【特別企画】2機種の製品レビューも
64 AUDIO ファウンダーに聞く、新ユニバーサルIEM「tia Trio」「U12t」に搭載された最先端技術の秘密
■tiaテクノロジー追加で進化を遂げた12BAドライバー搭載イヤホン「U12t」
もう一つの新製品である「U12t」についても、ヴィタリー氏が特徴を語ってくれている。本機はU12の後継機であり、型番の末尾に付けられた「t」は「tiaテクノロジー」を採用するイヤモニにアップデートされたことを意味している。
ヴィタリー氏は、『完全に新しいサウンドにリニューアルするよりも、U12/A12はともに高い評価を得ていたイヤモニだったので、それぞれの良い部分を残しながら進化を遂げるべきと判断してtiaテクノロジーの追加を決めた』と企画意図を振り返っている。全部で12基のマルチBA型ドライバーを搭載している点はU12と変わらないが、tiaドライバーを組み込んだことで全体のドライバーレイアウトには手を入れた。
前機種は低・中・高域に4基ずつの組み合わせだったが、U12tでは「低域×4/中域×6/中高域×1/高域×1」という変則的なコンビネーションとしている。ヴェロノシュコ氏はマルチドライバーのイヤモニをチューニングする際には「ドライバーの個性を熟知して、最も良い組み合わせを見つけることが大事。ドライバーの数はあまり大きな問題ではない」と解説する。
複数のドライバーが出力した音を1本の大口径の音導孔に導く「シングルボア設計」は、本機のサウンドチューニングにも一役買っている。高域には不要な共振を抑えてリニアリティを高めた、tiaテクノロジー採用のオープンBA型ドライバーを乗せた。
さらにU12tとtia Trioには、スマホにハイレゾDAP、ポタアンなど出力インピーダンスが様々に異なるソース機器につないでも、イヤモニの音のバランスが影響を受けないように「LID(Linear Impedance Design)」という、現在特許出願中の新技術も搭載する。本機のapexテクノロジーのモジュールは着脱交換が可能なタイプだ。
外観はU12から大きく変わった。アルミ製のシェルにアノダイズド加工による薄いパープルの着色を施して高級感を持たせた。『よりモダンなルックスに仕上げてみました』とヴィタリー氏は会心の笑みを浮かべる。メタルハウジングについてはチューニングがしやすく、メンテナンス性が高いところをメリットとして強調している。今後も64 AUDIOのハイエンド機を中心に継続して採用されることになりそうだ。
本機の音も付属するケーブルとイヤーチップの組み合わせで聴いた。原田知世の「恋愛小説2」から『September』では、声の透明感と、やや細めながらもしなやかな強さと立体感のあるボーカルの輪郭線に強烈なインパクトを受けた。声の質感がきめ細かく、暖かな毛布にくるまれているような、ふくよかでしっとりとした余韻が楽しめる。音の繋がりがとてもスムーズでバランスも良く、平面型のイヤホン・ヘッドホンで音楽を聴いているような手応えもあった。
上原ひろみのピアノトリオによるアルバム「SPARK」から『Wonderland』では、3つの楽器が一体感溢れるアンサンブルを展開する。ピアノのメロディが伸びやかにうたい、エレキべースやドラムスの張りのある軽快なリズムが足元を安定させる。低音の沈み込みは鋭くキレがある。奥行きの見晴らしが深い。楽器の音色がとてもナチュラルでリアリティに富んでいる。
同じ曲をtia Trioで聴くとバイタリティと躍動感を前面に押し出してくるが、U12tのサウンドからは透明度の高さと芯の強さが伝わってきた。