グローバルブランドとしての矜持
BenQ台湾本社を訪ねて知った、DLPプロジェクター世界トップシェアの“強さ”の秘密とは?
DLPプロジェクターで世界ナンバーワンのシェアを誇るBenQ。2018年2月に発売した4K/HDR対応の「HT2550」は、コンパクトさと税込み198,000円という身近な価格を実現して話題になっている。プロジェクター市場において久々の大ヒット商品になりそうだ。
筆者は既に記事「BenQ “20万円切り”4K/HDR DLPプロジェクター『HT2550』の実力をチェックした」でレビューを行ったが、デザイン、質感、操作性、画質といったクオリティー面でも感心する部分が多く、大いに興味を持った。
そこで今回は、BenQ台湾本社を訪問し、製品に携わったエンジニア達にインタービューを敢行。HT2550を含めたBenQ製品の“強さ”の秘密を探った。技術面での疑問についてもエンジニアから回答が得られたので、この場で共有したい。
■BenQ台湾本社を訪問
BenQはコンピューター産業の発展を支えた台湾製造業の流れを汲み、その本社は台北松山空港にほど近い、世界に名を馳せるハイテク企業が集積するオフィス街(内湖科学園区)に位置する。重厚なビルからも、さすがはグループ全体で200億USドル(日本円換算で約2兆円)以上の売上げを誇るグローバル企業だと感じさせる。
1階は広大なロビーの横にカフェを備えるが、単なるショップではなく、メニュー表示や壁面広告に、BenQのサイネージ製品が組み込まれている。リアル体験型のデモスペースであり、合理性の高さは同社の製品に通じるものを感じる。他にも製品を陳列したデモルームが併設され、今回は主に、その一角にあるプレゼンスペースでお話を伺った。
■「こんな製品が欲しかった」を実現する、ライフスタイルデザインセンター
筆者がBenQ製品に触れ、いつも魅力を感じるのは、手頃な価格を押し出しつつも、決して “安物” ではないことだ。
フルHDモデルとして世界的大ヒットとなった「W1070」以降、デザインの洗練度には目を見張るものがあり、さらに表面仕上げの美しさや、パーツ同士の隙間が目立たない精巧さ、GUIの構成やグラフィックスの出来映え、ストレスを感じない操作レスポンスの素早さなど、細部まで配慮が行き届いていることには感心しきりだ。
筆者はAV機器メーカーで商品開発に携わった経験があるが、BenQ製品の完成度の高さにはいつも唸らされ、何か特別な秘密があるように感じていた。
そうした中で、過去の取材を通じて知ったのが、同社が「ライフスタイルデザインセンター」(以降、LDC)と呼ぶ部署の存在である。これが今回、同社台湾本社を訪れたいと思ったきっかけでもある。
今回は、そのLDCでAssociate Director(参事)を務めるPaul Zhu氏とWayne CC Chen氏から話を聞くことができた。
■LDCの存在と担う役割
LDCは単に製品の外観を理想的に美しく描く「デザイン」ではなく、研究開発的な要素を含んでいるのが特徴だ。デザイナーは、開発する製品の利用シーンを想定してユーザー調査を行い、それぞれの製品に応じた「使い勝手の良さ」の研究からスタートする。つまり最終的なデザインがつくられる過程には、ユーザー本位の機能性も含まれているというわけだ。
たとえばゲーミング用モニターの場合、当初はゲームの世界観をイメージさせる装飾を考えていたものの、実際にユーザーの利用状況を確認していくと、派手な装飾よりモニター下部にスペースを設け、キーボードやマウスをストレスなく扱えることが最も重要だと気付いたという。そうした観点を織り込んでデザインされた製品は、ユーザーから好評を得て、販売面でも成功を収めている。GUIの開発も同様で、メニューの構造設計に認知心理学を採り入れるなど、研究の成果が詰め込まれている。これが「直感的に操作できる」理由だろう。
