出し続けたマランツは、2016年には集大成と言うべきリファレンスSACDプレーヤー「SA-10」を発売。オーディオファイルと評論家のそれぞれから大きな評価を得た。
今回、オーディオ評論家・貝山知弘氏が、マランツの歴代プレーヤーに深く携わってきた前サウンドマネージャーの澤田龍一氏と共に、SA-10と、マランツのCD/SACDプレーヤーの歴史におけるターニングポイントとなったモデルを比較試聴した。歴代の銘機がいかにSA-10へと繋がっていったのか、試聴を交えた対談をお届けする。
<今回試聴したディスクプレーヤー>
・試聴モデル1 「SA-10」(2016年発売、現行モデル)
・試聴モデル2 「CD-34」(1985年発売)
・試聴モデル3 「CD-7」(1998年発売)
・試聴モデル4 「SA-1」(2000年発売)
・試聴モデル5 「SA-7S1」(2006年発売)
■マランツのターニングポイントとなったディスクプレーヤーの銘機を聴く
貝山氏 「SA-10」は、私が審査員を務める『オーディオ銘機賞』の昨年の審査会においてもその音質が大いに評価されました。マーケットにおいても、オーディオファンから高い支持を得ていると聞いています。
澤田氏 ありがとうございます。おかげさまでSA-10は、メディアからもオーディオファンの皆様からも素晴らしいご評価をいただきました。
貝山氏 SA-10は価格が税抜60万円と、けっして安い製品ではありません。しかし100万円を超えるセパレート型プレーヤーと比較してもそれに勝るサウンドを備えています。60万円という価格はむしろお買い得といってもよいくらいです。
澤田氏 一体型プレーヤーでここまでのパフォーマンスを実現したものは、これまでの歴史を見てもそうはないと自負しています。CDが登場したのは1982年ですから、マランツのCDプレーヤーにはすでに35年の歴史があることになります。SA-10には様々な技術が盛り込まれていますが、キーになる要素は、歴代のモデルで培われてきたものが多々あるのです。そして、CDプレーヤーについてはその流れが比較的に整理しやすいと言えます。アンプとなると、歴史が長くなることもあって収集がつかなくなってしまいます(笑)。
貝山氏 SA-10はマランツの、あるいはCD再生の歴史を集約したモデルと言ってよいはずです。こうした傑作がひとつ登場することには大きな意義があって、この成果はきっと上位モデルにも下位モデルにも展開されていくはずと期待しています。
澤田氏 SA-10の最大のキーポイントは、やはりディスクリートDACです。ただしSA-10もディスクリートDACも唐突に実現できたわけではなく、ここに用いられた技術はマランツのCDプレーヤーの歴史上で必然的に開発され、今に至るまで積み上げられてきたものです。
スタートラインまで遡っていけば、フィリップス傘下の時代にまで至ります。今日はターニングポイントになったモデルの音を聴きながら、いかにしてSA-10にまで至ったのか、マランツの歴史をご一緒に振り返っていけたらと思います。
■ディスクリートDACもマランツの技術の歴史の上に完成した
試聴モデル1
SA-10
2016年発売(現行モデル) ¥600,000(税抜)
澤田氏 それではまずリファレンスとして「SA-10」の音を一度確認していただきましょう。アンプはマランツの「PM-10」、スピーカーはB&W「800 D3」で統一します。この後の聴き比べは、バランス入力があるモデルはバランスで、ないものはアンバランスで接続して聴いていきたいと思います。
貝山氏 リファレンスディスクには、渡辺玲子『AIR & DANCE on VIOLIN』(SACDハイブリッド)と、チャック・マンジョーネ『サンチェスの子供たち』(CD)を用意しました。今日は厳密な比較テストとはまた異なると思いますので、CD専用機ではSACDのCD層を聴いていきましょう。
◇
貝山氏 改めて聴いてみて、SA-10の音はやはり素晴らしいです。
私がオーディオの音質を評価するときに主に重視しているポイントが3つあります。まず、低音と高音のエネルギーバランスが整っているか。次に解像度の表現と力感の表現のバランスが取れているか。そして近年のオーケストラサウンドの特徴である低音域の締まりの良さと力感が両立できているかです。それがチェックできるディスクとして、今回2枚のディスクを再生したわけですが、SA-10が3つのポイントを高い水準でクリアしていることに感心しました。
