【特別企画】「TE-BD21f-pnk」大ヒットの裏側を聞いた
ピエール中野×AVIOTコラボ完全ワイヤレス開発秘話。「音楽をより楽しむため」目指した“音”の全貌
■こだわりが詰まった「TE-BD21f-pnk」、そのサウンドを徹底解説!
── 結果として、中野さんの好みを強く反映しつつ、オールマイティさもある音に仕上がってますよね。
中野氏 自分のバンド、凛として時雨の曲はもちろんですし、僕は例えばPerfumeなどのファンであることを公言してみなさんに知られているので、それらの曲を聴いたときにもめっちゃ気持ちよく聴いてもらえるようにしたくて。チューニングを調整しては、それらのリファレンス曲を聴きまくって、少しでも違和感があったらまた調整してっていう作業を繰り返して、どの曲を聴いてもバッチリだ! となるまでかなり追い込みましたよ。
── 実際聴かせていただいて、ピヤホンの音が標準モデルだったとしても違和感がないと思わされるほど、普遍的な良い音だなと感じました。今のお話を聞かせていただいて納得です。
中野氏 普遍的! そうですね、そういう音にできたと思っています。僕はこれまで、ピュアオーディオの世界のような、「個人の好みとかを超えて誰が聴いても良い音でしょ」っていうような、まさに普遍的な良い音も体験して知ってますから、それも意識しました。
それに、僕は音楽を作って届ける側でもあるので、音楽を作る側、それを届けるオーディオ側、それを通して音楽を受け取る側、その全員が納得する音にしたかったんです。そうすると自然と、普遍的な良い音っていうものになりますよね。
── 「普遍的な良い音」って、中野さんがリファレンスにしている曲だと例えば、凛として時雨と花澤香菜さんとPerfumeのすべてを、ひとつのイヤホンでカバーできる音…ということになりますよね。それはすごく難しくないですか?
中野氏 でも実際やってみて、その難しさをクリアしたらどんな音楽を聴いても感動できる、ワクワクできるイヤホンを作れるんだなってわかりましたね。
ワクワクできるっていうのも大切で、いわゆるモニターライクと言われる冷静な音は、自分のコラボモデルとしては違うのかなと。このモデルって、イヤホンにこんな金額を出すのは初めてだっていう人が買ってくれる割合もかなり多いと思うんですよ。そういう人が聴いたときに単純に「すげえ!」って感じてくれるような音にしたいっていうのもありました。
── たしかにベースモデルよりも熱を感じられるサウンドに仕上がっていますね。その音作りのリファレンスにした曲の中で、「あちらを立てるとこちらが立たず……」みたいに、両立させるのが特に難しかった曲ってありましたか?
中野氏 難しかったというか、普段から目安にしている、Negiccoの「トリプル!WONDERLAND」と椎名林檎さんの「眩暈」の両方を上手に再生できるようにするっていうところですね。
これまで自分が気に入ったイヤホンはそれをクリアしていて、気に入らなかったイヤホンはクリアできなかったものなんです。たとえば、Negiccoは綺麗に再生できても林檎さんの方では中低域の楽器がぎゅっと密集してしまったり、逆に林檎さんは綺麗に聴こえるけどNegiccoはギラついてしまうモデルとか。
── そこを両立させられたら、音作りの上での大きな壁をクリアできるんですね。
中野氏 もう一曲、鷺巣詩郎さんのアルバム『SHIRO'S SONGBOOK vers 7.0』に収録されている、「Runaway」という曲も重要ですね。この曲でチェックすると解像度や分離感がわかりやすい。この曲を良い音のイヤホンで聴くと音がいろんな場所から聴こえてくるんですよ。この曲めっちゃいいですよ! コラボモデルの音作りに限らず、イヤホンをチェックする時はまず、この3曲をクリアできるかで判断してます。それをクリアできたモデルは他の曲でもチェックするって感じです。
── AVIOT主催のイベント「AVIOTLIVE:02」では、「このイヤホンなら僕がドラマーとして聴いてほしいところをもしっかり聴いてもらえる」といったコメントもありました。音色面も含め、それはどんな部分でしょう?
