「W80」開発秘話も
<ポタフェス>“ゴッドファーザー”と“テーラー”。カートライト兄弟が語る「Westoneの音づくり」
イヤホンの進化に大きく貢献し、現在も傑作モデルを次々と世に送り出しているWestone。そのサウンドデザインを行っているのが、カートライト兄弟だ。
兄はカール・カートライト氏、弟はクリス・カートライト氏。二人は双子である。カール氏は「Westoneのゴッドファーザー」と呼ばれサウンドデザインに関わり、クリス氏は「フィッティングテーラー」として実際の製品へ落とし込む部分を担当する。
ポタフェスの開催に合わせて来日した二人が、Westoneの音づくりを語るトークセッションが行われた。司会はライターの野村ケンジ氏が行った。
まず二人の役割分担について、カール氏はこう語る。「二人はこれまで、いろいろなプロジェクトに関わってきた。音だけでなく通信分野もそうだ。役割は絡み合っているものもあるが、主に私のプロジェクトは、サウンドに関わるものだ」。
「子供の頃から音楽が好きで、いまでもバンドで演奏している。ミキシングにも興味がある。とにかく私にとってはサウンドが一番重要なんだ。私が製品のアイデアを作ると、クリスに渡して『どうだ?』と聴くんだ」。
「試作品を渡されてから、クリス氏が魔法をかける」とカール氏は悪戯っぽく笑う。クリス氏も「カールがフランケンシュタインを作って、私がうまく製品として収まるようにする。それが私の役割だ」と冗談で返す。
クリス氏はカール氏について、こうも語る。「カールは『ミスターサウンド』。子供の頃も、家でステレオを作ったのはカール。いまでも我々のオフィスで、子供の頃と同じようにスピーカーを作っている」。
■W80開発の裏側
Westoneは今年、8ドライバーのユニバーサルイヤホン最上位機「W80」を発売した(関連ニュース)。野村ケンジ氏は、開発過程でどのような苦労があったのか、と二人に尋ねた。
カール氏は、「W80はW60の後継機として出てきたわけだが、W60のもともとの評判が良かったし、我々も達成できたことを誇りに思っていた。だから『次に何をするか』が焦点になった」と開発当初を振り返る。
その上でターゲットにしたのは「高域の伸びを拡大すること」だったという。「ハーモニックコンテンツ、つまり倍音を引き出すということに主眼を置いた」。
カール氏はさらに続ける。「ハーモニックコンテンツとは何かというと、音には基音があり倍音がある。倍音が加わることによってそれがどんな楽器か、どんな空間なのかを聞き分けられる」。
また今回のW80では「残響音をしっかりと再現することも目指した」とカール氏は述べ、「それによってリアルな体験、忠実な音再生をめざした」と語る。
ドライバーの数については「目的に応じてドライバーの数が決まる。むやみに増やすことはしない」とカール氏。ドライバーの数ありきではなく、あくまで目指す音を追求した結果であると強調した。
カール氏が作った試作機をクリス氏が最初に聞いたとき、クリス氏は「(求めていたのは)まさしくこれだ」と瞬時に理解したという。「W80はいわばタイムマシンのようなもの。使うことで、録音現場に行ったかのような体験ができる」と続ける。
だが問題もあった。クリス氏は「最初にできたものは非常に見た目が悪かった。パッケージングができてないので、マシンガンを耳に挿したような見た目になっていた」と語る。
ただしクリス氏にとって、どういったパッケージングを行えば合理的か、音質と装着性を両立させるにはどうすればよいか、ということを考えることは、非常に楽しい作業なのだという。
「模型のようにドライバーの数を考えた粘土を作り、それを組み合わせながら試行錯誤する。いかに鼓膜に音を届けるかも考えなければいけない。最初はノズルもタコ足のようだったが、それもうまく収めなければならない」。
そうして可能な限り小さな空間に8つのドライバーを入れ込んだ後で、音をうまく届けることを考える。ここで重要になるのが、イヤホンの中の「ブーツ」と呼ばれる場所。ここで各ドライバーのディレイなどを調整する。
カール氏は「もっとノズルを大きくすれば作りやすかったかもしれないが、そうせずに音質を確保できたことに満足している。8基のドライバーを積みながら、誰でも装着できるサイズや形状になっている。そのことを誇りに思う」とコメント。実際にW80はW60よりもボディが小さくなっている。
■イヤーチップも独自開発
野村氏は、「あまり知られていないことだが、Westoneは実はイヤーチップも自社で作っている。そのあたりもくわしく語ってもらえないか」と二人にリクエストした。
それを受けたカール氏は「Westoneはイヤーチップをずっと作り続けてきた。最初は補聴器用に黄色いチップを、次にコンプライチップを作っていた。二人あわせて50万個くらいのイヤーチップを作ってきた経験があった」と振り返る。
「その経験で理解したのは、外耳道というのは完全な円形ではなく、サイズもいろいろなサイズがあるということ。そこでWestoneでは5つのサイズを用意し、素材もフォームとシリコンの2種類を作っている」と説明した。
クリス氏も続ける。「いろいろなメーカーがシリコンチップを作っているが、シリコンについては、できるだけ外耳を押さえつけないようにしたいと考えていた」。
「そんなある日、空港で食事をしていたとき、たまたまオレンジが出てきた。オレンジを輪切りにしたときのかたちからインスピレーションを受け、それを実際の製品に応用すると本当に上手くいった。それがスターチップで、いろいろな耳のサイズに適合する」。
■W、UM、ESシリーズの音づくりの違いとは?
