リビング環境を模した試写室も紹介
ポニーキャニオンエンタープライズが空間オーディオ用スタジオを新設。“音楽的に使いやすい設計”の全貌に迫る
■ドルビーアトモス作品をリビング環境で検証するための試写室も
しかし、いくらコンシューマー機器からの出力ができると言っても、あくまでスタジオ環境。クライアントからも「一般ユーザーの環境でも聴いてみたい」というリクエストが度々あるという。そこで使われるのが、試写室「EMULATION A」だ。
EMULATION Aは、BDやDVDの出荷前の検証や、コンシューマー機器でのドルビーアトモス作品プレビューなどに使われる部屋。リビングを模した室内には7.1.4ch環境が構成されているため、AVアンプでの試聴が可能なほか、サウンドバーも各主要メーカーのモデルが取り揃えられている。
せっかくなのでと、スタジオと同じソースをAVC-A110や、デノンのドルビーアトモス対応サウンドバー「DENON HOME SOUND BAR 550」+ネットワークスピーカー「DENON HOME 150」2基のリアルサラウンド環境で改めて聴いてみた。
もちろん完全に一致とはいかないものの、AVC-A110での7.1.4ch再生はスタジオに肉薄するレベルの空間表現が味わえる。むしろ解像感が低くなっている分“包まれ感”がより強く、リラックスして聴けるサウンドになっている印象だ。SB550のリアルサラウンドは4.0chという構成上、低域の弱さなどは否めないが、十分にドルビーアトモスのエッセンスを楽しめる。むしろ価格や設置の手間などを考えれば、かなりの高パフォーマンスと言えるだろう。
少なくとも今回体験させていただいた限りではあるが、Apple Musicなどで聴ける空間オーディオ作品は、スタジオマスターの“鮮度感”を限りなく損なわない状態で届けられていると感じられた。
■ドルビーアトモスのライブ配信サービス「NeSTREAM LIVE」もローンチ
ポニーキャニオンエンタープライズによる空間オーディオへの取り組みは、これだけに留まらない。昨年末にはラディウス/メモリーテック/キュー・テックとの共同で、ドルビーアトモス/4K対応の動画配信サービス「NeSTREAM LIVE」をローンチしている。
サービスの詳しい解説は高橋敦氏のレポートに任せるが、ここで特筆したいのは「ドルビーアトモスでのライブ収録から配信までがパッケージングされている」ということ。つまり、アーティストやレーベルなどが「ライブを空間オーディオで配信したい」と思った場合、NeSTREAM LIVEに話を持ち込めば全て解決するのだ。
記者は昨年6月、ポニーキャニオンエンタープライズによるヒゲダンライブのアトモス配信実験に参加させていただいたが、そこで「ドルビーアトモス用のマイク設置から収録、配信プラットフォームの用意まで、空間オーディオでのライブ配信はまだ全貌が見えづらいため、配信する側も手を出しにくい現状がある」という話を伺っていた。この“見えづらい全貌”をワンストップで提供してもらえるとなれば、配信する側のハードルも随分と低くなるのではないだろうか。
また、「会員登録不要・アプリDL&コード入力だけ」という手軽さから、例えばドルビーアトモス対応サウンドバーにお試しコードを封入したり、空間オーディオの試聴音源を配信したりと、ライブ配信に限らない拡張性もあるという。ちなみに本サービス、体験用のスペシャルコンテンツも用意されているので、気になる方は試してみてほしい。
チャイコフスキー《エフゲニ・オネーギン》第2幕 「あの輝かしい青春の日々はいずこへ」(レンスキー)
Tchaikovsky EUGENE ONEGIN ActII “kuda, kuda, kuda vy udalilis”(Lensky)
・イベントコード:PRS1
・シリアルコード:88V424R3
少し前まで「マニアックな音楽スタイル」だった空間オーディオは、今、加速度的に進化を続けている。空間オーディオが誰でも楽しめる「普通の聴き方」になる未来は、そう遠くないのかもしれない。