【特別企画】ジョン・フランクス氏が語る
CHORDのアンプ技術の核心とは − 航空電子技術の応用で生まれたオーディオ用電源の秘密
ーー こうした電源の技術は、スイッチング電源だからこそ可能なものなのですね。
フランクス氏 その通りです。約30年前にCHORDをスタートしたときから、私はスイッチング電源をアンプに用いていました。ただ、ご存じの通り、オーディオの世界においてはスイッチング電源は悪の象徴のように言われていて、CHORDのアンプを音も聴くこともなしに批判する人さえいました。しかし私はそんな声などまったく意に介さずに、いずれはこのスイッチング電源が認められる日が来るだろうと信じていました。
そして現実に、BBCから声がかかって採用テストが行われ、彼らからCHORDのアンプが賞賛されることになったのです。BBCの技術に対する要求水準は非常に高く、彼らはテストに合格したものしか導入しません。BBCはスイッチング電源であることなど意に介さず、ただそのパフォーマンスだけを評価しました。私にとっても、BBCにCHORDのアンプを導入できたことは大きな自信になりましたし、以降もスイッチング電源の性能をより高めることを今に至るまで考え続けてきました。
ーー 例えばの話ですが、いわゆるアナログ電源では、フランクスさんが目標とする性能を実現するのは難しいのでしょうか。
フランクス氏 アビオニクスの考え方からすると、妥協して2番目の方策を採ることは、いずれ非常にシリアスな問題の原因になります。確実な結果が得られなければ、それを採用することはできません。
私は理想のスイッチング電源を実現させるために、時間をかけることにもコストをかけることにも躊躇しませんでした。ただ、根拠のない批判に心を痛めることもありました。しかし、自分の考えを信じて今日まで続けてきたことは間違っていなかったと思います。
ーー スイッチング電源については、電源自体が発するノイズが問題として取りあげられますが、CHORDの電源の場合はどうですか。
フランクス氏 CHORDのスイッチング電源は、トランスを使った電源と比較してもノイズは少なく、そのノイズレベルは測定できないくらい低いです。D/Aコンバーターの「DAVE」もスイッチング電源を使っているのですが、本機では-150dBというS/Nを実現していいます。
スイッチング電源をノイズと結び付ける考え方は、もう過去のものだと忘れていただきたいですね(笑)。むしろオーディオ特性という点では、スイッチング電源を用いないと到達できない領域があります。
ーー フランクスさんは40年後になってアビオニクスの考え方がより一般的な領域にまで浸透してきたということをおっしゃいました。それはオーディオにおけるスイッチング電源についても同じことが言えるのかと。Hi-Fiオーディオの領域でもスイッチング電源を採用する例はますます増えていますし、その点ではCHORDが先行してきたのだと思います。
■通常使用領域ではクラスAで動作。専用に製造されたMOSFETを採用
ーー ちなみにアンプの動作はどのような方式になっているのでしょうか。
フランクス氏 アンプセクションは、ほとんどの通常使用中にクラスAで動作するクラスABスライディングバイアス設計を採用しています。出力段のMOSFETは、CHORD専用に開発された特別なデバイスが用いられています。
ちなみに、パワーデバイスには基本的に2つの種類があります。ひとつはバイポーラ・トランジスターで、もうひとつがMOSFETです。バイポーラ・トランジスターは多くのハイエンド製品で用いられていますが、これはいわばスイッチのような回路で「オン」と「オフ」の切り替えが伴います。このオン/オフの時間差が、オーディオにおける過渡時間に悪影響を与えます。この点はMOSFETの方が有利です。
CHORDのアンプの出力段は、かつては航空宇宙産業に携わっていた英国の半導体製造工場によって専用に開発・製造されたMOSFETを核として設計されています。このMOSFETはアンプの効率と安定性を大幅に向上させるという利点を備えています。またこのMOSFETは常に改良が続けられいて、現在使用されているMOSFETは第5世代となります。