Westoneにはいくつかの製品ラインナップがある。そのことについて問われたカール氏は、「たしかにWestoneはユニバーサルを2ライン、カスタムフィットを1ライン持っている。ラインを複数持っている数少ないメーカーの一つだ」と応じた。
その上でカール氏は、それぞれのラインナップの違いについて「UMはライブステージ上でもリズムが取れるよう、低域のインパクトを重視している。Wシリーズはオーディオファイルを念頭に、もっと周波数特性をフラットに再現できるように設計している。カスタムのESシリーズはその中間だ」と説明。それぞれの周波数特性グラフをホワイトボードに書いてくれた。
◇
今回が初来日というカートライト兄弟。初めての日本でいろいろなところを周遊し、電車にも乗った、日本の食べ物は美味しいなどと語り、すっかり日本が気に入った様子だった。またトークセッションの後にはポタフェス会場内を歩き回り、気になった製品を片っ端から試している姿が見られ、これも印象的だった。この好奇心の強さ、飽くなき探究心もWestoneの音づくりの根幹にあるのだろう。
兄はカール・カートライト氏、弟はクリス・カートライト氏。二人は双子である。カール氏は「Westoneのゴッドファーザー」と呼ばれサウンドデザインに関わり、クリス氏は「フィッティングテーラー」として実際の製品へ落とし込む部分を担当する。
ポタフェスの開催に合わせて来日した二人が、Westoneの音づくりを語るトークセッションが行われた。司会はライターの野村ケンジ氏が行った。
まず二人の役割分担について、カール氏はこう語る。「二人はこれまで、いろいろなプロジェクトに関わってきた。音だけでなく通信分野もそうだ。役割は絡み合っているものもあるが、主に私のプロジェクトは、サウンドに関わるものだ」。
「子供の頃から音楽が好きで、いまでもバンドで演奏している。ミキシングにも興味がある。とにかく私にとってはサウンドが一番重要なんだ。私が製品のアイデアを作ると、クリスに渡して『どうだ?』と聴くんだ」。
「試作品を渡されてから、クリス氏が魔法をかける」とカール氏は悪戯っぽく笑う。クリス氏も「カールがフランケンシュタインを作って、私がうまく製品として収まるようにする。それが私の役割だ」と冗談で返す。
クリス氏はカール氏について、こうも語る。「カールは『ミスターサウンド』。子供の頃も、家でステレオを作ったのはカール。いまでも我々のオフィスで、子供の頃と同じようにスピーカーを作っている」。
■W80開発の裏側
Westoneは今年、8ドライバーのユニバーサルイヤホン最上位機「W80」を発売した(関連ニュース)。野村ケンジ氏は、開発過程でどのような苦労があったのか、と二人に尋ねた。
カール氏は、「W80はW60の後継機として出てきたわけだが、W60のもともとの評判が良かったし、我々も達成できたことを誇りに思っていた。だから『次に何をするか』が焦点になった」と開発当初を振り返る。
その上でターゲットにしたのは「高域の伸びを拡大すること」だったという。「ハーモニックコンテンツ、つまり倍音を引き出すということに主眼を置いた」。
カール氏はさらに続ける。「ハーモニックコンテンツとは何かというと、音には基音があり倍音がある。倍音が加わることによってそれがどんな楽器か、どんな空間なのかを聞き分けられる」。
また今回のW80では「残響音をしっかりと再現することも目指した」とカール氏は述べ、「それによってリアルな体験、忠実な音再生をめざした」と語る。
ドライバーの数については「目的に応じてドライバーの数が決まる。むやみに増やすことはしない」とカール氏。ドライバーの数ありきではなく、あくまで目指す音を追求した結果であると強調した。
