元日本コロムビアの本間孝男氏が徹底分析

ハイレゾ配信版『レッド・ツェッペリン IV』に期待するわけ ー 元洋楽ディレクターが当時の録音状況を分析

公開日 2014/10/27 14:13 本間孝男
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サンセット・サウンドとレッド・ツェッペリン IV

レッド・ツェッペリンは、1970年12月、ロンドンのアイランド・スタジオで『IV』のためのセッションを開始した。まもなくストーンズの車載スタジオとともに英国南部ハンプシャーにあるヘッドリィ・グランジに移動。録音の大部分をここで行なう。最後はロサンゼルスのサンセット・サウンドに移りミックスを完了する予定だった。

米国などのハイレゾ配信サイトでは現地時間の27日午前0時より『IV』と『聖なる館』の配信が開始された(画像はHDtracks)

日本ではあまり知られていないが、バンド一行はここロサンゼルスで巨大地震の余震に遭遇してしまう。到着直前の1971年2月19日、ロサンゼルス郊外のサンフェルナンドで地震が発生。マグニチュード6.1の直下型で余震の規模も大きかった。スタジオは無事だったが、テープを回すたびに揺れる。バンドは這々の体でロンドンに戻ることに。「カリフォルニア(Going to California)」の歌詞にはこの地震が歌われている。

本番でサンセット・スタジオのミックスが使われたのは「レヴィー・ブレイク (When the Levee Breaks )」ただ一曲。なお、今回のリマスター版『IV』の“コンパニオン・オーディオ”に幻の「天国への階段(サンセット・ミックス)」が含まれている。本来なら本番に入るべきミックスだったが、ツェッペリン一行は結局、アイランド・スタジオに戻りそこでミックスを完了した。その間に英国ツアーを挟んだため、アルバムの完成は予定から大幅に遅れ、5月後半になってしまう。

最終的に『IV』の発売日は1971年11月8日発売となった。完成から発売までさらに間が空いたのは、アルバムが無題であったこと、そしてジャケット全体を通じてグループ名、アルバム名、レコード会社名などの文字が一つも印刷されておらず、レコード会社と揉めたことなどが原因だった。

ハイレゾ版『IV』に期待する聴きどころ

最後にハイレゾ版『IV』に期待する聴きどころについて述べておこう。まず「天国への階段」から。LAからロンドンのアイランドスタジオに戻ってプレイバックを聴いた結果、ペイジは導入部のリコーダーとギターの合奏に続くパートに、12弦ギターを加えることを決める。アンディー・ジョーンズはHELIOSコンソールに12弦を直接つなぎ、EQで音色を整えて録音した。ペイジは各パートで3種類のギターを弾き分け。ハーモニー社のアコースティックギター“Sovereign H1260”、12弦のリッケンバッカー、そしてソロのフェンダー・テレキャスター“1959”だ。それぞれのギターの音色が、リマスターでよりクリアー聴けるはず。ハイレゾならば、リッケンバッカーとジョン・ポールが演奏するエレピのHohnerの音が溶け合う様子も精緻に描写されると期待する。

もう一つの聴きどころはアルバム最後を飾る「レヴィー・ブレイク」だろう。録音に使われたのは英国南部のハンプシャーにあるヘッドリィ・グランジ邸。曲はビートを刻むボーナムの爆音ドラムから始まる。高い吹き抜けのある玄関ホールにドラムスを設置し、少し離れた階段にペア・マイクをセットして録音したのだという。そのサウンドは多くの音楽関係者から「究極のドラムサウンド」と称賛され、サンプリングの好素材にもなっている。しかし、手持ちのCD(1992年製造)は音に元気がない。ハイレゾ・リマスターでボンゾのドラムスがその響きを蘇らせたのか、今から聴くのが楽しみだ。

本間孝男
Takao Homma
【Profile】1971年、日本コロムビアに入社。40年以上にわたり音楽業界に関わる。76年から洋楽ディレクターとしてのキャリアをスタート。翌年の77年にはセックス・ピストルズを担当し、歴史的名盤『勝手にしやがれ!』の邦題を名づける。また、80年代はコロムビアの洋楽ポピュラーの部門をひとりで担い、ニュー・オーダーやPiL、ピクシーズなど数々の伝説的アーティストを担当した。定年退職を迎えて以降は、ライターとして活動している。

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