楽器本来の「質感」をリアルに表現
【試聴レビュー有】ローム、オーディオ用DACチップ第2世代モデル「BD34302EKV」を発表。PCM1536kHzに対応
ローム(株)は、同社が展開する高音質ICのフラグシップ “MUS-ICシリーズ” から、第2世代のオーディオDACチップとなる「BD34302EKV」を発売する。2018年に発売された「BD34301EKV」の後継機となる。
BD34301EKVはロームのMUS-ICシリーズ初のオーディオDACチップで、ラックスマンの「D-10X」やiBasso AudioのDAP等、世界各国のハイエンド・オーディオブランドへの採用実績を持つ。
第2世代となるBD34302EKVは、その実績を元に各社からの機能面での要望を盛り込んで新規開発。さらに音質面でも、これまで重視してきた「空間の響き」「静寂性」「スケール感」の3要素に加えて、楽器本来の「質感」をリアルに表現することを目標としている。
本機の開発においては、新たにDA変換時におけるDWA(Data Weighted Averaging)アルゴリズムを再設計し、THD+N特性を-117dBに改善(BD34301EKVでは-115dB)。DWAは、複数のスイッチ素子を動作させてアナログ変換を行う際、素子のミスマッチを平準化することでオーディオ特性を向上させる技術のことで、特性グラフを見ると特に偶数次高調波歪みの低減を実現している。SN比については前モデルと同様130dB。
さらに、サンプリング周波数は最大PCM 1536kHzに対応する。1536kHzの音源は現実にはほぼ存在しないが、オーディオメーカーが機器に実装する際に、DSPでアップサンプリングなどを行うこともあり、高精度演算のデータをそのままDACチップに転送することができるメリットがあるという。
また「HDモノラルモード」を新たに追加、振幅方向の分解能をより高め、滑らかなDA変換を目指したモードになっているという。モノラルモードは「BD34301EKV」にも搭載されていたが、左右独立で2基使用することでより精度の高いDA変換を実現するものとなる。
また興味深い試みとして、「質感」を表現するために、ICチップのシリコン部分とリードフレームを結ぶ長さ1mm、幅20μm程度のワイヤー材について「金」と「銅」を端子ごとに選択しているという。本件についてはロームの試聴室にて、実際に聴き比べを行っているので後述する。
またPCMとDSDの自動切り替えモードにも対応。これまでは、PCMとDSDの切り替え時にポップノイズ等が発生することがあり、実装時にそれを瞬間的にミュートする等の対策が必要であったが、本製品では、チップが自動でフォーマットを認識。ソフトウェアの設計工数を減らすことに貢献しているという。
またDSD音源の音量調整機能にも対応。PCM変換をせずにDSDネイティブのまま音量調整が可能なことに加えて、DSDのフルスケールレベルをPCMに対して+6dBに設定。SACDハイブリッド版を聴き比べる際に、DSDレイヤーで+6dBしなくても同一ボリュームで比較試聴ができるといったメリットがある。
「BD34302EKV」は2024年10月から販売開始、参考価格は9,000円(税抜/1個)。チップのサイズは12W×12D×1.0Hmm。また評価ボード「BD34302EKV-EVK-001」は参考価格32,000円(税抜)にて販売される。
新横浜にあるロームの試聴室にて、最新のDACチップの音を体験させてもらった。スピーカーはTADのブックシェルフスピーカー「TAD-CE1TX」を使用、パイオニアのCDプレーヤーからデジタル出力した音源を、ローム製のDAコンバーターの「評価ボード」に入力し、評価ボード上のDACチップを差し替える形で比較試聴を行った。
まずは新たに搭載された「HDモノラルモード」と通常の「モノラルモード」の比較から。イーグルスの名録音ライヴアルバムから「ホテル・カリフォルニア」を再生すると、HDモノラルモードのほうが音の鮮烈さ、SNの良さなどに利点を感じられた。特に観客の拍手の盛り上がりでは、一人ひとりの手のひらの動きまで見えるようなリアリティを感じる。
