ガジェット【連載】佐野正弘のITインサイト 第76回
基本料金は大幅値上げも「PayPay」利用で安く、ソフトバンク「ペイトク」の狙い
10月3日に提供開始する、ワイモバイルの新料金プラン「シンプル2」を発表したばかりのソフトバンク。そのソフトバンクが先日9月27日、新たにメインブランドであるソフトバンクの新料金プラン「ペイトク」を発表している。
これは名称の「ペイ」が表す通り、ソフトバンク傘下のスマートフォン決済サービス「PayPay」と連携しているプラン。対象の料金プランを契約していると、PayPayのポイントプログラム「PayPayポイント」の付与率が上がるというのが最大の特徴となっている。
とりわけ、お得感がアピールされているのが、通信料無制限のプラン「ペイトク無制限」である。このプランは月額9,625円と、現在ソフトバンクが提供している無制限プラン「メリハリ無制限」(月額7,238円)と比べ、2,378円ほど値段が上がっている。だが、「新みんな家族割」「おうち割 光セット」といった従来の割引に加え、新たに「PayPayカード」で支払うことで適用される「PayPayカード割」が新たに追加され、それらをすべて適用すると月額6,480円で利用できる。
もちろん、それでも割引を適用した場合のメリハリ無制限より料金は高いのだが、ここで重要なポイントとなるのが「ペイトク特典」の存在だ。これは、契約しているとPayPayで決済した時のポイント付与率をアップする仕組みで、ペイトク無制限の場合、ペイトク特典により付与率が5%アップするのだ。
しかも、ポイントの付与上限は最大4,000円に設定されていることから、PayPayで月当たり8万円分の買い物をすることで、4,000円相当のPayPayポイント付与を受けることができ、それを基本料から引くと実質負担額は月額3,218円にまで減少する。PayPayを最大限利用することで、従来プランより一層お得になるわけだ。
ちなみに、ペイトクにはペイトク無制限以外にも、月当たりの通信量が30GBの「ペイトク30」(月額6,750円)と、50GBの「ペイトク50」(月額7,750円)が用意されているが、それらのペイトク特典はポイントアップ率がそれぞれ1%、3%、ポイント付与上限が1,000円、2,500円となっている。特典を最大限適用した場合の実質負担額は、ペイトク無制限を上回ってしまうことから、ペイトク無制限に重点が置かれていることは確かだろう。
ベースの料金を引き上げながらも、グループ内のサービスをセットで利用することで料金を安くするというのは、ワイモバイルのシンプル2でも共通していたもの。それだけに、今回のソフトバンクブランドの新料金プランも狙うところは同じといえ、それは「経済圏」の拡大にある。
大きな顧客基盤を持つ携帯電話会社は、ここ最近ポイントなどを軸として、自社系列のサービスを利用するとお得な仕組みを用意して顧客を囲い込む、“経済圏ビジネス”に力を入れている。だが、とりわけ政府主導で携帯電話料金引き下げが求められて以降、その傾向は一層顕著になっている。
ソフトバンクの場合、ワイモバイルでの経済圏に関する施策は「PayPayカード割」のみだったが、メインブランドであるソフトバンクでは、PayPayとより密に連携して経済圏ビジネスの拡大に明確につなげようとしているようだ。
実はソフトバンクは、携帯4社の中でも経済圏ビジネスの拡大に向けた連携があまり上手くいっていない印象を受けている。確かにPayPayの利用は大きく伸びているが、PayPay側もオープンな決済サービスとして展開しているだけあって、消費者にはソフトバンクの携帯電話事業のブランドと、PayPayブランドとの結びつきをうまくアピールできていなかった。
それだけに、「ペイトク」プランの提供によって、ソフトバンクの料金プランとPayPayを明確に結び付け、双方の利用を拡大してきたいというのがソフトバンク側の狙いといえる。今後はPayPayに加え、10月から社名が「LINEヤフー」に変わる現・Zホールディングスの各種サービスとの連携も進めることで、経済圏ビジネスを拡大していきたい考えのようだ。
ただ、ソフトバンク側の狙い通りに消費者が動くかというと、そこは未知数でもある。最大の課題はやはり、ベースの料金が大幅に上がっており、PayPayを積極的に利用しないと安くならない点を敬遠されてしまう可能性だ。
