炭山アキラがレポート − 第12回真空管オーディオフェアで見つけた魅力的な製品<アンプ編>
10月7日、8日の2日間に渡り、秋葉原損保会館で「第12回・真空管オーディオフェア」が開催された。今回はオーディオ・評論家、炭山アキラ氏のレポートにより、イベントに登場した魅力的な製品の数々を振り返ってみたい。
秋のオーディオショーの中では比較的後発組に属する真空管オーディオフェアも、数えて今年で第12回を迎えた。当初は秋葉原ダイドーホールでこぢんまりと開催されていたが、出展社の拡大に伴って2002年からは損保会館に会場を移し、それも年を追うに従って2〜3フロアの占有と、イベント規模は着実に大きくなってきた。今年はいくつかの社が他のオーディオショーに分散したせいもあり、昨年より出展社の数は減ったが、昨年がずいぶん手狭な印象を与えていただけに、かえってその分じっくりと各社の音が楽しめる雰囲気になっていたことは間違いない。
一連のショー関連では、真空管オーディオフェアが最も出展社の平均年齢が高いのではないかと推測するが、その分各社の音作りには確固たるものがあり、それぞれに個性的でありながら実に興味深いハイファイサウンドがいずれのブースでも響きわたっていたのが印象深い。同ショーがキャッチフレーズとしている「MADE IN JAPANの底力」を大いに感じることのできるショーだった。
それでは、アンプとその関連パーツから気になった製品を順不同で挙げていくとしよう。今年も会場は2回の即売会場と4/5階の個別展示に分かれていたので、まず4階から見ていくこととした。
チューブ・ビズCLASSICブランドの300Bアンプ。フラットバランスで繊細かつ高解像度といったイメージだ。同社の6CA7アンプは3極管結合と5極管結合が選べる
目に飛び込んできたのは、チューブ・ビズのブースである。CLASSICブランドで300Bと6CA7を用いたアンプが発表されていた。会場では、平面型スピーカーで長い歴史を積み重ねているFALの古山社長が自社スピーカーでデモを行っていたが、高解像度でクリーンな300B、分厚く張り出す6CA7と、両者の持ち味が大変よく聴き分けられる製品である。
コイズミ無線の真空管アンプキットKAX−KT88。この構成でキット9万円は大廉売といっていい。小泉社長は「作るのが難しすぎるかなぁ」としきりに心配されていたが、ちょっと挑戦してみたくなるキットである
その隣はコイズミ無線のブースだ。同社といえばスピーカー工作のパーツ専門店というイメージが強いが、この会場が初お目見えとなる真空管アンプキットが展示されていた。6L6、6CA7、KT88というビーム/5極管のプッシュプルというキットとしては比較的大がかりな構成ながら、一番高いKT88でも9万円という価格がうれしい。小泉社長によると、このキットは少々組み立てが難しいので、基板組み立て済みの簡単キット構成にすることも考えているとか。そうなるともう少し価格は上がらざるを得ないだろう。
EAT(ユーロ・オーディオ・ティーム)CEOのジョセフィーナ氏。今年の同社は新設計の300Bと、12AX7や同AU7などに使用できる「クールダンパー」を出展していた。クールダンパーは熱を伝えやすく柔らかいダンパーで球を支え、ガラスの鳴きを殺しながら外のフィンで放熱するという、大変合理的なパーツである
コイズミ無線の展示の向かい側にはちょっとした即売コーナーが設けられていて、高音質ソフトや真空管などが販売されていたが、その中で目に付いたのはEATの新製品「クール・ダンパー」である。真空管の鳴きを抑えながら冷却するという考え方は、管球アンプの高音質化に大きく寄与するのではないかと思う。
サンバレーSV-2というとトランスドライブ845プッシュプルモノーラル型という構成だったが、このSV-2(2007)は300Bドライブ845シングルという構成だ。845や211の300Bドライブはハイエンド真空管アンプでも採用例があるから、早く音を聴いてみたいものだ。ザ・キット屋のブースは、常に人でいっぱいだった。それにしてもすごい人気である
歩を進めると、隣の部屋はサンバレー「ザ・キット屋」のブースである。今年は845や211といった大型3極管を用いたキットが参考出品されていた。ウィスキーの樽に用いられたオーク材を使った「樽スピーカー」「樽アンプ」も鳴らされていたが、その注目度の高さには改めて驚く。ザ・キット屋の音出し時間は常に聴衆が立錐の余地もないほどの大入り満員なのである。
