【スペシャルインタビュー】イメーション会長・松井国悦氏に聞く − 次世代の記録メディア事業戦略
イメーションが本当のリーダーになることが
ユーザーによりよいものを、より早くご提供していくことに
結びついていきます
2008年の幕開けと共に、TDKマーケティングと統合した新生イメーションがスタートを切った。ますます厳しくなるメディアを取り巻く市場環境の下、統合によるメリットをどのように発揮していくのか。市場での高い注目と期待が集まる同社の事業戦略を、代表取締役会長に就任した松井国悦氏に聞く。(インタビュー/Senka21編集部・Phile-web編集部)
BtoC市場での大きな成長が命題
―― 08年1月1日より、TDKマーケティングとイメーションが統合され、新生イメーションとしてスタートを切られました。日本の流通ではまだ馴染みが薄い部分もあるかと思われるイメーション社についてご説明いただけますか。
松井氏 グローバルには06年度に約16億ドルの売上げがあり、事業拠点の数ではTDKレコーディングメディアより圧倒的に多く、全世界100ヵ国以上の市場で営業活動を行っています。本社は米国ミネソタ州オークデールにあり、全従業員が約2000名。米国、欧州、アジアパシフィック、そして日本の4つの拠点に大別され、メインはデータストレージのビジネスです。
両社の足跡を見ますと、偶然にも1953年に、TDKは録音用磁気テープを、イメーションは世界初のコンピューターテープを発売し、以降、BtoBデータストレージのイメーション、BtoCオーディオ・ビデオのTDKとして、それぞれの地位を確固たるものにしてきました。
イメーションという会社は、96年にスリーエムからスピンオフし、その後、データストレージをコアに選択と集中を進め、成長して参りました。97年から05年の年平均成長率(CAGR)が6.2%。特に、01年からはLTO等の新しい商品が揃い、フェイズ3と位置付ける01年から05年では9.5%にもなっています。しかし、データストレージの成長だけではなかなか株主の期待に応えきれない。そこで、06年にメモレックスを買収し、BtoC事業にさらに積極的に取り組んでいく方針を打ち出しました。07年にはTDK Life on Recordブランドの使用ライセンス権を取得し、マルチブランドでブランドマネージメントとプロダクトマネージメントができる会社にトランスフォームしていくことを明確化しました。それは、06年からのフェイズ4において、大きな成長をBtoCのマーケットで行っていくという覚悟の表れでもあります。
―― 具体的にはどのような形で進められていくのですか。
松井氏 イメーションには4つの製品軸があります。まず、データストレージの「マグネティックテープ」ですが、こちらでは最適化を進めていきます。残りの3つ、「オプティカル」「USBフラッシュ」「リムーバブルハードディスク」で、ブランドを最大限に活用しながら、さらなる成長を遂げて参ります。
データストレージだけでなく、アクセサリー関連についても、TDK Life on Record、イメーション、メモレックス(日本除く)のブランドでグローバルに展開していきます。特に米国ではメモレックスがNo.1ブランドですから、さらにコンシューマーエレクトロニクス方面にも拡大していきたいと考えています。
イメーションは記録メディアのリーディングカンパニーとして、お客様のニーズにマッチした質の高いソリューションおよび商品をスピーディーに提供することで、信頼に応え、ブランド力を高める本物の価値を創造する企業となることがミッションです。本物の価値を創造するということは、お客様のニーズを理解することが基点になります。ものごとが大変スピーディーに展開する中で、私どもからもスピーディーな提案やサービスの提供ができなければなりません。また、ソリューションや商品の内容として重視するのが“品質”です。イメーションはBtoBで、TDKはBtoCでこだわりを持ち続けてやってきました。そのこだわりこそが“品質”です。お客様の信頼に応えることではじめてブランドが培われます。私どもが価値を提供していくことで、利益が得られ、厳しい市場環境の中で存続し、勝ち抜いていくことができるわけです。
よりよいソリューションの提供を統合で実現
―― 今回の両社の統合により、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
松井氏 イメーションもTDKレコーディングメディアも、その本質は製造であり、開発であり、品質です。そこへのこだわりを大切にしてきたカルチャーが、社員ひとりひとりに、それも非常に深いところに根差しています。今回の統合を進めていく上で、「これはいける」と思ったのがこのカルチャーなのです。人と人がうまくいかない限り、事業統合というのは成功しません。