また一般的に開発過程では、デザイナーの「理想」と量産設計で無視できない「合理性」が衝突するものだが、BenQではプロジェクトリーダーを中心に、十分な時間を掛けて話し合うという。妥協を少なく、ユーザー本位のより良い製品に仕上げる努力も、BenQ製品の強さを支えている秘訣だと感じた。
HT2550を例に、製品の検討過程について具体的に解説頂いた。起点と言える製品コンセプトは「メロウな家電感」。美しいリビングをターゲットに、機器を目立たせず、インテリアに溶け込む自然な存在であることや、空間と違和感が無く、家具のような親しみやすさも重視した結果、「落ち着いた曲線」と「色」が基本となった。デザインの発想が “ヒト” や “暮らし” に根ざしているのは興味深い。
「落ち着いた曲線」をどう具現化するかでは、詰め込むべきパーツでおおよその容積を見積もり、曲線の表現を検討。合理性だけでなく、製品コンセプトに沿ってデザインを優先する。イラストやCGでデザイン案を多数作成し、デザインの方向性を詰めて行き、HT2550のデザインを最終的に3つに絞り込み、精密なCGで検討した後決定したという。
自社でモックアップスタジオ(模型制作部門)を所有しており、3Dプリンターや工作機器を活用して、実寸大の形状サンプル(モックアップ)をスピーディーに数多く作成することにより、洗練度を高める体制も整えている。
パーツの嵌合部は、隙間の間隔に配慮。試作を繰り返して隙間が小さくなるように追い込む。こうした地道な作り込みが、製品の品位を昇華させる原動力なのだ。
GUIにも注力。単に機能を網羅するだけではなく、過去の経験と新たな研究から、使いやすさの向上を求めて継続的に改善を行っている。旧来のメニューに加え、近年では、開梱時に設置設定を一通りナビゲートしてくれる「Setup Wizard」、映像再生中に利用する機能をまとめたシンプルな「Playback UI」、詳細設定をアイコンベースで分かりやすく整えた「Setting UI」を追加した。
また入力一覧では、各端子に機器が接続されているか否かを示す仕組み「Plug in and play」が加わっている。購入前には便利さが想像しづらい機能だが、毎日の利用で確実に使いやすさの差として現れる。BenQの良心を感じる部分だ。
筆者は既に記事「BenQ “20万円切り”4K/HDR DLPプロジェクター『HT2550』の実力をチェックした」でレビューを行ったが、デザイン、質感、操作性、画質といったクオリティー面でも感心する部分が多く、大いに興味を持った。
そこで今回は、BenQ台湾本社を訪問し、製品に携わったエンジニア達にインタービューを敢行。HT2550を含めたBenQ製品の“強さ”の秘密を探った。技術面での疑問についてもエンジニアから回答が得られたので、この場で共有したい。
■BenQ台湾本社を訪問
BenQはコンピューター産業の発展を支えた台湾製造業の流れを汲み、その本社は台北松山空港にほど近い、世界に名を馳せるハイテク企業が集積するオフィス街(内湖科学園区)に位置する。重厚なビルからも、さすがはグループ全体で200億USドル(日本円換算で約2兆円)以上の売上げを誇るグローバル企業だと感じさせる。
1階は広大なロビーの横にカフェを備えるが、単なるショップではなく、メニュー表示や壁面広告に、BenQのサイネージ製品が組み込まれている。リアル体験型のデモスペースであり、合理性の高さは同社の製品に通じるものを感じる。他にも製品を陳列したデモルームが併設され、今回は主に、その一角にあるプレゼンスペースでお話を伺った。
■「こんな製品が欲しかった」を実現する、ライフスタイルデザインセンター
筆者がBenQ製品に触れ、いつも魅力を感じるのは、手頃な価格を押し出しつつも、決して “安物” ではないことだ。
フルHDモデルとして世界的大ヒットとなった「W1070」以降、デザインの洗練度には目を見張るものがあり、さらに表面仕上げの美しさや、パーツ同士の隙間が目立たない精巧さ、GUIの構成やグラフィックスの出来映え、ストレスを感じない操作レスポンスの素早さなど、細部まで配慮が行き届いていることには感心しきりだ。
