伝説のアイドルを現代最先端の技術で
Wink結成30年を経て登場した“オリジナル・マスタリング” UHQ-CD、その制作背景に迫る
オリジナルに忠実でありながらも、あくまで「いまの音」の水準へと引き上げる。そこには当然最新のデジタル技術が活用されているわけだが、実はマスタリングにおける伝送経路など、アナログ的な部分も重要な意味を持っている。
小林「当然、アウトボード類は使っています。ただそれは、あくまで最終段階の「トリートメント的に」ということですね。おそらく、前回と大きく違っているのは、最終段で通常リミッターとかを入れていたんですけど、今回はこれを使っていないということですね。通常はADされたアナログの信号はもう一度DAして、EQを通ってコンプを通って、それからリミッターという流れで取り込むんです。だから終段がリミッターになるんですね。だけど今回はそれをやっていない。これらはあくまで、送り出しのDAWの方でやっています。ただ、EQとコンプはとりあえず経路として入れてあって、かる〜く掛けているという感じです。これによってアナログ機器独特の艶なんかが入るんです。もちろん、そこに使うワイヤリングも重要で、いまはEQの前後にオヤイデのケーブルを使っています。今回、Winkのアルバムマスタリングを始めるにあたり、まず基本的な音質を決めるべく、エフェクターとケーブル選択に少々迷走していたんです。そんな時、オヤイデ電気からケーブルをご協力いただいて比較検討をした後、純銀の導体を採用した「AR-910」というケーブルをアナログラインへ使用することを決めました。AR-910は、高域全体が滑らかに拡がり、また質感も素晴らしい。Winkの、なんとなく胸をくすぐられるようなかわいらしい歌声にはピッタリだと感じました。今回のことで、マスタリングにおいてケーブルの持つ質感が大切なことを再認識しましたね」。
中澤 「今回、ほぼ全曲のリマスタリングを行いましたが、音楽的にも色褪せていないこと、それと改めて作家布陣の素晴らしさも含めての“Winkサウンド”に脚光を当てるための作業に集中しました。小林さんとは何度もサウンドの方向性を打ち合わせて、テクニカルな面についてもやり取りをした結果、オヤイデケーブルに辿り着いたということです。ちなみに仕上がった音源は、もちろんまず自身のオフィスで試聴するのですが、この時の音をJVCマスタリングセンターに少しでも環境を近づけるため、オヤイデケーブルを採用したんです。明らかに音の届き方が変わったので、サウンドを判断するポイントが良く見えるようになりました」。
こうした現在ならではのテクノロジーや環境、そして長年のマスタリングの経験に基づく小林氏の感性の共存こそが、オリジナル・リマスターUHQ-CDの特徴ともいうことができる。小林氏によれば、ある時期の音源に関してはマスタリングという行為自体に、当時との決定的な違いがあるそうだ。
小林「Winkの全盛期には、リミッターというものはなかったんですね。そもそもCDがでた当時は、その優位性を「広大なダイナミックレンジ」ということを売りにしていた。アナログレコードは60dBあるかないかで、それがCDだと90dB。ただし記録できる範囲はデジタルで定義されているので、低域高域が四角くくっきり出るということもある種の特徴でした。こうした部分に当時はみんな新鮮さを感じて、カッティングなどに使うマザーを、そのままCDに記録していた時期があるんです。でも、アナログはそのままだと入らないので、いやでもコンプをかけてEQで調整していた、というのがマスタリングだったんです。だから当時のCDは、ミックスの段階で良いものであれば、マスタリングしていないことが多かったんです。それが後々、「音はクリアなんだけど、ちょっと音が小さいんじゃないか」といったように言われるようになった理由にもなっていると思います」