今後のロードマップにも言及
ウルトラゾーンCEOが語る、静電型ドライバー搭載「SAPHIRE」は“真にプレミアムなイヤホン”を目指した
■「SAPHIREにしか出せない音」がある
筆者も新製品発表会の時に少しゆっくりと本機の音を聴く機会を得た。ひとことで言えば「SAPHIREにしか出せない音」がここにある。天井の高い立体的なサウンドステージにフレッシュな音が伸び伸びと満ちていく。ボーカルは繊細なニュアンスが自然と引き立つ。余韻がとてもふくよかで甘い。低音再生はスピードが速く、しなやかさも特筆できる。量感もしっかりとあって、クラシックにジャズ、ロックやEDMまであらゆるジャンルの音楽を力負けすることなく、そして細やかな音の粒まで丁寧に鳴らし切る。
SAPHIREのサウンドを練り上げる段階で、ウルトラゾーンでは「スピーカー再生の音場感」をイヤホンで再現することを目標に置いてきた。SAPHIREの内部ネットワーク回路の設計についてはデータが公開されていないが、イヤーピースを外すとノズルの先端に3つの穴があることがわかる。ウィルバーグ氏は複数のドライバーから出力される各帯域の音が耳に届くタイミングを精緻にコントロールして、立体的な音場感を実現しているのだと説明している。
ウィルバーグ氏は「SAPHIREはぜひバランス駆動に対応するシステムで楽しんで欲しい」と呼びかける。「ウルトラゾーンでは2010年にヘッドホンPRO900をバランス接続に対応させたPRO900-Bを発売して以来、多くの製品をバランス対応としてきました。SAPHIREもバランス駆動に対応するプレーヤー、ヘッドホンアンプと組み合わせることによって最大のポテンシャルが引き出せます」。
SAPHIREの商品パッケージにはアンバランス接続とバランス接続(2.5mm/4極)、それぞれのリケーブルが同梱されている。
少し気の早い話であることは分かっていながら、ウィルバーグ氏にウルトラゾーンとしての今後のイヤホン関連製品のロードマップについて質問をぶつけてみた。ウィルバーグ氏は「SAPHIREのリスニングスタイルを広げるためのアクセサリー」を展開して、ケーブルが着脱交換できるフラグシップイヤホンのメリットを活かし切ることを前向きに検討していると答えてくれた。例えばそれはBluetooth接続を実現するためのアダプターのようなものかもしれない。
ただ、ウィルバーグ氏の話を聞いていると、SAPHIREの“廉価版”のような兄弟機が出てくることは当分はなさそうだ。その理由は長い年月をかけて完成したSAPHIREを超える製品は当分生まれないだろうと、ウィルバーグ氏が繰り返し述べていたからだ。「仮に静電型ドライバーを搭載する低価格機を出したとしても、SAPHIREの音を聴いてしまったらきっとこちらが欲しくなるでしょう?」と微笑むウィルバーグ氏の表情は自信に満ちていた。
SAPHIREはウルトラゾーンがミュンヘン郊外の町に構える本社工場で組み立てられる。同社が構えている生産体制の現状については、筆者が2017年に訪問した時点からおそらく大きく変わってはいないと思うが、全てのパーツが本社工場に集められた後、専任のチームが1台ずつ丁寧にハンドメイドで組み上げていく。SAPHIREは当初月産50台を見込んでいるという。そのプレミアムなサウンドや質感、存在感に惚れ込んだ方はいち早く注文することをおすすめしたい。