筆者はAV機器メーカーで商品開発に携わった経験があるが、BenQ製品の完成度の高さにはいつも唸らされ、何か特別な秘密があるように感じていた。
そうした中で、過去の取材を通じて知ったのが、同社が「ライフスタイルデザインセンター」(以降、LDC)と呼ぶ部署の存在である。これが今回、同社台湾本社を訪れたいと思ったきっかけでもある。
今回は、そのLDCでAssociate Director(参事)を務めるPaul Zhu氏とWayne CC Chen氏から話を聞くことができた。
■LDCの存在と担う役割
LDCは単に製品の外観を理想的に美しく描く「デザイン」ではなく、研究開発的な要素を含んでいるのが特徴だ。デザイナーは、開発する製品の利用シーンを想定してユーザー調査を行い、それぞれの製品に応じた「使い勝手の良さ」の研究からスタートする。つまり最終的なデザインがつくられる過程には、ユーザー本位の機能性も含まれているというわけだ。
たとえばゲーミング用モニターの場合、当初はゲームの世界観をイメージさせる装飾を考えていたものの、実際にユーザーの利用状況を確認していくと、派手な装飾よりモニター下部にスペースを設け、キーボードやマウスをストレスなく扱えることが最も重要だと気付いたという。そうした観点を織り込んでデザインされた製品は、ユーザーから好評を得て、販売面でも成功を収めている。GUIの開発も同様で、メニューの構造設計に認知心理学を採り入れるなど、研究の成果が詰め込まれている。これが「直感的に操作できる」理由だろう。
また一般的に開発過程では、デザイナーの「理想」と量産設計で無視できない「合理性」が衝突するものだが、BenQではプロジェクトリーダーを中心に、十分な時間を掛けて話し合うという。妥協を少なく、ユーザー本位のより良い製品に仕上げる努力も、BenQ製品の強さを支えている秘訣だと感じた。
HT2550を例に、製品の検討過程について具体的に解説頂いた。起点と言える製品コンセプトは「メロウな家電感」。美しいリビングをターゲットに、機器を目立たせず、インテリアに溶け込む自然な存在であることや、空間と違和感が無く、家具のような親しみやすさも重視した結果、「落ち着いた曲線」と「色」が基本となった。デザインの発想が “ヒト” や “暮らし” に根ざしているのは興味深い。
「落ち着いた曲線」をどう具現化するかでは、詰め込むべきパーツでおおよその容積を見積もり、曲線の表現を検討。合理性だけでなく、製品コンセプトに沿ってデザインを優先する。イラストやCGでデザイン案を多数作成し、デザインの方向性を詰めて行き、HT2550のデザインを最終的に3つに絞り込み、精密なCGで検討した後決定したという。
自社でモックアップスタジオ(模型制作部門)を所有しており、3Dプリンターや工作機器を活用して、実寸大の形状サンプル(モックアップ)をスピーディーに数多く作成することにより、洗練度を高める体制も整えている。
パーツの嵌合部は、隙間の間隔に配慮。試作を繰り返して隙間が小さくなるように追い込む。こうした地道な作り込みが、製品の品位を昇華させる原動力なのだ。
GUIにも注力。単に機能を網羅するだけではなく、過去の経験と新たな研究から、使いやすさの向上を求めて継続的に改善を行っている。旧来のメニューに加え、近年では、開梱時に設置設定を一通りナビゲートしてくれる「Setup Wizard」、映像再生中に利用する機能をまとめたシンプルな「Playback UI」、詳細設定をアイコンベースで分かりやすく整えた「Setting UI」を追加した。
また入力一覧では、各端子に機器が接続されているか否かを示す仕組み「Plug in and play」が加わっている。購入前には便利さが想像しづらい機能だが、毎日の利用で確実に使いやすさの差として現れる。BenQの良心を感じる部分だ。