現在、BtoCの事業でもっとも重要なのは光ディスクですが、これは他社も同様ですが、なかなか垂直統合というわけにはいきません。そこでわれわれが事業としてのコンペティテブ・アドバンテージを得るために必要なのが、販売力と調達力です。ワールドワイドで調達を行いますので、それを支えるSCMやオペレーションも必要になります。そこで統合によるメリットが発揮できます。より強い会社になることで、お客様によりよいソリューションを提供していくというのが統合に対する私どもの強い思いです。
―― 垂直統合型の時代には、品質面での他社に対する差別化も行いやすかったと思いますが、現在はどのような点からそれを進めていくお考えですか。
松井氏 確かにこの点についてはむずかしい面がありますね。お客様はコストも求めていらっしゃいますから、あまりオーバークオリティにすると、コストがまったく立ち行かない。その結果、流通の皆様に購入していただけなくなり、お客様に商品が届けられなくなってしまいます。
光ディスクにはご存じの通りブック規格があり、TDKレコーディングメディアもイメーションも、これまではそれよりさらに上の社内規格を独自に設けていました。しかしその点についても、規格より上に設定するのは、商品のポジショニングによって柔軟に対応するといった考え方も必要になってくるのではないかと思います。
―― 記録メディアのBtoCのビジネスでは、ブック規格という概念が出てきてから、事業構造や収益構造がガラリと変わりました。差別化と収益の確保が非常にむずかしい事業になってきていますね。
松井氏 差別化するためのVPP(Value Positioning Product)として、「超硬DVD」をご提案しましたが、コミュニケーションをとりながら、お客様にも内容を正しくご理解いただくことができました。基本的なスペックはなかなか変えられないのが実情ですが、これからもいろいろと知恵を出しながら、ご提案を続けていきたいと考えています。
―― 「超硬DVD」が発表されたときに、お客様に対する用途提案からスペックを決めていかれるような、オーディオやビデオのときの考え方が連綿とつながっているなと心強く思いました。
松井氏 それはやはり失ってはいけないものです。BtoCでの競争力は、TDKレコーディングメディアの方がイメーションに比べてずっと高い。そこをきちんと残しながら、これまでのイメーションブランドではなかなかできなかったようなこと、より高いイメーションのブランド価値の創造を行っていきたいと考えています。
―― TDK Life on Recordというブランドが、イメーションという新しい枠の中に入ったときに、これまでの考え方がどう継承されるのか。それが、流通やエンドユーザーの一番気になっていたところだと思いますが、心配は不要ですね。
松井氏 TDKレコーディングメディアがやってきたこと、大切にしてきたことはいままでと変わりありませんし、また、新しい市場の要求に即した形でこれからも提供させていただきます。そして、TDK Life on Recordのブランドだけでなく、私どもが扱うブランド、少なくともイメーションというブランドは社名を冠したブランドですから、BtoCの中で決して高いとは言えない日本における現在のポジションを、現実を直視し、さらに高めていきたいと思います。ただそうは言いましても一朝一夕にはいきません。TDK Life on Recordブランドのコンピテンシーを十分に使いながら、ブランドの価値を高めていくというのが今の考え方です。
私ども1社でマルチブランドのソリューションを提供できることは、流通のお客様にとっての価値にもなってきます。それだけ幅広いセレクションをお客様に提供できることになります。TDKレコーディングメディアだけではなかなか提供できなかった価値を、イメーションだからこそ提供することが可能になりました。
―― イメーションの研究開発チームについては、今後どのような位置付けになりますか。
松井氏 イメーションとしての製造は、基本的にはデータストレージテープを中心に行っています。CD(光)が成長してきた時点で、イメーションは戦略的に「光には積極的な投資をしない」という意思決定を行っています。テクノロジーセンターにおいてコアな研究開発と製造を行っていますが、限られたリソースをテープに選択・集中したその決断は、私は正しかったと思います。今後の研究開発については、これからもTDKレコーディングメディアのリソースやコンピテンシーを使わせていただくというのが基本的な考え方となります。