澤田氏 ありがとうございます。
貝山氏 『AIR & DANCE on VIOLIN』では低音と高音のエネルギーバランスを確認したのですが、この点はプレーヤーのアナログ回路の影響が大きく現れてくる部分です。
高解像度と力感の両立、低音の締まりと力感については主に『サンチェスの子供たち』で確認しましたが、こちらも見事です。後者については現代オーディオにおいても難しいポイントなのですが、SA-10はオーケストラの低域の力感と締まりを両立させています。以前にSA-10で『展覧会の絵』(アンドレア・バッティストーニ指揮、東京フィルハーモニー交響楽団)を聴いたときにも、この点で感心したのをよく覚えています。
このようなサウンドを実現できたのは、やはりディスクリートDACの存在が大きいかと思います。そして、DACやドライブを買ってきて組み上げるだけというやり方を続けていたら、ディスクリートDACを独自に組み上げるなんてことはできなかったはずです。
澤田氏 そうですね。私はCDが登場したちょうどその頃からマランツのHi-Fiに携わってきたわけですが、今日に至る流れを振り返って思うことがあります。それは、それぞれの時代で取り組んできたことの意味を、その当時は自分たちでさえ理解しきれていなかったこともあったということです。後から振り返って、はじめて「こういうものだったのか」とわかるということが、実はけっこうありました。
貝山氏 それは興味深いお話です。振り返ってみて、その本当の成果が見えてくることがあるということですね。
澤田氏 はい。今日はそのあたりも踏まえつつ、各プレーヤーの音を聴いていただけたらと思います。私もこうして一堂に過去のモデルを聴き直す機会というのは稀なので、楽しみにしてきました。それではここから、過去のモデルにつなぎ替えてお聴きいただきましょう。
貝山氏 私も先ほど挙げた3つのポイントに特に着目して、各モデルを聴いていきたいと思います。
今回、オーディオ評論家・貝山知弘氏が、マランツの歴代プレーヤーに深く携わってきた前サウンドマネージャーの澤田龍一氏と共に、SA-10と、マランツのCD/SACDプレーヤーの歴史におけるターニングポイントとなったモデルを比較試聴した。歴代の銘機がいかにSA-10へと繋がっていったのか、試聴を交えた対談をお届けする。
<今回試聴したディスクプレーヤー>
・試聴モデル1 「SA-10」(2016年発売、現行モデル)
・試聴モデル2 「CD-34」(1985年発売)
・試聴モデル3 「CD-7」(1998年発売)
・試聴モデル4 「SA-1」(2000年発売)
・試聴モデル5 「SA-7S1」(2006年発売)
■マランツのターニングポイントとなったディスクプレーヤーの銘機を聴く
貝山氏 「SA-10」は、私が審査員を務める『オーディオ銘機賞』の昨年の審査会においてもその音質が大いに評価されました。マーケットにおいても、オーディオファンから高い支持を得ていると聞いています。
澤田氏 ありがとうございます。おかげさまでSA-10は、メディアからもオーディオファンの皆様からも素晴らしいご評価をいただきました。
貝山氏 SA-10は価格が税抜60万円と、けっして安い製品ではありません。しかし100万円を超えるセパレート型プレーヤーと比較してもそれに勝るサウンドを備えています。60万円という価格はむしろお買い得といってもよいくらいです。
澤田氏 一体型プレーヤーでここまでのパフォーマンスを実現したものは、これまでの歴史を見てもそうはないと自負しています。CDが登場したのは1982年ですから、マランツのCDプレーヤーにはすでに35年の歴史があることになります。SA-10には様々な技術が盛り込まれていますが、キーになる要素は、歴代のモデルで培われてきたものが多々あるのです。そして、CDプレーヤーについてはその流れが比較的に整理しやすいと言えます。アンプとなると、歴史が長くなることもあって収集がつかなくなってしまいます(笑)。