続いて新しいDWAアルゴリズムの違いについて。モードは「HDモノラルモード」に固定して、「DWAアルゴリズム1」(“01” に搭載されていたのバージョン)と「DWAアルゴリズム2」(新たに “02” に搭載されるもの)との聴き比べを実施。こちらはPCからのハイレゾ再生を行った。
YOASOBIの「アイドル」では、中心に立つ彼女の声と、その周りに星のように散らばる音符たちとの距離感が「DWA2」のほうがよりしっかり見えてくる。宇多田ヒカルでは、彼女の声を出す一瞬前の空気感や奥行きなどに「DWA2」の方に分ありと感じられた。
曲を変えてドヴォルザークの「新世界より」(ノイマン指揮、チェコ・フィル)の第4楽章では、無音部から音が立ち上がる瞬間、その明暗のダイナミズムの表現などは「DWA1」にも魅力がある。どちらを選ぶかは実装段階でメーカー側が選択できる(ユーザー側で選択できるように設計するか、ということも含めて)要素になるそうだ。
そして一番興味深い聴き比べは、ICチップとリードフレームをつなぐ約1mm長さのリードワイヤーの素材の聴き比べ。今回は特別に、すべてを「金」にしたものと、すべてを「銅」にしたもの、最終的に決定された「ハイブリッド」の3種類を聴き比べた。
ハイエンドブランドのオーディオケーブルで、金を導体に用いたアナログケーブルなどを試聴したことがあるが、どちらかといえば金は音質にしなやかさを付与するような印象があった。だが、今回のワイヤーの聴き比べについては、「金」のほうがシャキッと輪郭が際立ち、「銅」は少しウォームでやわらかいが、定位感はより優れているように感じられた。ハイブリッドではそれぞれの美味しいとこ取りをしている印象だ。
ロームのDACチップの開発を担当する佐藤陽亮さんも、「開発にあたっては特性と音質の両立が一番難しいポイントでした」と振り返る。前回モデルの音質評価を踏まえつつ、メーカーから提示された課題をひとつひとつ解決して生み出した第2世代モデル。「さらに採用実績を増やしていきたいと考えています」と力強く語ってくれた。
BD34301EKVはロームのMUS-ICシリーズ初のオーディオDACチップで、ラックスマンの「D-10X」やiBasso AudioのDAP等、世界各国のハイエンド・オーディオブランドへの採用実績を持つ。
第2世代となるBD34302EKVは、その実績を元に各社からの機能面での要望を盛り込んで新規開発。さらに音質面でも、これまで重視してきた「空間の響き」「静寂性」「スケール感」の3要素に加えて、楽器本来の「質感」をリアルに表現することを目標としている。
本機の開発においては、新たにDA変換時におけるDWA(Data Weighted Averaging)アルゴリズムを再設計し、THD+N特性を-117dBに改善(BD34301EKVでは-115dB)。DWAは、複数のスイッチ素子を動作させてアナログ変換を行う際、素子のミスマッチを平準化することでオーディオ特性を向上させる技術のことで、特性グラフを見ると特に偶数次高調波歪みの低減を実現している。SN比については前モデルと同様130dB。
さらに、サンプリング周波数は最大PCM 1536kHzに対応する。1536kHzの音源は現実にはほぼ存在しないが、オーディオメーカーが機器に実装する際に、DSPでアップサンプリングなどを行うこともあり、高精度演算のデータをそのままDACチップに転送することができるメリットがあるという。
また「HDモノラルモード」を新たに追加、振幅方向の分解能をより高め、滑らかなDA変換を目指したモードになっているという。モノラルモードは「BD34301EKV」にも搭載されていたが、左右独立で2基使用することでより精度の高いDA変換を実現するものとなる。
また興味深い試みとして、「質感」を表現するために、ICチップのシリコン部分とリードフレームを結ぶ長さ1mm、幅20μm程度のワイヤー材について「金」と「銅」を端子ごとに選択しているという。本件についてはロームの試聴室にて、実際に聴き比べを行っているので後述する。
