聴こえ、睡眠の質、ワインの味などテーマは多種多様
次世代のテック・ガジェットを体験!欧州スタートアップの聖地「IFA NEXT」訪問レポート
エレクトロニクスショーのIFAには、欧州や世界各国の先端テック企業やスタートアップの出展を集めた「IFA NEXT」という特別な展示エリアがある。2023年はメッセ・ベルリンの中でも最も大きなホールのひとつである「Hall 27」に400社近いスタートアップを集めて、賑やかにIFA NEXTを開催した。
今回このエリアにヨーロッパから参加した、ユニークなスタートアップの展示を取材した。
Mimi(ミミ)Hearing Technologiesは、オーディオ・ビジュアルのファンにも聴き馴染みのある名前かもしれない。創立から10周年を迎えたこのベルリンの企業は、2017年にbeyerdynamicのヘッドホン「Aventho Wireless」が採用した、ユーザーの聴こえにサウンドを自動で最適化するチューニングアプリ「MIY HEADPHONES」を手がけている。
Mimiのサウンドチューニングのアルゴリズムは、現在beyerdynamic以外にもSkullcandy、Nothing、Cleer audio、Teufelなどのブランドが一部のヘッドホン・イヤホンに採用している。
現在Mimiが開発を進めているのが「テレビのサウンドを聴きやすくするソフトウェア」だ。AIによる機械学習に基づいた音源分離の技術を活用して、テレビのスピーチ音声とバックグラウンドの音声を切り分け、スピーチだけを聴きやすくする。
そのベースの技術として、テレビの音声にコンプレッションをかけて高齢者にも聴きやすくする「Mimi On」という技術は、先行してPhilipsやLoeweなど、ドイツをはじめヨーロッパで販売されているプレミアムラインのスマートテレビに組み込まれている。高齢者に聴きやすい音声にチューニングしながら、リビングルームなどで一緒にテレビを楽しむ小さな子どもにもストレスなく聴ける音声に整うところがMimiのアルゴリズムの特徴なのだと、同社のHead of SalesであるChris Keeling氏が説いている。
あいにくMimi Onの方はブースに展示がなかったものの、現在「ローンチまで間もなくの開発段階」にまで来ているという、テレビのスピーチ強化のアルゴリズムを載せたセットトップボックスによる試作技術を体験することができた。
デモンストレーションはサッカーの試合の映像で行われた。エンハンスメントのレベルは3段階から選べる。解説者の音声をスパッと切り分けて、ゴールシーンに沸く歓声だけをすっと静まりかえらせるほど、エンハンスメントの最大レベルの状態ではメリハリを効かせている。Keeling氏によると、テレビのスピーカー、またはセットトップボックスへの展開が間もなく実現するそうだ。今後の展開に期待したい。
Ritterwerkはミュンヘンの郊外に拠点を置く、調理器具を中心に展開するドイツの家電メーカーだ。そのRitterwerkから派生した新ブランドのBeezerでは、ワインのボトルや清涼飲料水の缶を俊速で冷やせるクーリングデバイスを開発しており、ローンチ間近のプロトタイプをIFA NEXTに出展した。
あらかじめマイナス30度まで冷却したボトルチャンバーに、ビンまたは缶に入っている飲み物を入れて、強力なエアフローで冷やす仕組み。750mLの缶は約3分、ワインボトルは約6分で一気に冷やせるという。最大1.5Lのボトルを冷やせるが、ペットボトルには対応しない。
同社のExport Sales ManagerであるKlaus Rehm氏は、「3年前のある日、Ritterwerkの創業家族がワインバーで見かけたワインを飲みたいと思い立ったとき、そのワインが常温のままで冷やして飲めるまでに時間がかかったという経験から、Beezerのプロジェクトを起ち上げた」と経緯を振り返る。
