山之内 正がサウンドをいち早くレポート
<独HIGH END 2011>KEF「BLADE」やDYNAUDIOの新FOCUSシリーズ − スピーカーにも“ダウンサイジング”の波
ミュンヘンのHIGH END 2011に出品された新製品のなかから、今回は注目すべきスピーカーをいくつか紹介する。
ハイエンドオーディオの世界ではネットワークオーディオやアナログオーディオの比重が高まると同時に、技術的な進化と洗練を背景としたアンプやスピーカーのダウンサイジングの動きも見られる。その具体例をクラス別に見ていくことにしよう。
2年前にミュンヘンでコンセプトモデルが発表されたKEFのBLADEは、私が発売を心待ちにしていた製品の一つだ。初めて聴いたとき、その先鋭的なフォルムと抜群にフォーカスの良いサウンドが特別な存在感を示していたが、今回、その後2年間の熟成期間を経ていっそう完成度が高まった印象を受けた。
■カタチも「箱」ではなく「刃」になったKEF「BLADE」
このスピーカーのどこがダウンサイジングなのかというと、それはキャビネットの形である。正面から見るとUNI-Qユニットを中心にしたスリムなスティック状のスピーカーにしか見えず、斜め方向から見ないとウーファーの存在には気付かない。まさに刃(BLADE)のような薄さで、「箱」のイメージとはかけ離れている。
この形状ならではの回折の少なさや反射による影響の低減は再生音にそのまま反映されていて、正面だけでなく、ステレオの試聴ポイントを外れた位置で聴いても、音像のリアルさが際立っている。BLADEの再生音は、ボックス特有のキャラクターが乗らない音の気持ち良さを実証しているのだ。スピーカーの存在が消えるという表現は、BLADEにぴったり当てはまるキーワードだと思う。
2年前に公開されたコンセプトモデルとの一番大きな違いは、低音のスケール感の向上に聴き取ることができる。しかも、たんにスケールが大きいだけでなく、インパクトのはっきりした瞬発力の高さを併せ持っているので、バスドラムやベースのリアリティは期待を大きく上回る。15インチウーファーを積む大型フロアスピーカーに匹敵する量感と、小口径ウーファーならではの反応の良さを両立した低音は、BLADEの大きな魅力の一つといえるだろう。部屋のなかに大きなボックス状キャビネットが2つ並ぶことに抵抗がある人に、ぜひ聴いてもらいたいスピーカーだ。
■ディナウディオ新FOCUSシリーズの高い完成度に注目
エントリーからミドルクラスにかけての価格帯では、ディナウディオの新しいFOCUSシリーズの完成度の高さが目を引いた。前作をベースに6年ぶりにモデルチェンジを行い、ユニット、キャビネット、ネットワークすべてを一新。レスポンスと質感を確実に向上させ、従来機以上に現代的なサウンドに生まれ変わっている。
同社CEOのエーレンホルツ氏はFOCUSシリーズの音について、狙っている音調は旧シリーズと変わらないものの、その質感と表情はいっそう豊かになったはずと語っていたが、「目指す音は不変」というところが、いかにもディナウディオらしい。形状とユニット構成はオーソドックスなものだが、側板が緩やかなカーブを描くキャビネットは定在波の発生を確実に抑えており、質感の豊かさは低音域まで及んでいるという印象を受けた。ちなみに、新たにシリーズに加わったFOCUS 340はFOCUS 380をダウンサイジングした新しいサイズの製品で、今回の目玉といっていい重要なモデルだ。エーレンホルツ氏は「個人的に一番気に入っているモデル」と紹介してくれた。
■小型スピーカーではリンデマンBirdland BL-10に注目
小型高級スピーカーのカテゴリーではリンデマンのBirdland BL-10が際立つ存在だ。セラミックコーンならではの固有音のなさ、透明な音色が歌手や楽器の表情をしなやかに伝え、強調や誇張とはまったく縁がない。同ブランドのプレーヤーやアンプに共通するサウンドの指向が明確に伝わってくる。
コンパクトなキャビネットは複数の素材を組み合わせることで共振を徹底的に抑えており、ボーカルやベースにまとわりつく成分はほとんど聴き取ることができない。アコースティック音源を聴くと、位相を精密に管理した設計であることはすぐにわかり、オープンで正確な空間再現にも感嘆する。小空間で聴く小さなリファレンスモニターが欲しい人にうってつけの製品だ。
エーレンホルツ氏とのインタビューでも話題になったが、ハイレゾリューション音源の浸透はスピーカー開発にもいい意味で刺激的な影響を与えているようだ。すでにスペック上は「HDレディ」の性能を有しているとはいえ、テクスチャー豊かな音を再生すると、音質の差が従来以上にはっきり浮かび上がり、技術改善の成果を把握しやすくなるのだという。今回取り上げた3モデルは、いずれもそうした成果を強く実感することができた。
