リアル店舗にさらに磨き。「“Re”NK CHANNEL」を強力推進
ハードオフ新社長が見据える“最終ゴール”とは? オーディオ特化店/オムニチャネル/海外展開など戦略を訊く
■プロの目利きが手を挙げる「オファー買取」
―― リアル店舗を中心に構成される「“Re”NK CHANNEL」のひとつの要素となるのが、総合中古通販サイト「ネットモール」です。開設から5年半が経過しましたが、近況をお聞かせください。
伊藤 年間売上は2016年度の約8億円が、2018年度には約14億円に拡大しました。対前年度比での比較では、売上げは126%、訪問者数は133%など、すべての数値において2割増、3割増と大きく伸長しています。大きな転機となったのが、2017年11月に行った大リニューアルです。それまでも、パソコン操作に手慣れた人には大変使いやすいものでした。しかし、これからより多くのお客様に利用していただく狙いから、一般的なお客様の目線を大切にして、検索性や操作性はもちろん、デザインも改善しました。これを機に、数字の伸び方がさらに加速していきました。
―― 昨年9月には公式アプリも立ち上げられています。お客様が買い取りを希望した商品に対し、それぞれの店舗が手を挙げる買取価格を提示する「オファー買取」などは、他にはない例を見ない大変ユニークなアイデアですね。
伊藤 アプリのダウンロード数は当初予想を上回る21万超に達しています。一般的には、1〜2カ月に1回開く方が20〜30%いれば利用価値の大変高いアプリだと言われますが、弊社のアプリは週に1回開く方が約20%おり、利用頻度が大変高くなっています。
約1年間の運用でわかったことは、アプリのなかにあるいろいろな機能それぞれに、使用される層がまったく違っていること。「エコポ」を貯めてクーポンにされるのは、リアル店舗にも頻繁に足を運ばれている方。「オファー買取」は逆に、店舗に一度も行ったことがない方やこれまで買い取りにハードオフを利用されたことがない方がほとんどです。リピーターも多く、今後はそれぞれの機能を切り出し、もっと使いやすい、魅力あふれるアプリにしていきます。
―― オファー買取のアイデアはどこから生まれたのですか。
山本 買い取りがリアル店舗だけでなく、ネットでもできるようにする狙いから、当初「宅配買い取り」の仕組みをつくりましたがうまく機能しませんでした。全国にあるフランチャイズ38社にメリットが生まれる仕組みでなくてはならないことがひとつのポイントになります。どうしたら全国のフランチャイズさんの買い取りを、ネットを活用することで増やすことができるのか。さらに、リアル店舗の強みも表現できる方法をあわせて考え抜いた結果、全国のフランチャイズさんがフェアに、オファーを入れる権利を持つ「オファー買取」の仕組みをつくりだしました。
―― 約900もの店舗があるからこそできるアイデアでもありますね。
山本 現在、オファー買取を利用されるお客様で、店頭でその存在を知った方は十数パーセントに過ぎず、約8割がSNSの広告やユーチューバーが実際に利用しているのを見て知ったという方です。ハードオフの買い取りに触れる新たなタッチポイントとして、今後は店頭をご利用されないお客様向けのサービスと割り切って展開していこうと考えています。店舗に買い取りのプロがいる、そのプロからオファーが来るアプリ。他にはない特長をどうしたらもっとうまく伝えられるか。これまでの買い取りにはなかった新たな付加価値をしっかり浸透させていきます。
伊藤 オファー買取で面白いのは、例えば、オファーをいただいた店舗のうち、上位金額の5件からお客様が検討される時に、必ずしも一番高い買取価格を提示ししたところに決定するとは限らないことです。オファーにはコメントも記載できます。買い取りを希望されたお客様の住所等がわかりますから、例えば、「僕も同じ〇〇県出身です。この商品は大好きで、同じ型番のものを持っています」など、気になるコメントがあると、そこから会話が進み、「この人に売りたい」と決定されるケースが珍しくありません。
リアル店舗があり、そこに魅力的なスタッフがいることを、ネットからいかに伝えていくことができるか。今秋には「オファー買取」だけを切り出して単独のアプリとする予定ですので、もっと面白い仕掛けや機能を盛り込むことができると思います。
「オファー買い取り」が抜き出されたアプリの方は、リアル店舗を利用されている方が中心であることがより鮮明になりますので、こちらはリアル店舗への導線をより強化し、例えばハードオフ巡りがもっと楽しめるなど、より高い利便性や体験を提供していきます。
―― ハードオフファンをさらに増やすひとつの手段ですね。
山本 唯一独特のハードオフらしさが信条で、そこに熱狂的なファンが集まります。店舗展開にしてもアプリにしても、他社で好評な事例を参考にするといったことは一切なく、あくまで、自分たちのお客様のウォンツとニーズに対し、「何を望まれているのか」「どうあるべきか」を議論しつくします。そこに、ハードオフらしさが生まれてきます。
■他に真似できないハードオフのDNA「オーディオサロン」