IFA NEXTでは本体の操作パネルで一連のデモンストレーションを見せていたが、今後は冷却時間のモニタリングや予約などがモバイルアプリからも行えるコネクテッド機能を実装していくという。ドイツでは650ユーロ(約10万円)の値付けを予定しているが、Rehm氏は「コンシューマーと、レストランなど飲食店向けの両方に展開したい」と指針を語った。Ritterwerkとしては日本の取引先も開拓できていることから、今後Beezerの製品を売り込むことにもRehm氏は意欲を語っていた。
フランス北東部のリールに拠点を置くDAYVIA(デイヴィア)の出展にも足を運んだ。「ルミノテラピー=光療法」により、ユーザーの疲れを癒やすというスマートグラスの展示に目を引かれたからだ。
ルミノテラピーとは、朝の光を模した人工光源を使って睡眠の質を高めたり、ストレスの緩和を誘発する、フランスで注目されている新しい治療やケアのアプローチだ。フランスでは秋から冬にかけて陽射しのない暗い時期が続き、地域によっては天候にもあまり恵まれない場所がある。ゆえに光療法で心身をセルフケアできるテクノロジーやデバイスに対する関心が高いそうだ。
同社が開発、販売を始めている「Sunactiv 2」は、フランスでは医療機器として販売されている高信頼性・ルミノテラピックデバイスだ。両目の手前に配置したLEDライトから緑色の光を照射する。使い勝手も非常にシンプルな製品だ。装着している間もデバイスが視覚を塞ぐことはないので、ふつうに歩いたりスマホの画面を見たりすることもできる。
質量は50gと、メガネと変わらない重さ。電源を入れて毎日30分間、約4〜6日にわたって使い続けると睡眠の質が改善されたり、海外旅行に出かける際には時差の解消にも役立つという。
筆者も今回のIFA取材の間になかなか時差ボケが解消できていなかったので、Sunactive 2を試させてもらった。同社のGeneral ManagerであるFrancois Finot氏によると「15分ほどの短時間、光を浴びていただくだけで、身体の疲れが取れるとまではいかなくとも、眠気はだいぶ楽になるはず」だという。まさかと思いながら試してみたが、筆者は驚くほどに眠気が晴れて冴え渡った。もしかすると、レポートし甲斐のある面白い製品と出会えた興奮から目が冴えたのかもしれないが、これから取材などで海外に出かける機会も少しずつ増えそうなので、ぜひ手に入れたくなった。
Sunactiv 2はヨーロッパでは219ユーロ(約3.4万円)で販売されている。商品パッケージにはセミハードケースも付いてくる。Finot氏は「今年はIFA NEXTに出展してぜひ日本のトレードビジターにもお会いしたかった。残念ながら会期の中盤、まだ出会えていない」と話していた。ぜひこのレポートをご覧いただいて、Sunactiv 2に興味を持たれた方はDAYVIAにコンタクトしてほしい。
フランス東部の街、ディジョンに拠点を構えるAVEINE(アヴェイヌ)は、ワインを美味しくするためのスマートガジェット「AVEINE」を販売している。
ヨーロッパの家庭にはワインを消費する文化が深く浸透している。ゆえに「ワインを美味しく飲むためのテクニック」も様々だが、AVEINEはワインのオキシデーションを人工的に促進するためのガジェットだ。
ワインは長時間に渡って空気にさらしてしまうと美味しさを失ってしまうが、短時間であれば効果的に味を熟成させることができる。例えばボトルからデキャンタに移し、味をまろやかにして口当たり良く楽しむという飲み方がある。AVEINEは、長い時間に渡ってワインを熟成させた場合と、同じ効果をわずかな時間で実現する。同社独自の技術は心臓手術の際、血液に酸素を供給する方法から着想を得たものであるという。
デバイスは標準的なサイズのワインボトルの口に装着可能。ワイン以外のスピリットや日本酒にも効果があるという。オキシデーションの効果もまた、ワインの種類によって異なってくる。AVEINEはワインのデータベースアプリ「DiVino.Taste」の情報を読み取り、ワインの種類ごとに最適なステータスでオキシデーションが行えるという。日本でもクラウドファンディングを通じて紹介された実績のあるデバイスなので、今後の展開に注目する価値がありそうだ。