カール氏が作った試作機をクリス氏が最初に聞いたとき、クリス氏は「(求めていたのは)まさしくこれだ」と瞬時に理解したという。「W80はいわばタイムマシンのようなもの。使うことで、録音現場に行ったかのような体験ができる」と続ける。
だが問題もあった。クリス氏は「最初にできたものは非常に見た目が悪かった。パッケージングができてないので、マシンガンを耳に挿したような見た目になっていた」と語る。
ただしクリス氏にとって、どういったパッケージングを行えば合理的か、音質と装着性を両立させるにはどうすればよいか、ということを考えることは、非常に楽しい作業なのだという。
「模型のようにドライバーの数を考えた粘土を作り、それを組み合わせながら試行錯誤する。いかに鼓膜に音を届けるかも考えなければいけない。最初はノズルもタコ足のようだったが、それもうまく収めなければならない」。
そうして可能な限り小さな空間に8つのドライバーを入れ込んだ後で、音をうまく届けることを考える。ここで重要になるのが、イヤホンの中の「ブーツ」と呼ばれる場所。ここで各ドライバーのディレイなどを調整する。
カール氏は「もっとノズルを大きくすれば作りやすかったかもしれないが、そうせずに音質を確保できたことに満足している。8基のドライバーを積みながら、誰でも装着できるサイズや形状になっている。そのことを誇りに思う」とコメント。実際にW80はW60よりもボディが小さくなっている。
■イヤーチップも独自開発
野村氏は、「あまり知られていないことだが、Westoneは実はイヤーチップも自社で作っている。そのあたりもくわしく語ってもらえないか」と二人にリクエストした。
それを受けたカール氏は「Westoneはイヤーチップをずっと作り続けてきた。最初は補聴器用に黄色いチップを、次にコンプライチップを作っていた。二人あわせて50万個くらいのイヤーチップを作ってきた経験があった」と振り返る。
「その経験で理解したのは、外耳道というのは完全な円形ではなく、サイズもいろいろなサイズがあるということ。そこでWestoneでは5つのサイズを用意し、素材もフォームとシリコンの2種類を作っている」と説明した。
クリス氏も続ける。「いろいろなメーカーがシリコンチップを作っているが、シリコンについては、できるだけ外耳を押さえつけないようにしたいと考えていた」。
「そんなある日、空港で食事をしていたとき、たまたまオレンジが出てきた。オレンジを輪切りにしたときのかたちからインスピレーションを受け、それを実際の製品に応用すると本当に上手くいった。それがスターチップで、いろいろな耳のサイズに適合する」。
■W、UM、ESシリーズの音づくりの違いとは?
Westoneにはいくつかの製品ラインナップがある。そのことについて問われたカール氏は、「たしかにWestoneはユニバーサルを2ライン、カスタムフィットを1ライン持っている。ラインを複数持っている数少ないメーカーの一つだ」と応じた。
その上でカール氏は、それぞれのラインナップの違いについて「UMはライブステージ上でもリズムが取れるよう、低域のインパクトを重視している。Wシリーズはオーディオファイルを念頭に、もっと周波数特性をフラットに再現できるように設計している。カスタムのESシリーズはその中間だ」と説明。それぞれの周波数特性グラフをホワイトボードに書いてくれた。
今回が初来日というカートライト兄弟。初めての日本でいろいろなところを周遊し、電車にも乗った、日本の食べ物は美味しいなどと語り、すっかり日本が気に入った様子だった。またトークセッションの後にはポタフェス会場内を歩き回り、気になった製品を片っ端から試している姿が見られ、これも印象的だった。この好奇心の強さ、飽くなき探究心もWestoneの音づくりの根幹にあるのだろう。