―― ハードオフの象徴のひとつが、リユース商品によるオーディオ専門店という新業態で業界に一石を投じた「ハードオフ オーディオサロン」です。2014年5月に新潟紫竹山店、2016年9月に吉祥寺店をオープンされました。
山本 私たちのルーツはオーディオ専門店「サウンド北越」ですから、オーディオに対しては「われわれがやるしかない」といった思い、DNAのようなものがあります。オーディオ好きな社員が集まってきて、しかも、年配な社員ばかりでなく、先日も20代後半の社員が「オーディオが好きだからオーディオサロンで働きたい」と手を挙げ、オーディオサロン吉祥寺店へ移動しました。
富山豊田店では店長が大変オーディオが好きで、オーディオの売上げもよかったことから、先日の店舗老朽化に伴う大改装では、「Audio Selection」コーナーをオーディオサロン並みに大きくスペースをとりました。今後も、オーディオに対する実績を着実に積み上げ、「ここはいけるぞ!」という店舗のリニューアルの際には、強みであるAudio Selectionコーナーをしっかりつくりこんでいきます。
―― オーディオサロン吉祥寺店の登場から3年近くになり、3店舗目のオーディオサロンの登場も待望されますね。
山本 新潟と吉祥寺にオーディオサロンがあり、店長の番場と宮澤の下で研修も行っています。オーディオはマニュアルや資料ではわからない深い世界ですから、一緒に働き、一緒の空気を吸うことが大切。3店目、4店目という思いはもちろんあり、物件と人材のタイミングを見計らいながら進めていきます。ハイファイオーディオ市場はシュリンクしていますが、一般のリユースショップでは誰にも真似のできないハードオフらしさがオーディオです。そこはこれからもしっかり強化していきます。
―― 2018年4月にはオーディオと楽器専門のリペアセンターをオープンされました。大きな存在ですね。
山本 従来、ジャンクとして販売されていたものが生き返るわけですから、売上げにも大きく貢献してくれています。働いているのは元メーカーの技術者などシニアの方。皆さん、サウンド北越と取り引きをされていたり、またはお客様だったりされた方で、それが巡り巡って縁があり、働いていただいている。サウンド北越のDNAをこうした場面でもつくづく実感します。
現在はフランチャイズ各社の店舗からも基本的にはリペアセンターは商品を送っていただけることになっていますが、なかなか手が回らず、大々的に表明できていないのが実情です。日本中のハードオフの店舗で、きちんと修理をすれば付加価値が付くのに、そのまま修理をせずに販売してしまっているものがまだまだあります。希少な人材ですから、簡単に人員増とはいきませんが、新潟のリペアセンターで修理して、復活して生き返る例をもっと増やしていきたい。また何より、そうしたシニアの方たちが持っている凄い力を途絶えさせてはいけません。
■世界にハードオフ発のリユース文化を創造する
―― 今後の取り組み課題をお聞かせください。
山本 “人”の採用と育成は引き続き重要なテーマとなります。5月17日には米国本土1号店となる「ECO TOWN Fountain Valley STORE」がカリフォルニア州オレンジ郡にグランドオープンとなり、海外でしっかりアクセルを踏んでいくためにも、さらに、日本に優秀な人材があり、海外へ派遣してもすぐに店長を務めていただける。そうした環境を充実させていきたい。世界に日本発のリユース文化を創造して参ります。
米国にはリユースの文化が根付いていて、ガレージセールやスワップミートと呼ばれるフリーマーケット、寄付の文化としてドネーションと呼ばれる店がいたるところにあります。しかし、価値あるリユース商品を循環させるハードオフのような店舗は存在しないのが皆さんのお困り事で、イーベイを使用したりしていますが、どの家でもガレージの中は商品でパンパンの状態です。
リユースの文化はあるものの、健全なリユースショップの文化がない状況が見えています。そこにハードオフが日本で培ったノウハウを持ち込むことで、米国のリユース文化の創造に貢献できると確信しています。そして、米国の本土で事業がうまく進展すれば、世界中の人が注目してくれると考えています。
そして、これから20年後、30年後を見据えた時に、最終ゴールになるのが「“Re”NK CHANNEL」構想です。米国に行く機会が増えていろいろな小売業を見て強く感じるのは、amazonに圧倒されて厳しい立場に置かれていますが、そうした中でもきちんと生き残っているところに共通するのは、ベストバイにしてもウォルマートにしても、オムニチャンネルをきちんとやられていること。そうしたリアル店舗はむしろamazonより強いのではないかと思えます。
日本にも今後、米国同様の流れが来たとしたら、リアル店舗だけでは太刀打ちできなくなる可能性があります。その時に、「“Re”NK CHANNEL」を手掛ける強みがあれば生き残っていくことができます。強みであるリアル店舗を磨きながら、「“Re”NK CHANNEL」の強化も進めて、最終的にはすべてをつなげて、循環(RE)でそれぞれの強みをさらに加速していきます。リユースのリーディングカンパニーとして、循環型社会の構築にさらに貢献して参ります。