グローバルブランドとしての矜持
BenQ台湾本社を訪ねて知った、DLPプロジェクター世界トップシェアの“強さ”の秘密とは?
■DMDデバイスで4Kを実現する技術詳細
HT2550の特徴は、4K/HDRプロジェクターとしては最も手軽な価格とコンパクトな筐体を実現している点だが、その根源は、フルHD解像度のDMDデバイスを用い、画素ズラしによって4K解像度を得ていることが最大の理由と言って良い。
「なるほど!」と言いたいところだが、疑問も残る。「そんなに都合良く本物の4K解像度が得られるのか?」というものだ。
もちろん答えは「Yes」。CTA(全米民生技術協会)が定めた基準を満たしているとのことで、「830万画素の高解像度」を謳っている。
しかし、筆者としては今ひとつ納得できないので、プロダクトマネージャーRay YJ Tsai氏と技術管理マネージャーEric HC Tsai氏に技術詳細を伺った。
基本は、DMDデバイスを一手に供給するテキサスインスツルメンツ(TI)社の技術。「XPR UHD Technology」と称し、0.47インチのフルHD(1,920x1,080画素)DMDデバイスで、4K映像の1フレームをフルHD解像度の4枚に分解し、可動式の光学レンズで素早く上下左右にズラして、1フレームあたりの時間で「合計4K」に見せる。実際に上級機「HT8050」で使用されている可動式レンズを見せてもらって合点が行った。もちろんDMDデバイスも光学レンズも、恐ろしく高速かつ精密に動かないと、本物の4K解像度は得られないだろう。
Tsai氏によると、DMDは非常に高速な動作が可能で、60Hzの4K映像なら、フルHDのDMDデバイスは240Hzで描画する必要があるが、10bit表示も問題無いという。実際の映像も、バンディングなどは見られず、DLP方式は確かに有利なようだ。残像が少なく動画解像度の高さも考えると、DLPは非常に優れた方式と再認識させられた。
■正確な色「CinematicColor」へのこだわり
4K/HDRとは直接関係ないが、今回の取材を通じて痛感したのは、BenQの色再現に対するこだわりである。
日本では、電器店の店頭に並んでいるテレビを眺めると、最適な色味で映っていることはまず無い。隣に並ぶ競合製品よりも「キレイ」に見せようと、鮮やかに調整されているケースが多いからだ。家庭用の「標準」モードも、多くの製品は色温度が高めで、色も派手気味な製品が多い。
「キレイに見える」のも悪くないが、映画作品の場合、色には制作者の意図が込められていて、心情やストーリーを正しく理解する上で、「正確な色再現」が何より重要だ。
例えば、グリーン調で非現実感を表現した『マトリックス』を、記憶色に合わせてしまうと、気分は現実の世界に引き戻され、全てが台無しになってしまうのである。
BenQでは、「CinematicColor」と命名し、多くの製品でRec.709に準拠、一部の広色域対応モデルではDCI-P3準拠を謳うなど、制作基準に沿うことを重視している。目立つために派手を装うのではなく、「正しい映像=良い映像」という考え方だ。これは世界基準では当たり前なのだが、日本では浸透していないのが実情で、重要なポイントである。
またBenQの「CinematicColor」は、精度にこだわっていることも見逃せない。DMDプロジェクターで色を左右するカラーホイールは、BenQの場合、色精度にこだわって独自品を採用している。
モデルごとにソフトフェアによる最適化はもちろん、製造工程で1台つづ検査とキャリブレーションを行う徹底ぶりで、HT2550もΔ3(一般的なヒトの目で区別できない色の差)を謳っている。
このような規格に沿った高精度な色を、開梱後に映像モード「Cinema」を選択するだけで得られる簡単さもBenQ流。さらに、DLP方式は経時変化が少なく、長く正確な色を保てるというのも、BenQがDLP方式にこだわる理由という。
見栄えよりも「正確な色」を目指すのは、グローバルブランドとしては自然な姿に思えるが、BenQのこだわりと良心を感じる部分だ。
まず多くのユーザーが購入を検討したくなる身近な価格を実現しつつ、製品はしっかり作り込まれていて、画質もワールドワイドな考え方に沿った一級品。世界で有力なデザインアワードを続々と獲得しているスタイルの良さも嬉しい。
HT2550は、4K/HDRのスクリーン大画面を今すぐ始めたい入門者にピッタリの1台と言える。
余談だが、BenQのロゴが紫色なのにも理由がある。実は、情熱的な感性を現す「赤」と、理性(技術)を現す「青」を融合させる願いが込められていているとのことで、奥深さに感心した。この記事でBenQ製品の成り立ちや、少し違った一面が伝わったら嬉しいことだ。
(鴻池賢三)