ペイトク無制限がメリハリ無制限と比べて、ベースの料金が大幅に上がっている理由は、1つにポイント還元のための原資がある程度含まれていることが挙げられる。だがもう1つの理由として、燃料費の高騰に加えトラフィックの増大と、通信事業者側にかかる負担が増えていることも挙げられるだろう。
実際ソフトバンクは、今回の発表に合わせるかたちで、もう1つの新しい無制限プラン「メリハリ無制限+」も発表している。これは、従来のメリハリ無制限に代わって提供されるもので、新たに「PayPayカード割」の適用が可能になったものの、サービス内容自体に大きな違いはない。
それゆえこのプランは、若い学生のように通信量は大量に消費するが、可処分所得が少ないのでペイトク無制限では、かえって損をしてしまう人を救済するプランといえる。だが、メリハリ無制限+とペイトク無制限には、従来の無制限プランにない共通した制限が加えられており、それは月当たりのデータ通信量が200GBを超えた場合、通信速度が最大4.5Mbpsに制限されるというものだ。
4.5Mbps程度あれば動画再生などは十分可能だが、実質的に完全な使い放題ではなくなったことは大きな変化といえる。このような制限を加えるに至ったのには、非常に大量のデータ通信をする人に規制をかけることで、安定した通信を保つためとのことで、その対象となるユーザー数は0.3%程度だという。物価の高騰が進む中でも安定した通信を継続するため、このような措置を講じるに至ったようだ。
無論、この制限の対象となるのは新しいプランの契約者に限られ、従来のメリハリ無制限契約者に同様の制約がかかるわけではない。だが、使い放題であることを前面に打ち出していた料金プランに、制限を入れざるを得なくなっていることからは、通信トラフィックの増大と、通信インフラを運用するコストとのバランスが崩れてきており、携帯電話会社が厳しい環境に置かれている様子を見て取ることができる。
そうした状況下で投資を続けて、5Gのネットワークを整備し、安定した通信を実現するには、従来以上に売上を増やす必要があるというのが携帯電話会社の本音といえそうだ。それだけに、料金プランのベースの料金を値上げする動きと、グループ内の主要サービスと積極連携して経済圏ビジネスを強化するという2つの動きは、今後ソフトバンク以外の携帯電話会社にも大きく広がることになるのではないだろうか。
■PayPayと連携した新料金プラン「ペイトク」が提供開始
これは名称の「ペイ」が表す通り、ソフトバンク傘下のスマートフォン決済サービス「PayPay」と連携しているプラン。対象の料金プランを契約していると、PayPayのポイントプログラム「PayPayポイント」の付与率が上がるというのが最大の特徴となっている。
とりわけ、お得感がアピールされているのが、通信料無制限のプラン「ペイトク無制限」である。このプランは月額9,625円と、現在ソフトバンクが提供している無制限プラン「メリハリ無制限」(月額7,238円)と比べ、2,378円ほど値段が上がっている。だが、「新みんな家族割」「おうち割 光セット」といった従来の割引に加え、新たに「PayPayカード」で支払うことで適用される「PayPayカード割」が新たに追加され、それらをすべて適用すると月額6,480円で利用できる。
もちろん、それでも割引を適用した場合のメリハリ無制限より料金は高いのだが、ここで重要なポイントとなるのが「ペイトク特典」の存在だ。これは、契約しているとPayPayで決済した時のポイント付与率をアップする仕組みで、ペイトク無制限の場合、ペイトク特典により付与率が5%アップするのだ。
しかも、ポイントの付与上限は最大4,000円に設定されていることから、PayPayで月当たり8万円分の買い物をすることで、4,000円相当のPayPayポイント付与を受けることができ、それを基本料から引くと実質負担額は月額3,218円にまで減少する。PayPayを最大限利用することで、従来プランより一層お得になるわけだ。
ちなみに、ペイトクにはペイトク無制限以外にも、月当たりの通信量が30GBの「ペイトク30」(月額6,750円)と、50GBの「ペイトク50」(月額7,750円)が用意されているが、それらのペイトク特典はポイントアップ率がそれぞれ1%、3%、ポイント付与上限が1,000円、2,500円となっている。特典を最大限適用した場合の実質負担額は、ペイトク無制限を上回ってしまうことから、ペイトク無制限に重点が置かれていることは確かだろう。