今回このエリアにヨーロッパから参加した、ユニークなスタートアップの展示を取材した。
■ヘッドホンからスマートテレビへ、聴こえを高めるMimiの挑戦
Mimi(ミミ)Hearing Technologiesは、オーディオ・ビジュアルのファンにも聴き馴染みのある名前かもしれない。創立から10周年を迎えたこのベルリンの企業は、2017年にbeyerdynamicのヘッドホン「Aventho Wireless」が採用した、ユーザーの聴こえにサウンドを自動で最適化するチューニングアプリ「MIY HEADPHONES」を手がけている。
Mimiのサウンドチューニングのアルゴリズムは、現在beyerdynamic以外にもSkullcandy、Nothing、Cleer audio、Teufelなどのブランドが一部のヘッドホン・イヤホンに採用している。
現在Mimiが開発を進めているのが「テレビのサウンドを聴きやすくするソフトウェア」だ。AIによる機械学習に基づいた音源分離の技術を活用して、テレビのスピーチ音声とバックグラウンドの音声を切り分け、スピーチだけを聴きやすくする。
そのベースの技術として、テレビの音声にコンプレッションをかけて高齢者にも聴きやすくする「Mimi On」という技術は、先行してPhilipsやLoeweなど、ドイツをはじめヨーロッパで販売されているプレミアムラインのスマートテレビに組み込まれている。高齢者に聴きやすい音声にチューニングしながら、リビングルームなどで一緒にテレビを楽しむ小さな子どもにもストレスなく聴ける音声に整うところがMimiのアルゴリズムの特徴なのだと、同社のHead of SalesであるChris Keeling氏が説いている。
あいにくMimi Onの方はブースに展示がなかったものの、現在「ローンチまで間もなくの開発段階」にまで来ているという、テレビのスピーチ強化のアルゴリズムを載せたセットトップボックスによる試作技術を体験することができた。
デモンストレーションはサッカーの試合の映像で行われた。エンハンスメントのレベルは3段階から選べる。解説者の音声をスパッと切り分けて、ゴールシーンに沸く歓声だけをすっと静まりかえらせるほど、エンハンスメントの最大レベルの状態ではメリハリを効かせている。Keeling氏によると、テレビのスピーカー、またはセットトップボックスへの展開が間もなく実現するそうだ。今後の展開に期待したい。
■ビン・缶の飲み物を一瞬で冷やすドイツのBeezer
Ritterwerkはミュンヘンの郊外に拠点を置く、調理器具を中心に展開するドイツの家電メーカーだ。そのRitterwerkから派生した新ブランドのBeezerでは、ワインのボトルや清涼飲料水の缶を俊速で冷やせるクーリングデバイスを開発しており、ローンチ間近のプロトタイプをIFA NEXTに出展した。
あらかじめマイナス30度まで冷却したボトルチャンバーに、ビンまたは缶に入っている飲み物を入れて、強力なエアフローで冷やす仕組み。750mLの缶は約3分、ワインボトルは約6分で一気に冷やせるという。最大1.5Lのボトルを冷やせるが、ペットボトルには対応しない。
同社のExport Sales ManagerであるKlaus Rehm氏は、「3年前のある日、Ritterwerkの創業家族がワインバーで見かけたワインを飲みたいと思い立ったとき、そのワインが常温のままで冷やして飲めるまでに時間がかかったという経験から、Beezerのプロジェクトを起ち上げた」と経緯を振り返る。
IFA NEXTでは本体の操作パネルで一連のデモンストレーションを見せていたが、今後は冷却時間のモニタリングや予約などがモバイルアプリからも行えるコネクテッド機能を実装していくという。ドイツでは650ユーロ(約10万円)の値付けを予定しているが、Rehm氏は「コンシューマーと、レストランなど飲食店向けの両方に展開したい」と指針を語った。Ritterwerkとしては日本の取引先も開拓できていることから、今後Beezerの製品を売り込むことにもRehm氏は意欲を語っていた。
