斎賀和彦のハイブリッドカム「DZ-HS503」長期試用レポート<3> − 画質をチェック
ハイブリッドカムは昨年登場したばかりの新しいビデオカメラだ。それゆえ、画質や音質がひじょうに気になるところ。
DVテープ時代の画質の差は、レンズやCCDといったカメラ部分によるものが大きかったが、DVDやHDDカメラにおいてはもうひとつ、ビットレートという要素が加わった。DZ-HS503はMPEG2フォーマットによる記録のため、圧縮率によって画質が変化する。選択肢はSTD/FINE/EXTRAの3つで、後になるほど画質は上がるが、記録時間が短くなるトレードオフの関係にある。
それぞれのモードでの画質は写真11〜16。細かな絵柄が動く(この場合、樹木が風で揺れる)のはMPEG系の苦手なシチュエーションであるが、FINEでほぼ満足できる映像を実現しているのは大したもの。意地悪く見ると時折圧縮ノイズが見られるが、通常はFINEで十分実用的だ。STDはさすがに解像度的に厳しく、非常用や会議の記録用などと考えた方が良いだろう。
画質はHDD記録もDVD記録も同じクオリティで、記録先による差は生じないが、音に関しては異なる。DVD記録時はDVD(円盤)を高速回転させるブーンという低い音がカメラマイクを通して記録されてしまうこともある。これに対し、HDD記録ではカメラノイズはDVテープを使うカメラよりも小さかった。ハイブリッドカムは音ノイズの点でもテープより優位のようだ。
ビデオカメラにおける画質競争はハイビジョンに移り、各社ともSD(標準解像度)カメラでは画質にこだわった機種は激減しているが、その中でDZ-HS503はかなり健闘していると言える。
特に色彩に対するこだわりはかなりのもの。階調表現を向上する12bit処理のA/Dコンバーターを始め、輝度信号を広帯域化したうえで色再現に関する信号処理を行うなど高画質画像処理LSIを搭載、さらにMPEGカメラの肝である画像圧縮も高品位エンコーダーLSIを搭載する。
日立ではこの2つのLSIを組み合わせた高画質指向の回路を「ピクチャーマスター for DVDカム」と名付けているが、たしかにそれだけの効果はある。解像度こそSDではあるが、色の階調や安定感は下手なMPEG4系のハイビジョンカメラより上だ(写真17,18)。ややメリハリ指向ではあるが、このカメラのユーザーの多くは色補正編集などは行わずにDVD化すると思われるので、現実にはこの方が好ましい結果となろう。高画質とともに、画作りの上手さも感じられる。
ビデオカメラはSD(標準解像度)だが、家のテレビはハイビジョンだという人も少なくないだろう。DZ-HS503はワイドモードも備えている。ワイドモードをオンにすると、撮影画角は16対9に切り替わり、ワイドテレビにあったビデオが撮影できる。DZ-HS503の液晶モニターはもともとワイドなので、撮影時も快適だ。このモードではワイド画面を生かした迫力のある映像を撮れるが、解像度はあくまでSD(標準解像度)となる(写真19〜21)。大画面に拡大表示されることになるので、ワイドモード使用時はEXTRA設定をお薦めしたい。
前半でFINEでほぼ満足できる画質と書いたが、MPEG2はフレーム間圧縮のため、実は撮影する絵柄によって圧縮効率が違い、画質に差が出るのが特徴だ。逆に言えば、そのクセを理解し、適切なモードを選ぶのがハイブリッドカムを使いこなすコツでもある。
圧縮ノイズが出やすいのは、ひじょうに細かな背景や、激しく動く被写体、などがあるが、実は手ブレも大敵。カメラの揺れがデータ量を取ってしまうのだ。写真22〜23は、それぞれ11〜16と同じ状況で手持ち撮影したものだが、三脚使用時には目立たないEXTRAとFINEの差がはっきり分かる(同じFINEである13と23に差が出ているのも分かる)。DZ-HS503には手ブレ補正機能が搭載されているので、手持ち撮影の時は必ずオンにするとともに、可能な限りEXTRAモードを使いたい。
このように工夫すれば、DZ-HS503はSD(標準解像度)ビデオカメラとして、かなり高い満足度を得ることができる。