ブルーレイをテコに業界のリーダーへ
―― マルチブランド戦略で、今後、それぞれのブランドの商品の差別化や、プロモーションをどう切り分けていくか、注目されるテーマですね。
松井氏 基本的なコンセプトはお客様です。家電量販店に行くお客様もいれば、ホームセンターに足を運ぶお客様もいる。千差万別のお客様に対し、流通のパートナーさんを経由して商品が提供されるわけですから、ひとつの固定的な戦略というのはありえません。それぞれのチャネルに対し、どのようなブランドやオファーの仕方が、そのチャネルに買いに来てくださるお客様に適切かということです。
5円でも10円でも安くというお客様もいらっしゃいます。いままでのTDKレコーディングメディアの考え方からすれば、「それはうちの市場ではない」という考え方でしょう。しかし現在、市場には粗悪品も実在し、マーケットシェアで実に2割から3割を占めています。そこではきわめて欧米的に、100枚スピンドルなら10枚くらいは粗悪品でも構わないという考え方ですが、それが日本市場にも浸透してきて、きわめて価格セントリックな流通に流れています。ほとんどのお客様は、DVDの規格や仕様の違いもよくわからないのが実情なのですから、「うちの市場ではない」のではなく、イメーションは光のリーディングカンパニーとして、すべてのお客様のことを考えていかなければならないと考えています。
―― 営業やプロモーションについてはどのような編成になるでしょう。
松井氏 基本的には、「BtoB」と「BtoC」という考え方で大きく括り、その中では上から下までグローバルで情報を共有していきます。BtoCの先にいるお客様と、BtoBの会社等でお使いになるお客様とでは基本的に違いますから、それぞれ先にいるお客様で分けようということです。しかし、プリンシパルは常に変わりません。そこを変えてしまったらトレーダーになってしまいますからね。そこが、価値を追求していく企業と、どこかから買ってきて売ればいいじゃないかという企業の決定的な違いだと思います。
―― そのBtoCの中心にTDK Life on Recordというブランドがあるわけですね。
松井氏 TDK株式会社はイメーショングローバルの筆頭株主ですし、新会社の社員もTDK株式会社からの出向者が多くいます。イメーションがメディアにおけるリーディングカンパニーになることが、TDK株式会社にとっての注目を高めていくことにもつながります。現在、ブルーレイではわれわれがメディアメーカーの最先端を走っています。「ブルーならTDK Life on Record」「ブルーならイメーション」ということで、ここをテコにしてやっていきたいですね。
―― またTDKでは、イメーションにメディアの販売事業を譲渡される一方、イメーションの筆頭株主として、その影響力の範囲を格段に高められました。
松井氏 昨年12月に株式を買い増して20%にしました。これは利益の連結ができるということと、ボードメンバーに役員を送れることを意味します。経営の意思決定にもTDK株式会社がきちんと参画しているわけです。
戦略的な協調やパートナーというのは、実はM&Aの中で昔からやっていて、メディアメーカーだけがなぜか、すべて自分たちだけで行っていました。それがようやく普通になったと、私は捉えています。統合をきちんと進めることで、イメーションがこの業界での本当のリーダーになることができる。それが、お客様によりよいものを、より早くご提供していくことに結びついていきます。
この年末年始商戦のBDレコーダーの売り場を見ていても、量販店さんが、メディアの価値ある商品をもっと大事に売っていこうと、熱心に取り組んでいらっしゃいました。そうした期待に応えていかなければいけないですね。
―― さらに安心して、いいものをお届けできる環境が今回の統合により実現されていく。メディア市場のリーディングカンパニーとして、今後の活躍を大いに期待しています。
プロフィール:1954年3月生まれ。大阪府出身。1978年TDK(株)入社。以来、記録メディア畑を歩み続ける。79年より20年以上にわたり米国に赴任。IT、オペレーション、マーケティング、製造企画など、幅広い業務を担当。98年10月 TDK Electronics Corporation President&CEOに就任。05年4月に日本に戻り、TDK(株)記録メディアビジネスグループ Deputy General Manager、06年7月 同General Manager、07年7月 TDKマーケティング(株)代表取締役社長を歴任。08年1月 イメーション(株)代表取締役会長に就任、現在に至る。趣味はゴルフとフライフィッシング。
(Senka21編集部・Phile-web編集部)