中野氏 凛として時雨での僕のプレイって物凄く手数が多くて、解像度が低いイヤホンだとそれが表現しきれない、こっちはすごい手数で叩いてるのに一塊りのダマとしてしか聞こえないんですよ。でもこのコラボモデルのように解像度の高いイヤホンなら、ドラムがどういうフレーズを演奏しているのか、リスナーにちゃんと届くんです。
音としては、ドラムのかっこいい部分を聴かせられると思っています。僕は自分ではなく、他のドラマーさんが叩くドラムセットのチューニングをする、ドラムテックという仕事もしていまして、それって「ドラムのかっこいい音」をわかってないとできない仕事なんですよ。このイヤホンはそこももちろん、しっかり再現できてます!
── その「ドラムの音のかっこよさ」が分かりやすい聴きどころって、例えばどういうところでしょう?
中野氏 やっぱりスネアの音ですかね。ドン・タン・ドン・タンというリズムパターンの「タン」の音。スネアの音って特に、イヤホンによって明らかに変わるんですよ。だからこれまで使ってたイヤホンと、スネアを聴き比べてもらうと分かりやすいんじゃないかな。このコラボモデルなら、スネアの音がこもることもなく、痛い成分が出過ぎることもなく、ドラマーが叩いてるままのかっこいい音をみんなに聴いてもらえますよ。
── 凛として時雨の曲を聴くと他にも、解像感や分離感がありつつ、バンドサウンドとしては全体がバラバラにならずに一体感があるというのも印象的でした。
中野氏 それも狙い通りですね。聴いてくれた方々にそういう印象を持ってもらえるたらありがたいです。
── 加えて、熱量や迫力がありつつも、高域の絶妙な柔らかさのおかげか、長く聴いていても耳が疲れにくい音とも感じました。
中野氏 疲れにくさという点も、意識した部分です。それでいうと、電源オンオフとかのときに流れるガイドボイスを、凛として時雨でテーマ曲を提供しているアニメ『PSYCHO-PASS』シリーズのヒロイン、常守朱(つねもりあかね)さんに担当してもらっているんですけど……
── 声優は花澤香菜さん。強い。
中野氏 『PSYCHO-PASS』ファンからしたら「そこはドミネーターの音声じゃないの?」って話も出てくると思うんですよ、当然。
── シビュラシステムに連結されている大型特殊銃で、音声アナウンスの声優は日烽フり子さん。これまた強い。
中野氏 でもイヤホンを着けるたびに毎回ドミネーターの音声で「電源がオンになりました」とか聞こえてきたら、そこは逆にファンだからこそ疲れちゃいません?(笑) あれって作品世界の社会を支配してるシステムの音声みたいなものなんで。
── たしかにそうなるとユーザーの色相が……
中野氏 濁っちゃいそうですよね(笑)。それは精神衛生上よくないなと思って、ガイドボイスは常守監視官にやってもらうことにしました。それも何パターンか録ってもらって、その中でもいちばん柔らかい印象のものを選ばせてもらってます。
── ユーザーの係数にまで配慮して作り込まれていたとは! 驚きです。
中野氏 音楽っていろんな状況で聴かれるものなので、落ち込んでるときだってあると思うんですよ。だからガイドボイスも、そういう気分でイヤホンを着けたときに聞こえてきても心地よいものにしたかったんです。
いつでも心地よく音楽を聴き始めてもらって、あとは僕らが作り上げたこの音で音楽に没入してもらえたらなと。そのために全力で良いものに仕上げたんで! 音楽の楽しみ方の一つとして、ぜひたくさんの人に使ってもらいたいですね。
── 貴重なお話をありがとうございました!
(インタビュー:高橋 敦)
(特別企画 協力:バリュートレード)
Photo:Kohichi Ogasahara