【テストレポート】日立の第2世代BDカメラ「DZ-BD9H」が成し遂げた大きな進化
2007年夏に世界初のBDメディア対応ビデオカメラとしてデビューを飾った日立のハイブリッドカメラ「DZ-BD7H」。本体に8cmBD/DVDドライブを搭載することで、MPEG4/AVCの1,920×1,080ハイビジョン映像を最高画質で約1時間撮影できる新世代ビデオカメラとして大いに注目を集めた。
●新型CMOSセンサーだけが画質面の変更点なのか
今回紹介する新モデル「DZ-BD9H」(関連ニュース)は、BDドライブ搭載はそのままに、HDD容量を60GBに増やした上位モデル。ボディは高級機の風格を纏うブラックカラーに変更し、画質にも新たなチューニングを施した。
画質面に注目すると、「DZ-BD9H」は入り口から全デバイスに1,920×1,080の設計で、各所に自社開発のデバイスを採用。ハイビジョンレンズに新型の約530万画素1/2.8型CMOSセンサー、画像処理回路には独自の“Picture Master Full HD”を使い、MPEG4 AVC圧縮に適応型動き予測技術MBAFF搭載と随所に独自を採用している。
以上のように紹介すると、今回登場した「DZ-BD9H」との大きな変更点は約530万画素1/2.8型CMOSだけのようにも思える。
しかし、筆者が僚誌『AVレビュー』で行った開発者チームへの取材によると、“光学フィルター”、“センサー”、“映像エンジン”を三位一体で改良し、活用する新システムこそが高画質の鍵を握っていることが分かってきた。
●解像度を従来機より更に向上させた「DZ-BD9H」の新システム
「DZ-BD9H」が高画質化に向けて採用した新システムの仕組みを解説しよう。
一般にビデオカメラのレンズで捉えた映像は光学フィルターで処理を行い、撮像素子で電気信号に変換して、映像エンジンで補正や圧縮を行っている。
このとき通常のビデオカメラでは、光学フィルターの時点で、解像度を少し落とすことで、信号の干渉によるモアレを回避し、その状態で撮像素子を通し、信号映像エンジンで解像感を補う処理を行ってきた。解像感とモアレの発生はある意味トレードオフの関係にあり、DZ-BD7Hを含む一般のビデオカメラは、ある程度の解像度を妥協することでモアレを防ぎ、画質のバランスを保ってきたのだ。
「DZ-BD9H」の画質向上のポイントは、この3つの工程である光学フィルター、CMOSセンサー、映像エンジンの使い方を変え、モアレ回避と解像感の両立を図ったことにある。
「DZ-BD9H」の採用した新システムでは、光学フィルターを改善し、本来の解像度の信号そのままをCMOSセンサーで電気信号へと変換する。この場合の電気信号は当然モアレの含まれた状態になるが、「DZ-BD9H」はその後の処理を行う映像エンジン、Picture Master Full HD にリアルタイムで色モアレを除去する機能を追加することで対処する。これらの組み合わせにより、従来以上の解像度と色モアレのない映像の両立に成功した。
新システムの採用によって実現された画質向上の効果も大きい。光学フィルターの変更は映像信号を10%増加させ、映像の解像感向上に繋がり、新たなCMOSセンサーは透過率向上により低照度の撮影性能をアップさせる効果をもたらしうる。映像エンジンのPicture Master Full HDは、色モアレ低減と同時に低照度画質、さらに圧縮アルゴリズムの見直しによる遠景解像度の向上も図られた。
●隅々にまで情報の宿る高精細な映像
今回「DZ-BD9H」の発売前サンプル貸出を受けることができたので、2月の寒空の下、公園で実際に製品を使った撮影テストを行った。幸い晴天には恵まれたものの真冬の撮影だけに寒々とした景色になってしまったことを先に断っておきたい。
今回は撮影した動画からカメラ本体からSDカードへの静止画キャプチャー機能を使ってサンプル映像を切り出している。
実際に静止画として切り出した映像を見て驚かされたのは、画面全体に多くの情報が宿る、高い解像感だ。MPEG4 AVC圧縮の基本技術は現在増えつつあるAVCHDカムのものと同じながら、「DZ-BD9H」の映像の精細感はその中でも抜群に良い。
▲午前中の公園にて撮影。キャプチャーしたオリジナル画像はこちら
▲解像度テストとして撮影したタイル。キャプチャーしたオリジナル画像はこちら
例えば遠景の枝の描写は、動画から切り出したものとは思えないほどキメ細かなディティールで、輪郭にも誇張感はなく、前景と背景の立体感を残している。タイルを見ても分かるとおり、周辺解像度にも気を配っているようで、隅々まで静止画として十分鑑賞に堪えるほどだ。余裕ある情報量に裏打ちされた自然な映像は、デバイスの実力を引き出す新システムによって初めてもたらされたものだ。