ヒノ・オーディオHYUGERブランドのフォノイコライザーHK-3000。同社のプリアンプHK-2000の純正フォノイコとしての位置づけという。MC対応は同社HG-2021FMで決まりだ
サンバレーの隣はヒノ・オーディオのブースだ。今年最大の注目株は真空管フォノイコライザーのHK-3000であろうか。FE86と12AU7を2本ずつ使ったCR型で、MM専用だ。キットで18万9,000円と、相当のハイグレードが期待できる製品である。
アストロ電子企画のAS-KT88は横倒しにして置かれていたので、裏側をのぞいてみると、それはそれは手の込んだ空中配線と高品位パーツぎっしりの内部構成に驚く。同社製品が高価なわけがはっきりと分かるカットである
4階の一番奥はアストロ電子企画と橋本電気のブースである。アストロ電子企画といえば大変に高価なアンプのメーカーというイメージが強いが、内部展示などがされていて得心がいった。パーツといいシャシーといい配線といい、よくここまで凝ることができるものだと舌を巻くような作りで構築されているのである。
右はOPTの新製品HWC-30-5。1次側5kΩ、2次側4/8/16Ω、推奨出力30Wという製品である。左は超ハイCPのMCトランスHM-3。これを使って私も自分用の昇圧トランスを自作してみたくなった。ウッドケースでも作ってやろうか
橋本電気は「サンスイトランス」でおなじみの社だが、オリジナルブランドのトランスも数多く発表/発売されている。今年の新製品はアウトプットトランスと電源トランスが出品されていた。OPTは出力30Wクラス、PTはプリアンプ用の小出力/高品位のものである。また、超ハイCPで知られるMCトランスのHM-3が間もなく値上げとなるらしい。購入希望者はお急ぎを。
KRのプリメインアンプVA340。トランス類は変形の八角柱に収められ、真空管はリング状のプロテクターで保護されている。何とも斬新なルックスである。回路は自社製真空管の魅力を最大限に引き出すことを狙ったという。総合メーカーならではといったところだ
5階へ上がり、エレベーターの前の部屋から取材を開始する。まずはアムトランスのブースで、斬新なデザインのアンプが目に入った。チェコのKR社はこれまでも数多くの真空管が日本に入ってきていたが、これは同社が開発したプリメインアンプである。採用真空管は300BLXSシングルで、20W+20Wと出力は大きい。音は、組み合わせられたソリッドアコースティックのスピーカーを控えめながら高密度に鳴らしているという感じだったが、完全無指向性のスピーカーであることに加えて会場が広いので、少し音が散っていたのかもしれない。
テクソルのブースにて。最初は巨大なOTLアンプかと思ったら、真空管測定機だった。同社のオリジナル品である。自社で販売するパーツにかける愛情と顧客に対する責任感がうかがえる
同室のテクソルは、巨大な真空管チェッカー兼エージング機を持ち込んでいたのが印象に残る。同社の球はこうやって選別され、調子が整えられて出荷されるのかと、大変参考になる展示だった。
マックトンM-6S。採用管のEL509Sとは、スロヴァキアのJJエレクトロニクス社がOTL専用に新規開発した球という。3極管結合の4パラレルというから、トータルの物量としては大したものだが、それでこのサイズに収めているのが素晴らしい
奥の部屋にはマックトンがブースを構えていた。パワーアンプのM-6Sは今年の新製品で、EL509Sの4パラプッシュOTLという構成ながらステレオを1ボディに収めるという、同社らしい極めて凝った内容だ。出力も70W+70Wと大きい。音は、とてつもなくクールで深い残響に包まれながら、安定感の高い音像がすっくと立ち上がってくるような、何とも魅力的なものだった。
(炭山アキラ プロフィール)
秋のオーディオショーの中では比較的後発組に属する真空管オーディオフェアも、数えて今年で第12回を迎えた。当初は秋葉原ダイドーホールでこぢんまりと開催されていたが、出展社の拡大に伴って2002年からは損保会館に会場を移し、それも年を追うに従って2〜3フロアの占有と、イベント規模は着実に大きくなってきた。今年はいくつかの社が他のオーディオショーに分散したせいもあり、昨年より出展社の数は減ったが、昨年がずいぶん手狭な印象を与えていただけに、かえってその分じっくりと各社の音が楽しめる雰囲気になっていたことは間違いない。