最後に静止画機能を見てみよう。331万画素CCDとピクチャーマスター for DVDカムを生かして、デジカメ並の高精細な静止画の撮影も可能だが、もっとも特徴的なのは、HDD/DVDから自在に静止画を切り出せること。もちろん解像度はビデオ相当(約30万画素)だが、コマ送り感覚でベストな一瞬を選んで写真にできるのは大きなメリット。これまでパソコン上で複雑な編集ソフトを使わないと出来なかった映像からの写真作成が誰にでも簡単にできる。ぜひ一度試して頂きたい機能である(写真26,27)。
DZ-HS503は日立のみが製品化するハイブリッドカムをよく練り上げた完成度の高いビデオカメラとなっている。特に大容量HDDと多彩で実用的なダビングモードの組み合わせはかつてない簡単かつ高度な使いこなしを可能にした。
将来的にはハイビジョン版ハイブリッドカムの登場も期待したいが、SD時代の使いやすいビデオカメラとしてDZ-HS503は高い能力を持っている。
【参考:各静止画の撮影条件】
(斎賀和彦)
バックナンバー
・第1回…本機の概要をチェック
・第2回…ダビング機能をチェック
斎賀和彦 プロフィール
1963年名古屋生まれ、東京都在住。東京ムービー新社で劇場映画「AKIRA」参加後、CF制作会社井出プロダクションで企画演出として多くのコマーシャルフィルムに携わる中で、ノンリニア映像編集の黎明期に立ち会う形となる。「デジタルスケープ」チーフトレーナーを経て、様々な大学、大学院で理論と実践の両面から映像を教える。並行して写真・映像等の企画・制作を行うほか、デジタル編集を中心にビデオ専門誌等に執筆。デジタルハリウッド大学院准教授。
DVテープ時代の画質の差は、レンズやCCDといったカメラ部分によるものが大きかったが、DVDやHDDカメラにおいてはもうひとつ、ビットレートという要素が加わった。DZ-HS503はMPEG2フォーマットによる記録のため、圧縮率によって画質が変化する。選択肢はSTD/FINE/EXTRAの3つで、後になるほど画質は上がるが、記録時間が短くなるトレードオフの関係にある。
記録画質モード | HDDの記録時間 | DVD1枚(片面)の記録時間 | ビットレート |
EXTRA | 約7時間 | 約18分 | VBR(可変)3M〜10Mbps |
FINE | 約11時間 | 約30分 | CBR(固定)約6Mbps |
STD | 約23時間 | 約60分 | CBR(固定)約3Mbps |
それぞれのモードでの画質は写真11〜16。細かな絵柄が動く(この場合、樹木が風で揺れる)のはMPEG系の苦手なシチュエーションであるが、FINEでほぼ満足できる映像を実現しているのは大したもの。意地悪く見ると時折圧縮ノイズが見られるが、通常はFINEで十分実用的だ。STDはさすがに解像度的に厳しく、非常用や会議の記録用などと考えた方が良いだろう。
画質はHDD記録もDVD記録も同じクオリティで、記録先による差は生じないが、音に関しては異なる。DVD記録時はDVD(円盤)を高速回転させるブーンという低い音がカメラマイクを通して記録されてしまうこともある。これに対し、HDD記録ではカメラノイズはDVテープを使うカメラよりも小さかった。ハイブリッドカムは音ノイズの点でもテープより優位のようだ。
ビデオカメラにおける画質競争はハイビジョンに移り、各社ともSD(標準解像度)カメラでは画質にこだわった機種は激減しているが、その中でDZ-HS503はかなり健闘していると言える。
特に色彩に対するこだわりはかなりのもの。階調表現を向上する12bit処理のA/Dコンバーターを始め、輝度信号を広帯域化したうえで色再現に関する信号処理を行うなど高画質画像処理LSIを搭載、さらにMPEGカメラの肝である画像圧縮も高品位エンコーダーLSIを搭載する。
日立ではこの2つのLSIを組み合わせた高画質指向の回路を「ピクチャーマスター for DVDカム」と名付けているが、たしかにそれだけの効果はある。解像度こそSDではあるが、色の階調や安定感は下手なMPEG4系のハイビジョンカメラより上だ(写真17,18)。ややメリハリ指向ではあるが、このカメラのユーザーの多くは色補正編集などは行わずにDVD化すると思われるので、現実にはこの方が好ましい結果となろう。高画質とともに、画作りの上手さも感じられる。