▲色調とボケ味をチェック。キャプチャーしたオリジナル画像はこちら
▲日陰から逆光の条件で撮影。キャプチャーしたオリジナル画像はこちら
色合いも自然にまとまっている。今回撮影した映像はやや暖色系にも見えるものの、寒空の下と実際撮影ロケーションの色調にも近い。見栄えを重視した絵作りをするビデオカメラも多いなかで、自然な色調を追求したモデルと言えるだろう。
▲ワイド端。キャプチャーしたオリジナル画像はこちら
▲テレ端(光学12倍、デジタルズームはOFFの設定で使用)。キャプチャーしたオリジナル画像はこちら
撮影の機能は基本的にDZ-BD7Hの機能を受け継いでおり、基本的にオートで撮影することを念頭に置いたモデルで、設定項目はシンプル。もっとも、プログラムAEやホワイトバランスのプリセット、取り込みは可能なため、シチェーションに応じた使い分けもできるだろう。
●BDメディアの採用と高いAV機器との親和性
進化を遂げた画質の他にも、操作性についても簡単に触れておこう。
撮影時間はHDDを60GBに増量したことにより、最高画質のHXモード(約15Mbps)で約9時間、8cmBDメディア単体で約1時間と長く、残量を気にせずに撮影できる余裕のスペック。HDDに記録した映像は8cmBDメディアへダビングできるが、ACアダプタ接続が必須となるため、旅行に持ち出して8cm BDにバックアップするような際にはACアダプタを忘れずカバンに入れておこう。製品にはPC向けのBD取り込みソフト『ImageMixer 3 HD Edition for HITACHI 』も付属するため、記録型BDドライブを組み合わせればPC取り込みによる活用とBD環境との親和性の高さも魅力だ。
映像を撮影・ダビングしたBDディスクは、昨年秋発売のBDレコーダーの一部製品やPS3で再生できる互換性を確保している。
また、自宅で大画面テレビと接続して撮影した映像を確認したり、ダビングの操作を行う際に使用するHDMI端子は、ミニ端子ではなく、DVDレコーダーなどの機器と同じ大きさのもので、テレビとの接続性に優れることは特筆に値する。
半年の時を経て登場した「DZ-BD9H」は、発売後も画質改良を進めたという「DZ-BD7H」の全成果を盛り込み、さらに新システムでデバイスの持つ実力を引き出した。BDビデオカメラという新メディアを採用した画期的なモデルであるだけでなく、クオリティ面からも改めて評価したいモデルの登場である。
(折原一也)
折原一也 プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。
●新型CMOSセンサーだけが画質面の変更点なのか
今回紹介する新モデル「DZ-BD9H」(関連ニュース)は、BDドライブ搭載はそのままに、HDD容量を60GBに増やした上位モデル。ボディは高級機の風格を纏うブラックカラーに変更し、画質にも新たなチューニングを施した。
画質面に注目すると、「DZ-BD9H」は入り口から全デバイスに1,920×1,080の設計で、各所に自社開発のデバイスを採用。ハイビジョンレンズに新型の約530万画素1/2.8型CMOSセンサー、画像処理回路には独自の“Picture Master Full HD”を使い、MPEG4 AVC圧縮に適応型動き予測技術MBAFF搭載と随所に独自を採用している。
以上のように紹介すると、今回登場した「DZ-BD9H」との大きな変更点は約530万画素1/2.8型CMOSだけのようにも思える。
しかし、筆者が僚誌『AVレビュー』で行った開発者チームへの取材によると、“光学フィルター”、“センサー”、“映像エンジン”を三位一体で改良し、活用する新システムこそが高画質の鍵を握っていることが分かってきた。
●解像度を従来機より更に向上させた「DZ-BD9H」の新システム
「DZ-BD9H」が高画質化に向けて採用した新システムの仕組みを解説しよう。
一般にビデオカメラのレンズで捉えた映像は光学フィルターで処理を行い、撮像素子で電気信号に変換して、映像エンジンで補正や圧縮を行っている。
このとき通常のビデオカメラでは、光学フィルターの時点で、解像度を少し落とすことで、信号の干渉によるモアレを回避し、その状態で撮像素子を通し、信号映像エンジンで解像感を補う処理を行ってきた。解像感とモアレの発生はある意味トレードオフの関係にあり、DZ-BD7Hを含む一般のビデオカメラは、ある程度の解像度を妥協することでモアレを防ぎ、画質のバランスを保ってきたのだ。