またPCMとDSDの自動切り替えモードにも対応。これまでは、PCMとDSDの切り替え時にポップノイズ等が発生することがあり、実装時にそれを瞬間的にミュートする等の対策が必要であったが、本製品では、チップが自動でフォーマットを認識。ソフトウェアの設計工数を減らすことに貢献しているという。
またDSD音源の音量調整機能にも対応。PCM変換をせずにDSDネイティブのまま音量調整が可能なことに加えて、DSDのフルスケールレベルをPCMに対して+6dBに設定。SACDハイブリッド版を聴き比べる際に、DSDレイヤーで+6dBしなくても同一ボリュームで比較試聴ができるといったメリットがある。
「BD34302EKV」は2024年10月から販売開始、参考価格は9,000円(税抜/1個)。チップのサイズは12W×12D×1.0Hmm。また評価ボード「BD34302EKV-EVK-001」は参考価格32,000円(税抜)にて販売される。
■ローム試聴室で第2世代DACを比較試聴
新横浜にあるロームの試聴室にて、最新のDACチップの音を体験させてもらった。スピーカーはTADのブックシェルフスピーカー「TAD-CE1TX」を使用、パイオニアのCDプレーヤーからデジタル出力した音源を、ローム製のDAコンバーターの「評価ボード」に入力し、評価ボード上のDACチップを差し替える形で比較試聴を行った。
まずは新たに搭載された「HDモノラルモード」と通常の「モノラルモード」の比較から。イーグルスの名録音ライヴアルバムから「ホテル・カリフォルニア」を再生すると、HDモノラルモードのほうが音の鮮烈さ、SNの良さなどに利点を感じられた。特に観客の拍手の盛り上がりでは、一人ひとりの手のひらの動きまで見えるようなリアリティを感じる。
続いて新しいDWAアルゴリズムの違いについて。モードは「HDモノラルモード」に固定して、「DWAアルゴリズム1」(“01” に搭載されていたのバージョン)と「DWAアルゴリズム2」(新たに “02” に搭載されるもの)との聴き比べを実施。こちらはPCからのハイレゾ再生を行った。
YOASOBIの「アイドル」では、中心に立つ彼女の声と、その周りに星のように散らばる音符たちとの距離感が「DWA2」のほうがよりしっかり見えてくる。宇多田ヒカルでは、彼女の声を出す一瞬前の空気感や奥行きなどに「DWA2」の方に分ありと感じられた。
曲を変えてドヴォルザークの「新世界より」(ノイマン指揮、チェコ・フィル)の第4楽章では、無音部から音が立ち上がる瞬間、その明暗のダイナミズムの表現などは「DWA1」にも魅力がある。どちらを選ぶかは実装段階でメーカー側が選択できる(ユーザー側で選択できるように設計するか、ということも含めて)要素になるそうだ。
そして一番興味深い聴き比べは、ICチップとリードフレームをつなぐ約1mm長さのリードワイヤーの素材の聴き比べ。今回は特別に、すべてを「金」にしたものと、すべてを「銅」にしたもの、最終的に決定された「ハイブリッド」の3種類を聴き比べた。
ハイエンドブランドのオーディオケーブルで、金を導体に用いたアナログケーブルなどを試聴したことがあるが、どちらかといえば金は音質にしなやかさを付与するような印象があった。だが、今回のワイヤーの聴き比べについては、「金」のほうがシャキッと輪郭が際立ち、「銅」は少しウォームでやわらかいが、定位感はより優れているように感じられた。ハイブリッドではそれぞれの美味しいとこ取りをしている印象だ。
ロームのDACチップの開発を担当する佐藤陽亮さんも、「開発にあたっては特性と音質の両立が一番難しいポイントでした」と振り返る。前回モデルの音質評価を踏まえつつ、メーカーから提示された課題をひとつひとつ解決して生み出した第2世代モデル。「さらに採用実績を増やしていきたいと考えています」と力強く語ってくれた。
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