■フランス発「光療法」のためのスマートグラス
フランス北東部のリールに拠点を置くDAYVIA(デイヴィア)の出展にも足を運んだ。「ルミノテラピー=光療法」により、ユーザーの疲れを癒やすというスマートグラスの展示に目を引かれたからだ。
ルミノテラピーとは、朝の光を模した人工光源を使って睡眠の質を高めたり、ストレスの緩和を誘発する、フランスで注目されている新しい治療やケアのアプローチだ。フランスでは秋から冬にかけて陽射しのない暗い時期が続き、地域によっては天候にもあまり恵まれない場所がある。ゆえに光療法で心身をセルフケアできるテクノロジーやデバイスに対する関心が高いそうだ。
同社が開発、販売を始めている「Sunactiv 2」は、フランスでは医療機器として販売されている高信頼性・ルミノテラピックデバイスだ。両目の手前に配置したLEDライトから緑色の光を照射する。使い勝手も非常にシンプルな製品だ。装着している間もデバイスが視覚を塞ぐことはないので、ふつうに歩いたりスマホの画面を見たりすることもできる。
質量は50gと、メガネと変わらない重さ。電源を入れて毎日30分間、約4〜6日にわたって使い続けると睡眠の質が改善されたり、海外旅行に出かける際には時差の解消にも役立つという。
筆者も今回のIFA取材の間になかなか時差ボケが解消できていなかったので、Sunactive 2を試させてもらった。同社のGeneral ManagerであるFrancois Finot氏によると「15分ほどの短時間、光を浴びていただくだけで、身体の疲れが取れるとまではいかなくとも、眠気はだいぶ楽になるはず」だという。まさかと思いながら試してみたが、筆者は驚くほどに眠気が晴れて冴え渡った。もしかすると、レポートし甲斐のある面白い製品と出会えた興奮から目が冴えたのかもしれないが、これから取材などで海外に出かける機会も少しずつ増えそうなので、ぜひ手に入れたくなった。
Sunactiv 2はヨーロッパでは219ユーロ(約3.4万円)で販売されている。商品パッケージにはセミハードケースも付いてくる。Finot氏は「今年はIFA NEXTに出展してぜひ日本のトレードビジターにもお会いしたかった。残念ながら会期の中盤、まだ出会えていない」と話していた。ぜひこのレポートをご覧いただいて、Sunactiv 2に興味を持たれた方はDAYVIAにコンタクトしてほしい。
■ワインを一瞬で美味しくする、ワインの国のスマートガジェット
フランス東部の街、ディジョンに拠点を構えるAVEINE(アヴェイヌ)は、ワインを美味しくするためのスマートガジェット「AVEINE」を販売している。
ヨーロッパの家庭にはワインを消費する文化が深く浸透している。ゆえに「ワインを美味しく飲むためのテクニック」も様々だが、AVEINEはワインのオキシデーションを人工的に促進するためのガジェットだ。
ワインは長時間に渡って空気にさらしてしまうと美味しさを失ってしまうが、短時間であれば効果的に味を熟成させることができる。例えばボトルからデキャンタに移し、味をまろやかにして口当たり良く楽しむという飲み方がある。AVEINEは、長い時間に渡ってワインを熟成させた場合と、同じ効果をわずかな時間で実現する。同社独自の技術は心臓手術の際、血液に酸素を供給する方法から着想を得たものであるという。
デバイスは標準的なサイズのワインボトルの口に装着可能。ワイン以外のスピリットや日本酒にも効果があるという。オキシデーションの効果もまた、ワインの種類によって異なってくる。AVEINEはワインのデータベースアプリ「DiVino.Taste」の情報を読み取り、ワインの種類ごとに最適なステータスでオキシデーションが行えるという。日本でもクラウドファンディングを通じて紹介された実績のあるデバイスなので、今後の展開に注目する価値がありそうだ。