「DZ-BD9H」の画質向上のポイントは、この3つの工程である光学フィルター、CMOSセンサー、映像エンジンの使い方を変え、モアレ回避と解像感の両立を図ったことにある。
「DZ-BD9H」の採用した新システムでは、光学フィルターを改善し、本来の解像度の信号そのままをCMOSセンサーで電気信号へと変換する。この場合の電気信号は当然モアレの含まれた状態になるが、「DZ-BD9H」はその後の処理を行う映像エンジン、Picture Master Full HD にリアルタイムで色モアレを除去する機能を追加することで対処する。これらの組み合わせにより、従来以上の解像度と色モアレのない映像の両立に成功した。
新システムの採用によって実現された画質向上の効果も大きい。光学フィルターの変更は映像信号を10%増加させ、映像の解像感向上に繋がり、新たなCMOSセンサーは透過率向上により低照度の撮影性能をアップさせる効果をもたらしうる。映像エンジンのPicture Master Full HDは、色モアレ低減と同時に低照度画質、さらに圧縮アルゴリズムの見直しによる遠景解像度の向上も図られた。
●隅々にまで情報の宿る高精細な映像
今回「DZ-BD9H」の発売前サンプル貸出を受けることができたので、2月の寒空の下、公園で実際に製品を使った撮影テストを行った。幸い晴天には恵まれたものの真冬の撮影だけに寒々とした景色になってしまったことを先に断っておきたい。
今回は撮影した動画からカメラ本体からSDカードへの静止画キャプチャー機能を使ってサンプル映像を切り出している。
実際に静止画として切り出した映像を見て驚かされたのは、画面全体に多くの情報が宿る、高い解像感だ。MPEG4 AVC圧縮の基本技術は現在増えつつあるAVCHDカムのものと同じながら、「DZ-BD9H」の映像の精細感はその中でも抜群に良い。
例えば遠景の枝の描写は、動画から切り出したものとは思えないほどキメ細かなディティールで、輪郭にも誇張感はなく、前景と背景の立体感を残している。タイルを見ても分かるとおり、周辺解像度にも気を配っているようで、隅々まで静止画として十分鑑賞に堪えるほどだ。余裕ある情報量に裏打ちされた自然な映像は、デバイスの実力を引き出す新システムによって初めてもたらされたものだ。
色合いも自然にまとまっている。今回撮影した映像はやや暖色系にも見えるものの、寒空の下と実際撮影ロケーションの色調にも近い。見栄えを重視した絵作りをするビデオカメラも多いなかで、自然な色調を追求したモデルと言えるだろう。
撮影の機能は基本的にDZ-BD7Hの機能を受け継いでおり、基本的にオートで撮影することを念頭に置いたモデルで、設定項目はシンプル。もっとも、プログラムAEやホワイトバランスのプリセット、取り込みは可能なため、シチェーションに応じた使い分けもできるだろう。
●BDメディアの採用と高いAV機器との親和性
進化を遂げた画質の他にも、操作性についても簡単に触れておこう。
撮影時間はHDDを60GBに増量したことにより、最高画質のHXモード(約15Mbps)で約9時間、8cmBDメディア単体で約1時間と長く、残量を気にせずに撮影できる余裕のスペック。HDDに記録した映像は8cmBDメディアへダビングできるが、ACアダプタ接続が必須となるため、旅行に持ち出して8cm BDにバックアップするような際にはACアダプタを忘れずカバンに入れておこう。製品にはPC向けのBD取り込みソフト『ImageMixer 3 HD Edition for HITACHI 』も付属するため、記録型BDドライブを組み合わせればPC取り込みによる活用とBD環境との親和性の高さも魅力だ。
映像を撮影・ダビングしたBDディスクは、昨年秋発売のBDレコーダーの一部製品やPS3で再生できる互換性を確保している。
また、自宅で大画面テレビと接続して撮影した映像を確認したり、ダビングの操作を行う際に使用するHDMI端子は、ミニ端子ではなく、DVDレコーダーなどの機器と同じ大きさのもので、テレビとの接続性に優れることは特筆に値する。
半年の時を経て登場した「DZ-BD9H」は、発売後も画質改良を進めたという「DZ-BD7H」の全成果を盛り込み、さらに新システムでデバイスの持つ実力を引き出した。BDビデオカメラという新メディアを採用した画期的なモデルであるだけでなく、クオリティ面からも改めて評価したいモデルの登場である。
(折原一也)
折原一也 プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。