ビンテージと最先端の融合
デジタルの先端、クアルコム幹部がアナログオーディオに魅了された理由。超こだわりシステムを拝見!
■世界中から収集した真空管を自らの手で測定するこだわり
ここまででも十分にキャシーさんのこだわりの強さが感じられたと思うが、その本領はもっと別のところにある。C22、MC275に使用する真空管は、ヴィンテージ管から復刻管まで、世界中から収集したもの。さらにその中から、自身の手で入念な測定を行って選定しているのだ。
しかも測定に使っているのは、真空管アンプ全盛時代とも言える60年代の測定機器。キャシーさんは、マッチングの誤差は全て3%以内に抑えることを信条としている。現在愛用するMC275では、入力段にアンペックスやテレフンケンのヴィンテージ管を用いつつ、出力段には復刻されたゴールド・ライオンのKT88を使用。これはさまざまな真空管を試した結果、出力段は高周波特性に優れる上に出力も大きく取れる現代の球がベストだったからだそうだ。ちなみに、キャシーさんはこのKT88を選ぶにあたって、生産が行われているロシアの工場にまで足を運んだというから驚くしかない。
一方のプリアンプ、C22については「テレフンケンECC803Sが音の要ですね」とキャシーさん。60年代の医療用トランスに用いられていたというこの真空管が、システム全体のクリアネスと高解像度を担っているのだと語る。
ここで、「写真は撮らないで」と言って見せてくれたのが、キャシーさんが所有するヴィンテージ管の膨大なコレクションと、その測定結果のリストだ。これは世界中のコレクターやバイヤーと交流しながら時間をかけて集めたものとのことで、「いまは現在のコンビネーションがベストだと思っていますが、さらに良い音を追求していくつもりです」とキャシーさんはまだまだ意欲的に良い音を求めているようだ。
■賃貸マンションの弱点をさまざまな工夫で補う
キャシーさんの音へのこだわりは、もちろん真空管やオーディオシステム以外にもおよぶ。「最も時間をかけたのは“バイブレーション”と“アイソレーション”ですね」と話すとおり、実はこの部屋そのものにもさまざまな工夫を凝らしている。リスニングルームは一面がカーペットで、その下に床暖房が備えられている。「この床の構造がオーディオ再生の弊害になっていたんです」と、調音のための抜本的な改装を交渉したが、賃貸物件のため許可が下りなかった。そこでアクセサリーも活用した対策を開始した。振動を計測するソフトウェアや計測器を駆使したという理詰めのアプローチは、さすがクアルコムの幹部といったところである。
採用したアクセサリー類にも注目で、例えばマッキントッシュのターンテーブルの下に置かれたボードは、ターンテーブルのベースと同じ素材を選んで特注したもの。インシュレーターやターンテーブルシートの選定まで、日本のオーディオショップのスタッフの助言も参考にしながら徹底的に追い込んでいったそうだ。