HDR技術戦略・小倉氏にインタビュー
<CES>消費電力はそのまま高輝度4,000nit実現。ソニー「Backlight Master Drive」の秘密
■「Backlight Master Drive」は高輝度化を実現しつつ、消費電力はほぼ変わらない
「Backlight Master Drive」の技術背景は、大きく分けて4つある。
1.LEDのバックライト同士で相互に干渉しないよう、光学設計を変えていること
2.(詳細は秘密とのことだが)高輝度のLEDを利用していること
3.高密度実装の直下型LEDを利用していること
4.緻密なバックライト駆動アルゴリズムを採用していること
4,000nitの実現は不要部分の電力の融通のみで行われており、現在発売されている同一サイズ(85型)の4Kブラビアから消費電力は変わっていない。また発熱対策も、ペルティエ素子のように他のシステムを必要としない高密度設計とアルゴリズムとなっている。
技術的にはソニーが3年前から採用するXDRに近いものだが、高輝度のLEDを採用し緻密な制御をすると、輝度を上げコントラストを高く取れるというものだ。
会場で公開しているプロトタイプのバックライトの分割数は非公表だが、技術デモとしてその動きが見える形で公開されている。筆者が実際に見た限りでは2,000分割以上あるようにも見える。現行の直下型バックライトの機種のハイエンドでも128分割程度なので、この数字は文字通り“桁違い”。バックライトを映した映像だけでモノクロ映像として元の絵が判別できるほどの水準だ。
勿論、理想としては厳密にコントラストをあげるには液晶1ドットに対して1バックライト、つまり4Kの3,840x2,160ドット分のバックライトが必要では? と疑問も出てくるが「人間の目には、入ってきた光の拡散と迷光があるので、厳密の1ピクセルが光っても、ぼわっと光って見えてしまうんです。なので、1ピクセル単位でバックライトを用意しても、その分だけの意味は出ません。『Backlight Master Drive』で採用する分割数は、その視覚特性上の十分な値を狙っています」(小倉氏)と、そこにも配慮の行き届いた設計がなされている。
実際に「Backlight Master Drive」で実現された映像を見てみたところ、映画『アニー』の映像は現実世界さながらに眩しくリアリティがあり、ラスベガスの夜景のネオンを撮影した映像は文字通り眩しく、高輝度の領域でも色が潰れず、ギラギラとした赤色のネオンの光までも表現できる。HDRは1,000nitでも十分効果できると思っていたが、4,000nitの映像は異次元なほど高画質だ。
さて、もしこの記事を読まれた方で、HDR 4,000nitという輝度スペックにピンと来た人がいたら相当のHDR通だ。
UltraHD Blu-rayなどで用いる最大値は10,000nit、推奨値は1,000nit、「Ultra HD プレミアム」の基準値も1,000nit。ソニーの有機ELの4KマスターモニターBVM-X300のスペックも1,000nit。だが、実はドルビーのマスターモニター「Pulser」のスペックが4,000nitなのだ。
ハリウッドの映画制作の現場で使われており、世界に数台しかないと言われている「Pulser」と同じスペックとなれば、いかに「Backlight Master Drive」の性能が桁違いか判る。同時に、これは「Backlight Master Drive」であれば、「Pulser」のフルスペックでグレーディングされたHDRコンテンツを、そのまま上映できることを意味する。
「Pulserと比べたことはまだありませんが、我々はPulser以上の性能が出ると思っています。もし、『Backlight Master Drive』の性能を引き出せるコンテンツが制作側によって出てくれば、高画質を標榜しているソニーとしては嬉しい状況です」(小倉氏)と、まさにフルスペックのHDR時代の到来を見据えた性能なのだ。
今回の「Backlight Master Drive」技術展示は、あくまでもプロトタイプという位置づけではあるものの、ある程度商品に近いかたちで行われた。なので今後、なんらかのかたちで製品として我々の前に姿を現す可能性は高い。サイズは85型から小型化することも考えられるが、高密度実装など様々な技術的要素を勘案した上での85型というサイズのため、すぐに小型化は難しいかも知れない。
しかし、もしこの「Backlight Master Drive」の高画質が家庭に届けられるとしたら−−並のHDR対応テレビなど吹き飛ばすだけの画質インパクトがあることは間違いない。