【特別企画】山之内正氏と同社代表が語り尽くす
<対談>DELAはネットワークオーディオをいかに変えたのか? 参入から「N10」登場までをふり返る
荒木 2012年にバッファローは新規事業としてオーディオ事業を立ち上げました。この事業の担当になったのを機に、話だけでも伺わせてほしいとメーカーや販売店を回るようになったのです。まずはユーザーや販売店のみなさんがどんな問題を抱えているのかを把握することから始めました。
その中で、再生する曲順やカバーアートの解像度の問題もわかってきました。いずれもNASに起因するもので、そうなると解決できるのはNASのメーカーだけです。こうした状況は、バッファローが本格的にオーディオに取り組む後押しになりました。
山之内 周辺機器メーカーは多数ある中で、バッファローが先陣を切り対応に乗り出したことは高く評価できます。実際、バッファローのこうした取り組みは、ユーザーの立場としても心強かったです。
ネットワークオーディオのためのNASを実現
■バッファロー初のオーディオ専用NASが登場
山之内 このようにしてネットワークオーディオへの取り組みを開始したバッファローは、2013年6月に初のオーディオ専用NAS「LS421」を発売しました。本機は世界初のDSD対応NASとしても注目を集めました。
荒木 この時点で後のDELA「N1Z/N1A」「N10/N100」*のような製品の構想はすでにありましたが、専門店やユーザーの要望を元に今できることを考えた結果、最初に実現させたのがLS421でした。商流の調整も行い、LS421はオーディオ専門店で扱っていただくことができました。
その仕様も、DLNAサーバー以外の機能を出荷時点からオフにしたり、RAIDもよりシンプルなミラーリングを出荷時設定にするなどオーディオ用途を考慮したものとしました。これまでパソコン周辺機器であることを前提に作られていたパッケージやマニュアルの見直しも行いました。
山之内 LS421の登場にあたっては、ネットワークオーディオ向けのNASにおけるTwonkyMedia Serverの実績もアピールされました。TwonkyMedia Serverは、現在でもネットワークオーディオの標準となるサーバーソフトで、N1Z/N1Aにも採用されています。
荒木 バッファローは、最初にNASを手がけたときからサーバーソフトにTwonkyMedia Serverを使っていました。これは他社にはないアドバンテージになりました。Twonkyを手がけるパケットビデオ*社とは顧客として長い関係があったので、同社に働きかけて様々な修正をしてもらうことができたのです。オーディオメーカーが要望を通すことは、直接の顧客ではないので難しいですよね。
■NASで音質が変わるという事実に直面する
山之内 DSD対応については、実現にあたってハードルはありましたか。
荒木 当時、DSDはネットワーク配信できないという話になっていましたが、技術的な観点からすると DSD が配信すべき音楽ファイルと見なされていないだけの話で、この点はパケットビデオ社と話ができる関係があったので比較的容易に実現できました。
山之内 ただし、LS421はまだあくまでパソコン用NASをベースとした製品でした。ファンレスでもありませんでした。
荒木 はい。ただし、回転をゆっくりにする制御を行い、ファンの大口径化も行うことで静音性には配慮しました。
このLS421は試作の段階からオーディオメーカー様やオーディオ専門店に持ち込んで意見を聞いていたのですが、専門店での試聴イベントで他社のNASと比較されることがあり、そこで来場されたお客様の前で、ネットワークプレーヤーの音はNASによって変わるという実態が明らかになりました。
山之内 NASで音が変わるということに、ここで改めてクローズアップされたわけですね。
荒木 データは同一という前提なので、データ以外の支配力が大きいことがわかったのです。同じ時期にUSB伝送やLAN伝送について様々な実験を行っていましたが、IT的な常識なら「音が変わるはずがない」という場面で、良し悪しは別として音が変わることがわかってきました。音が変わる理由がわからないと先には踏み込んではいけないし、音が変わるのであれば良い方向に変えていきたい。そういうモチベーションも高まっていきました。
山之内 そこからいよいよ、さらに先へと踏み込んでいく決断をするわけですね。音の話にまでなったら、それはもうオーディオメーカーに片足を踏み入れたようなものですから。
■ハブなどのネットワーク周辺機器にも取り組む
山之内 DELA登場の以前から、バッファローはNAS以外の周辺機器にも取り組みました。スイッチングハブもそのひとつです。
荒木 2013年の「音展」で、ネットワークオーディオにお薦めのバッファロー製品を展示しようということになり、当社のスイッチングハブを集めてどのモデルがお薦めできるか比較試聴を行ったのです。目星を付けていたものは別にあったのですが、聴き比べてみると、電設事業などに使う業務用ハブの音が高評価だったのです。そもそも店頭では入手しにくい製品だったのですが、パッケージや流通も変えて、オーディオ向けモデル「BSL-WS-G2108M/A」としてラインナップしました。
次ページオーディオブランドDELAが誕生。オーディオ専用NASの可能性を突き詰めた「N1Z」