貝山氏 SA-10はマランツの、あるいはCD再生の歴史を集約したモデルと言ってよいはずです。こうした傑作がひとつ登場することには大きな意義があって、この成果はきっと上位モデルにも下位モデルにも展開されていくはずと期待しています。
澤田氏 SA-10の最大のキーポイントは、やはりディスクリートDACです。ただしSA-10もディスクリートDACも唐突に実現できたわけではなく、ここに用いられた技術はマランツのCDプレーヤーの歴史上で必然的に開発され、今に至るまで積み上げられてきたものです。
スタートラインまで遡っていけば、フィリップス傘下の時代にまで至ります。今日はターニングポイントになったモデルの音を聴きながら、いかにしてSA-10にまで至ったのか、マランツの歴史をご一緒に振り返っていけたらと思います。
■ディスクリートDACもマランツの技術の歴史の上に完成した
試聴モデル1
SA-10
2016年発売(現行モデル) ¥600,000(税抜)
澤田氏 それではまずリファレンスとして「SA-10」の音を一度確認していただきましょう。アンプはマランツの「PM-10」、スピーカーはB&W「800 D3」で統一します。この後の聴き比べは、バランス入力があるモデルはバランスで、ないものはアンバランスで接続して聴いていきたいと思います。
貝山氏 リファレンスディスクには、渡辺玲子『AIR & DANCE on VIOLIN』(SACDハイブリッド)と、チャック・マンジョーネ『サンチェスの子供たち』(CD)を用意しました。今日は厳密な比較テストとはまた異なると思いますので、CD専用機ではSACDのCD層を聴いていきましょう。
貝山氏 改めて聴いてみて、SA-10の音はやはり素晴らしいです。
私がオーディオの音質を評価するときに主に重視しているポイントが3つあります。まず、低音と高音のエネルギーバランスが整っているか。次に解像度の表現と力感の表現のバランスが取れているか。そして近年のオーケストラサウンドの特徴である低音域の締まりの良さと力感が両立できているかです。それがチェックできるディスクとして、今回2枚のディスクを再生したわけですが、SA-10が3つのポイントを高い水準でクリアしていることに感心しました。
澤田氏 ありがとうございます。
貝山氏 『AIR & DANCE on VIOLIN』では低音と高音のエネルギーバランスを確認したのですが、この点はプレーヤーのアナログ回路の影響が大きく現れてくる部分です。
高解像度と力感の両立、低音の締まりと力感については主に『サンチェスの子供たち』で確認しましたが、こちらも見事です。後者については現代オーディオにおいても難しいポイントなのですが、SA-10はオーケストラの低域の力感と締まりを両立させています。以前にSA-10で『展覧会の絵』(アンドレア・バッティストーニ指揮、東京フィルハーモニー交響楽団)を聴いたときにも、この点で感心したのをよく覚えています。
このようなサウンドを実現できたのは、やはりディスクリートDACの存在が大きいかと思います。そして、DACやドライブを買ってきて組み上げるだけというやり方を続けていたら、ディスクリートDACを独自に組み上げるなんてことはできなかったはずです。
澤田氏 そうですね。私はCDが登場したちょうどその頃からマランツのHi-Fiに携わってきたわけですが、今日に至る流れを振り返って思うことがあります。それは、それぞれの時代で取り組んできたことの意味を、その当時は自分たちでさえ理解しきれていなかったこともあったということです。後から振り返って、はじめて「こういうものだったのか」とわかるということが、実はけっこうありました。
貝山氏 それは興味深いお話です。振り返ってみて、その本当の成果が見えてくることがあるということですね。
澤田氏 はい。今日はそのあたりも踏まえつつ、各プレーヤーの音を聴いていただけたらと思います。私もこうして一堂に過去のモデルを聴き直す機会というのは稀なので、楽しみにしてきました。それではここから、過去のモデルにつなぎ替えてお聴きいただきましょう。
貝山氏 私も先ほど挙げた3つのポイントに特に着目して、各モデルを聴いていきたいと思います。
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