■新料金プランで見据える「経済圏」の拡大
ベースの料金を引き上げながらも、グループ内のサービスをセットで利用することで料金を安くするというのは、ワイモバイルのシンプル2でも共通していたもの。それだけに、今回のソフトバンクブランドの新料金プランも狙うところは同じといえ、それは「経済圏」の拡大にある。
大きな顧客基盤を持つ携帯電話会社は、ここ最近ポイントなどを軸として、自社系列のサービスを利用するとお得な仕組みを用意して顧客を囲い込む、“経済圏ビジネス”に力を入れている。だが、とりわけ政府主導で携帯電話料金引き下げが求められて以降、その傾向は一層顕著になっている。
ソフトバンクの場合、ワイモバイルでの経済圏に関する施策は「PayPayカード割」のみだったが、メインブランドであるソフトバンクでは、PayPayとより密に連携して経済圏ビジネスの拡大に明確につなげようとしているようだ。
実はソフトバンクは、携帯4社の中でも経済圏ビジネスの拡大に向けた連携があまり上手くいっていない印象を受けている。確かにPayPayの利用は大きく伸びているが、PayPay側もオープンな決済サービスとして展開しているだけあって、消費者にはソフトバンクの携帯電話事業のブランドと、PayPayブランドとの結びつきをうまくアピールできていなかった。
それだけに、「ペイトク」プランの提供によって、ソフトバンクの料金プランとPayPayを明確に結び付け、双方の利用を拡大してきたいというのがソフトバンク側の狙いといえる。今後はPayPayに加え、10月から社名が「LINEヤフー」に変わる現・Zホールディングスの各種サービスとの連携も進めることで、経済圏ビジネスを拡大していきたい考えのようだ。
ただ、ソフトバンク側の狙い通りに消費者が動くかというと、そこは未知数でもある。最大の課題はやはり、ベースの料金が大幅に上がっており、PayPayを積極的に利用しないと安くならない点を敬遠されてしまう可能性だ。
ペイトク無制限がメリハリ無制限と比べて、ベースの料金が大幅に上がっている理由は、1つにポイント還元のための原資がある程度含まれていることが挙げられる。だがもう1つの理由として、燃料費の高騰に加えトラフィックの増大と、通信事業者側にかかる負担が増えていることも挙げられるだろう。
実際ソフトバンクは、今回の発表に合わせるかたちで、もう1つの新しい無制限プラン「メリハリ無制限+」も発表している。これは、従来のメリハリ無制限に代わって提供されるもので、新たに「PayPayカード割」の適用が可能になったものの、サービス内容自体に大きな違いはない。
それゆえこのプランは、若い学生のように通信量は大量に消費するが、可処分所得が少ないのでペイトク無制限では、かえって損をしてしまう人を救済するプランといえる。だが、メリハリ無制限+とペイトク無制限には、従来の無制限プランにない共通した制限が加えられており、それは月当たりのデータ通信量が200GBを超えた場合、通信速度が最大4.5Mbpsに制限されるというものだ。
4.5Mbps程度あれば動画再生などは十分可能だが、実質的に完全な使い放題ではなくなったことは大きな変化といえる。このような制限を加えるに至ったのには、非常に大量のデータ通信をする人に規制をかけることで、安定した通信を保つためとのことで、その対象となるユーザー数は0.3%程度だという。物価の高騰が進む中でも安定した通信を継続するため、このような措置を講じるに至ったようだ。
無論、この制限の対象となるのは新しいプランの契約者に限られ、従来のメリハリ無制限契約者に同様の制約がかかるわけではない。だが、使い放題であることを前面に打ち出していた料金プランに、制限を入れざるを得なくなっていることからは、通信トラフィックの増大と、通信インフラを運用するコストとのバランスが崩れてきており、携帯電話会社が厳しい環境に置かれている様子を見て取ることができる。
そうした状況下で投資を続けて、5Gのネットワークを整備し、安定した通信を実現するには、従来以上に売上を増やす必要があるというのが携帯電話会社の本音といえそうだ。それだけに、料金プランのベースの料金を値上げする動きと、グループ内の主要サービスと積極連携して経済圏ビジネスを強化するという2つの動きは、今後ソフトバンク以外の携帯電話会社にも大きく広がることになるのではないだろうか。