ビデオカメラはSD(標準解像度)だが、家のテレビはハイビジョンだという人も少なくないだろう。DZ-HS503はワイドモードも備えている。ワイドモードをオンにすると、撮影画角は16対9に切り替わり、ワイドテレビにあったビデオが撮影できる。DZ-HS503の液晶モニターはもともとワイドなので、撮影時も快適だ。このモードではワイド画面を生かした迫力のある映像を撮れるが、解像度はあくまでSD(標準解像度)となる(写真19〜21)。大画面に拡大表示されることになるので、ワイドモード使用時はEXTRA設定をお薦めしたい。
前半でFINEでほぼ満足できる画質と書いたが、MPEG2はフレーム間圧縮のため、実は撮影する絵柄によって圧縮効率が違い、画質に差が出るのが特徴だ。逆に言えば、そのクセを理解し、適切なモードを選ぶのがハイブリッドカムを使いこなすコツでもある。
圧縮ノイズが出やすいのは、ひじょうに細かな背景や、激しく動く被写体、などがあるが、実は手ブレも大敵。カメラの揺れがデータ量を取ってしまうのだ。写真22〜23は、それぞれ11〜16と同じ状況で手持ち撮影したものだが、三脚使用時には目立たないEXTRAとFINEの差がはっきり分かる(同じFINEである13と23に差が出ているのも分かる)。DZ-HS503には手ブレ補正機能が搭載されているので、手持ち撮影の時は必ずオンにするとともに、可能な限りEXTRAモードを使いたい。
このように工夫すれば、DZ-HS503はSD(標準解像度)ビデオカメラとして、かなり高い満足度を得ることができる。
最後に静止画機能を見てみよう。331万画素CCDとピクチャーマスター for DVDカムを生かして、デジカメ並の高精細な静止画の撮影も可能だが、もっとも特徴的なのは、HDD/DVDから自在に静止画を切り出せること。もちろん解像度はビデオ相当(約30万画素)だが、コマ送り感覚でベストな一瞬を選んで写真にできるのは大きなメリット。これまでパソコン上で複雑な編集ソフトを使わないと出来なかった映像からの写真作成が誰にでも簡単にできる。ぜひ一度試して頂きたい機能である(写真26,27)。
DZ-HS503は日立のみが製品化するハイブリッドカムをよく練り上げた完成度の高いビデオカメラとなっている。特に大容量HDDと多彩で実用的なダビングモードの組み合わせはかつてない簡単かつ高度な使いこなしを可能にした。
将来的にはハイビジョン版ハイブリッドカムの登場も期待したいが、SD時代の使いやすいビデオカメラとしてDZ-HS503は高い能力を持っている。
【参考:各静止画の撮影条件】
写真 | モード | 条件 | 備考1 | 備考2 |
11 | EXTRA | 三脚使用 | テレ端 | |
12 | EXTRA | 三脚使用 | ワイド端 | |
13 | FINE | 三脚使用 | テレ端 | |
14 | FINE | 三脚使用 | ワイド端 | |
15 | STD | 三脚使用 | テレ端 | |
16 | STD | 三脚使用 | ワイド端 | |
17 | EXTRA | 手持ち | ||
18 | EXTRA | 手持ち | ||
19 | EXTRA | 三脚使用 | テレ端 | ワイドモード |
20 | FINE | 三脚使用 | テレ端 | ワイドモード |
21 | STD | 三脚使用 | テレ端 | ワイドモード |
22 | EXTRA | 手持ち | テレ端 | |
23 | FINE | 手持ち | テレ端 | |
24 | STD | 手持ち | テレ端 | |
26 | 静止画切り出し | 約30万画素 | HDDから | |
27 | 静止画切り出し | HDDから | ワイドモード |
(斎賀和彦)
バックナンバー
・第1回…本機の概要をチェック
・第2回…ダビング機能をチェック
斎賀和彦 プロフィール
1963年名古屋生まれ、東京都在住。東京ムービー新社で劇場映画「AKIRA」参加後、CF制作会社井出プロダクションで企画演出として多くのコマーシャルフィルムに携わる中で、ノンリニア映像編集の黎明期に立ち会う形となる。「デジタルスケープ」チーフトレーナーを経て、様々な大学、大学院で理論と実践の両面から映像を教える。並行して写真・映像等の企画・制作を行うほか、デジタル編集を中心にビデオ専門誌等に執筆。デジタルハリウッド大学院准教授。