一連のショー関連では、真空管オーディオフェアが最も出展社の平均年齢が高いのではないかと推測するが、その分各社の音作りには確固たるものがあり、それぞれに個性的でありながら実に興味深いハイファイサウンドがいずれのブースでも響きわたっていたのが印象深い。同ショーがキャッチフレーズとしている「MADE IN JAPANの底力」を大いに感じることのできるショーだった。
それでは、アンプとその関連パーツから気になった製品を順不同で挙げていくとしよう。今年も会場は2回の即売会場と4/5階の個別展示に分かれていたので、まず4階から見ていくこととした。
目に飛び込んできたのは、チューブ・ビズのブースである。CLASSICブランドで300Bと6CA7を用いたアンプが発表されていた。会場では、平面型スピーカーで長い歴史を積み重ねているFALの古山社長が自社スピーカーでデモを行っていたが、高解像度でクリーンな300B、分厚く張り出す6CA7と、両者の持ち味が大変よく聴き分けられる製品である。
その隣はコイズミ無線のブースだ。同社といえばスピーカー工作のパーツ専門店というイメージが強いが、この会場が初お目見えとなる真空管アンプキットが展示されていた。6L6、6CA7、KT88というビーム/5極管のプッシュプルというキットとしては比較的大がかりな構成ながら、一番高いKT88でも9万円という価格がうれしい。小泉社長によると、このキットは少々組み立てが難しいので、基板組み立て済みの簡単キット構成にすることも考えているとか。そうなるともう少し価格は上がらざるを得ないだろう。
コイズミ無線の展示の向かい側にはちょっとした即売コーナーが設けられていて、高音質ソフトや真空管などが販売されていたが、その中で目に付いたのはEATの新製品「クール・ダンパー」である。真空管の鳴きを抑えながら冷却するという考え方は、管球アンプの高音質化に大きく寄与するのではないかと思う。
歩を進めると、隣の部屋はサンバレー「ザ・キット屋」のブースである。今年は845や211といった大型3極管を用いたキットが参考出品されていた。ウィスキーの樽に用いられたオーク材を使った「樽スピーカー」「樽アンプ」も鳴らされていたが、その注目度の高さには改めて驚く。ザ・キット屋の音出し時間は常に聴衆が立錐の余地もないほどの大入り満員なのである。
サンバレーの隣はヒノ・オーディオのブースだ。今年最大の注目株は真空管フォノイコライザーのHK-3000であろうか。FE86と12AU7を2本ずつ使ったCR型で、MM専用だ。キットで18万9,000円と、相当のハイグレードが期待できる製品である。
4階の一番奥はアストロ電子企画と橋本電気のブースである。アストロ電子企画といえば大変に高価なアンプのメーカーというイメージが強いが、内部展示などがされていて得心がいった。パーツといいシャシーといい配線といい、よくここまで凝ることができるものだと舌を巻くような作りで構築されているのである。
橋本電気は「サンスイトランス」でおなじみの社だが、オリジナルブランドのトランスも数多く発表/発売されている。今年の新製品はアウトプットトランスと電源トランスが出品されていた。OPTは出力30Wクラス、PTはプリアンプ用の小出力/高品位のものである。また、超ハイCPで知られるMCトランスのHM-3が間もなく値上げとなるらしい。購入希望者はお急ぎを。
5階へ上がり、エレベーターの前の部屋から取材を開始する。まずはアムトランスのブースで、斬新なデザインのアンプが目に入った。チェコのKR社はこれまでも数多くの真空管が日本に入ってきていたが、これは同社が開発したプリメインアンプである。採用真空管は300BLXSシングルで、20W+20Wと出力は大きい。音は、組み合わせられたソリッドアコースティックのスピーカーを控えめながら高密度に鳴らしているという感じだったが、完全無指向性のスピーカーであることに加えて会場が広いので、少し音が散っていたのかもしれない。
同室のテクソルは、巨大な真空管チェッカー兼エージング機を持ち込んでいたのが印象に残る。同社の球はこうやって選別され、調子が整えられて出荷されるのかと、大変参考になる展示だった。
奥の部屋にはマックトンがブースを構えていた。パワーアンプのM-6Sは今年の新製品で、EL509Sの4パラプッシュOTLという構成ながらステレオを1ボディに収めるという、同社らしい極めて凝った内容だ。出力も70W+70Wと大きい。音は、とてつもなくクールで深い残響に包まれながら、安定感の高い音像がすっくと立ち上がってくるような、何とも魅力的なものだった。
(炭山アキラ プロフィール)
トピック