(山之内 正)
ハイエンドオーディオの世界ではネットワークオーディオやアナログオーディオの比重が高まると同時に、技術的な進化と洗練を背景としたアンプやスピーカーのダウンサイジングの動きも見られる。その具体例をクラス別に見ていくことにしよう。
2年前にミュンヘンでコンセプトモデルが発表されたKEFのBLADEは、私が発売を心待ちにしていた製品の一つだ。初めて聴いたとき、その先鋭的なフォルムと抜群にフォーカスの良いサウンドが特別な存在感を示していたが、今回、その後2年間の熟成期間を経ていっそう完成度が高まった印象を受けた。
■カタチも「箱」ではなく「刃」になったKEF「BLADE」
このスピーカーのどこがダウンサイジングなのかというと、それはキャビネットの形である。正面から見るとUNI-Qユニットを中心にしたスリムなスティック状のスピーカーにしか見えず、斜め方向から見ないとウーファーの存在には気付かない。まさに刃(BLADE)のような薄さで、「箱」のイメージとはかけ離れている。
この形状ならではの回折の少なさや反射による影響の低減は再生音にそのまま反映されていて、正面だけでなく、ステレオの試聴ポイントを外れた位置で聴いても、音像のリアルさが際立っている。BLADEの再生音は、ボックス特有のキャラクターが乗らない音の気持ち良さを実証しているのだ。スピーカーの存在が消えるという表現は、BLADEにぴったり当てはまるキーワードだと思う。
2年前に公開されたコンセプトモデルとの一番大きな違いは、低音のスケール感の向上に聴き取ることができる。しかも、たんにスケールが大きいだけでなく、インパクトのはっきりした瞬発力の高さを併せ持っているので、バスドラムやベースのリアリティは期待を大きく上回る。15インチウーファーを積む大型フロアスピーカーに匹敵する量感と、小口径ウーファーならではの反応の良さを両立した低音は、BLADEの大きな魅力の一つといえるだろう。部屋のなかに大きなボックス状キャビネットが2つ並ぶことに抵抗がある人に、ぜひ聴いてもらいたいスピーカーだ。
■ディナウディオ新FOCUSシリーズの高い完成度に注目
エントリーからミドルクラスにかけての価格帯では、ディナウディオの新しいFOCUSシリーズの完成度の高さが目を引いた。前作をベースに6年ぶりにモデルチェンジを行い、ユニット、キャビネット、ネットワークすべてを一新。レスポンスと質感を確実に向上させ、従来機以上に現代的なサウンドに生まれ変わっている。
同社CEOのエーレンホルツ氏はFOCUSシリーズの音について、狙っている音調は旧シリーズと変わらないものの、その質感と表情はいっそう豊かになったはずと語っていたが、「目指す音は不変」というところが、いかにもディナウディオらしい。形状とユニット構成はオーソドックスなものだが、側板が緩やかなカーブを描くキャビネットは定在波の発生を確実に抑えており、質感の豊かさは低音域まで及んでいるという印象を受けた。ちなみに、新たにシリーズに加わったFOCUS 340はFOCUS 380をダウンサイジングした新しいサイズの製品で、今回の目玉といっていい重要なモデルだ。エーレンホルツ氏は「個人的に一番気に入っているモデル」と紹介してくれた。
■小型スピーカーではリンデマンBirdland BL-10に注目
小型高級スピーカーのカテゴリーではリンデマンのBirdland BL-10が際立つ存在だ。セラミックコーンならではの固有音のなさ、透明な音色が歌手や楽器の表情をしなやかに伝え、強調や誇張とはまったく縁がない。同ブランドのプレーヤーやアンプに共通するサウンドの指向が明確に伝わってくる。
コンパクトなキャビネットは複数の素材を組み合わせることで共振を徹底的に抑えており、ボーカルやベースにまとわりつく成分はほとんど聴き取ることができない。アコースティック音源を聴くと、位相を精密に管理した設計であることはすぐにわかり、オープンで正確な空間再現にも感嘆する。小空間で聴く小さなリファレンスモニターが欲しい人にうってつけの製品だ。
エーレンホルツ氏とのインタビューでも話題になったが、ハイレゾリューション音源の浸透はスピーカー開発にもいい意味で刺激的な影響を与えているようだ。すでにスペック上は「HDレディ」の性能を有しているとはいえ、テクスチャー豊かな音を再生すると、音質の差が従来以上にはっきり浮かび上がり、技術改善の成果を把握しやすくなるのだという。今回取り上げた3モデルは、いずれもそうした成果を強く実感することができた。
(山之内 正)
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