伝説的名盤のアニバーサリーエディション
ビートルズの名盤『アビー・ロード』2019ステレオ・ミックス発売―ジャイルズ・マーティンが語った制作秘話
■どうやったら正しい形になるか試行錯誤
――まずジャイルズ・マーティンさんが「2019 ステレオ・ミックス」の作業で一番最初に走らせた8トラック・マルチはどの曲でしたか? また、なぜその曲を選んだのでしょうか?
マーティン さあ、どうだろう。そんな質問は誰からもされたことがなかったんだよね(笑)。確か「カム・トゥゲザー」だったと思う。僕たちの作業の手法は、ある一曲の作業を始めてみて、そこから今度は別の曲に移って少し手を加え、どうやったら正しい形になるか試行錯誤するというもの。正しい形で着地できるのだろうかと思ったりもする。うーん、確かアルバムの最初の曲から始めたね。それは、最初から始めるのがしっくりくると感じられたからだ。
――他に何か特別な理由があってというより、アルバムの最初の曲だからというのが、その理由なのですね?
マーティン そうだね。どこかから始めなくてはならないということは分かっているわけだから、最初からやってみるのが得策だということになった。そして、『カム・トゥゲザー』をやった後に、最後のメドレーをやったんだ。ほら、アルバムの最後に収録されているメドレーのことだ。というのも、個人的にそれをやるのをとても楽しみにしていたからなんだ。冒頭から始めて、最後に行き、その後、中間の部分を、という風にやったよ(笑)。
――次にアウトテイクについてお伺いします。アウトテイクの中で最も印象深かった、または興味深かったトラックはなんですか? その理由も教えてください。
マーティン 個人的には、例の会話があるという理由から『アイ・ウォント・ユー』だった。あれは奇妙なロックンロールの歌だと思うんだが、アウトテイクの中に、通りの誰かとの会話が入っている。実はあの曲は、アビー・ロードではレコーディングしていないんだ。ロンドンのウェストエンドにあるトライデントという別のスタジオでやった。あれは確かエンジニアのグリン・ジョンズだったと思うけど、彼がジョン・レノンに、スタジオの外にいる人たちから騒音について苦情を言われていると告げる。すると彼は「こんな夜の遅い時間に、彼らは通りでいったい何をやっているんだ?」と言うんだが、「分からないけれど、音量を下げてくれないか」と頼まれる。するとビートルズは「よし分かった。それでは静かなバージョンをやろうじゃないか。ボリュームを落とすよ」と言う。それはある意味、微笑ましく、クールだと思うんだよね。だからあのアウトテイクは大好きだ。とても人間的だと感じるからね。
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