開発者インタビュー<前編>
物量も技術もケタ違いのポータブルプレーヤー。ソニー「DMP-Z1」の中身はもはやハイエンドオーディオだった
この4連ボリュームのベースになったのはアルプス電気の「RK501」という部品だが、ケースをアルミに変えたり、真鍮とアルミを組み合わせたりと、いくつかの試作を経て再び真鍮製に戻した経緯がある。
さらに銅メッキと金メッキを重ねる工程を増やし、最終的なカスタム仕様のボリュームが完成した。2種類のメッキを施すことで音の艶や高域の伸びがよくなったというが、そのプロセスはハイエンドオーディオのモノ作りのアプローチとほとんど共通する。いまは専業メーカーでもそこまでこだわる例は少なくなってしまったが、追い込めばそれだけの結果が出るという事実は注目に値する。
なお、4連ボリュームの本体を外側から見えるようにする予定は当初なかったというが、その存在感にデザイナーが注目し、あえて見せることにしたのだという。
デュアルDAC構成
■4497EQをL/R独立搭載で驚異的なセパレーションを実現
最後の注目ポイントはDACに旭化成エレクトロニクス(AKM)の「4497EQ」を採用したことである。ウォークマンは同社のデジタルアンプ「S-Master HX」を採用しているのに対し、本機はアナログアンプ構成を選んでいるため、オーディオ回路の入口に高性能のDACが不可欠となる。
社内の他の部署にも相談しながら各社のDACを検討した結果、複数の選択肢から最終的に選ばれたのが4497EQだった。佐藤氏は「DMP-Z1のコンセプトに一番合っていたのが4497EQでした。澄み切った音と同時に低域に力があることが決め手になりました」と振り返る。
4497EQを左右各1個ずつ採用する手法はたとえばリンのKATALYSTやエソテリックのSACDプレーヤーなど、ハイエンドクラスのデジタルプレーヤーに例があるが、かなり贅沢なアプローチであることは間違いない。そこまで踏み込んだ理由は、デジタルアンプのS-Master HXに匹敵するセパレーションをアナログアンプで確保することだという。DACをデュアル構成で積み、オーディオ回路もバランス構成で4連ボリュームを通すという最も規模が大きくなる構成で組み、音質面での妥協を避けたのである。
なお、S-Master HXを採用しなかったのはハイインピーダンス仕様のヘッドホンを想定していないことが理由で、あくまでDMP-Z1だけの選択肢だという。高音質ウォークマンの基幹技術としてS-Master HXを今後も採用することに変わりはないそうだ。
ここまで4つのポイントに絞ってDMP-Z1の技術的な注目点とその背景を紹介してきた。実際のハンドリングと音質、そして新たに採用された再生モード「バイナルプロセッサー」については別の記事であらためて検証することにする。
(山之内 正)
後編(試聴レポート&バイナルプロセッサー編)へ続く