ガジェット【連載】佐野正弘のITインサイト 第88回
モトローラ日本法人が社長交代、FCNTを手に入れ本格化するレノボの国内スマホ市場開拓
2023年も大きな出来事が相次いだ携帯電話業界。中でも大きな衝撃を与えた出来事の1つに、FCNTの経営破綻が挙げられることは間違いないだろう。
FCNTは、前身となる富士通の携帯電話事業の時代から引き継いだ「arrows」ブランドのスマートフォンだけでなく、シニア向けの「らくらくスマートフォン」という定番シリーズを持ち、NTTドコモ向けを主体として手堅いビジネスを続けてきた。だが、政府による非常に厳しいスマートフォンの値引き規制によって、同社は値引きなしでも安く買えるが、同時に利益も非常に少ない低価格スマートフォンに事業の重点を置く必要に迫られた。
そこに半導体不足、そして円安による部材の高騰が直撃したことで利益が出せなくなり、業績が大幅に悪化。他に大きな事業を持たないFCNTは、同時期にコンシューマー向けスマートフォン事業から撤退した京セラのように、事業撤退での業績回復という選択肢を取ることができず、今年5月30日に民事再生法を申請して事実上経営破綻するに至っている。
その後、しばらくは支援する企業が現れず、同社の主軸でもあったスマートフォン事業は一時完全に停止。サポートすら危ぶまれる事態となったが、9月29日に中国のレノボ・グループがFCNTの事業を承継することを発表。10月1日には新たに「FCNT合同会社」を設立して事業を継続しており、既存のFCNT製品のサポートが完全に停止するという、消費者にとって最悪の危機は免れることとなった。
では、レノボ・グループがFCNTの事業を承継したのはなぜかというと、日本のスマートフォン市場開拓を本格化することが最大の狙いだろう。レノボ・グループは現在、モトローラ・モビリティをスマートフォン事業の主軸と位置付けて展開しており、それは日本でも変わらない。だが、モトローラ・モビリティはレノボ・グループの傘下になって以降、日本市場では撤退こそしなかったものの、シェアが小さいオープン市場で細々と事業展開していたため、市場での存在感は決して大きいとは言えない状況にある。
だが、モトローラ・モビリティは2020年から、日本のスマートフォン市場の本格開拓に大きく舵を切っている。それを象徴しているのが、同年にモトローラ・モビリティの日本法人であるモトローラ・モビリティ・ジャパンの社長が日本人の松原丈太氏に交代したこと。それ以降、同社はこれまで拒み続けていたスマートフォンへのFeliCa搭載など国内向けカスタマイズを強化するなどして、日本市場の積極開拓を進めるようになったのである。
2023年にはそれが結実し、エントリークラスの低価格モデル「moto g53y 5G」、そして折り畳みスマートフォンのエントリーモデル「motorola razr 40s」を、相次いで携帯大手の一角を占めるソフトバンクに供給。市場からの注目度も高まり、着実に成果を挙げつつあった。
そうした最中にあって、日本メーカーのFCNTが突如経営破綻し、売りに出たことはある意味レノボ・グループにとって、“渡りに船”だったともいえるだろう。FCNTは日本での高いブランド力に加え、NTTドコモを中心とした携帯大手向けの強力な販路を持つなど、モトローラ・モビリティが持ち合わせていない要素を多く備えており、日本での事業を強化したいレノボ・グループにとってメリットが大きいと判断したことから事業承継に至ったのだろう。
ただそうなると、気になるのがFCNTとモトローラ・モビリティの関係である。現在のところどちらも別の会社として別々に事業展開しているだけに、レノボ・グループが国内における2社や、そのブランドの位置付けをどう整理していくのが非常に気になるところだ。
そのヒントとなりそうなのが、先日12月12日に発表がなされたモトローラ・モビリティ・ジャパンの社長交代である。同社は新たに、NTTドコモの米国法人などに在籍していた経験を持つ仲田正一氏を任命したことを明らかにしているのだ。
NTTドコモに近しい人物を社長に据えるというこの人事は、元々NTTドコモ向けに強みを持つFCNTと合わせて、国内最大手のNTTドコモを主体とした携帯大手向けの販路開拓に力を入れる動きと見て取ることができそうだ。最終的に、FCNTとモトローラ・モビリティが一体になるかどうかは分からないが、当面はFCNTとモトローラ・モビリティが持つブランドを使い分けながら、携帯大手向けの販路開拓に重点を置いて取り組むのではないかと考えられる。
実際、これまでFCNTとモトローラ・モビリティが提供してきたスマートフォンのラインナップを振り返ると、かなり性格が違うものが多い。シニア向けや安心・安全重視のイメージが強いFCNTブランドで、折り畳みスマートフォン「razr」シリーズのようなエッジが効いた端末を提供しても消費者がついてこない可能性があるだけに、レノボ・グループのスケールメリットを生かしながらも、製品によってブランドを分けるというのが妥当な戦略といえるのではないだろうか。
2024年には、レノボ・グループの下で復活したFCNTが再び新製品を投入する可能性が高いだろうし、モトローラ・モビリティも引き続き新製品を投入して攻めの姿勢を見せてくるだろう。レノボ・グループ傘下の2社がどのような動きを見せるのかは、2024年の国内スマートフォン市場を占う上でかなり重要なポイントとなりそうだ。
■今年5月にFCNTが事実上の経営破綻
FCNTは、前身となる富士通の携帯電話事業の時代から引き継いだ「arrows」ブランドのスマートフォンだけでなく、シニア向けの「らくらくスマートフォン」という定番シリーズを持ち、NTTドコモ向けを主体として手堅いビジネスを続けてきた。だが、政府による非常に厳しいスマートフォンの値引き規制によって、同社は値引きなしでも安く買えるが、同時に利益も非常に少ない低価格スマートフォンに事業の重点を置く必要に迫られた。
そこに半導体不足、そして円安による部材の高騰が直撃したことで利益が出せなくなり、業績が大幅に悪化。他に大きな事業を持たないFCNTは、同時期にコンシューマー向けスマートフォン事業から撤退した京セラのように、事業撤退での業績回復という選択肢を取ることができず、今年5月30日に民事再生法を申請して事実上経営破綻するに至っている。
その後、しばらくは支援する企業が現れず、同社の主軸でもあったスマートフォン事業は一時完全に停止。サポートすら危ぶまれる事態となったが、9月29日に中国のレノボ・グループがFCNTの事業を承継することを発表。10月1日には新たに「FCNT合同会社」を設立して事業を継続しており、既存のFCNT製品のサポートが完全に停止するという、消費者にとって最悪の危機は免れることとなった。
では、レノボ・グループがFCNTの事業を承継したのはなぜかというと、日本のスマートフォン市場開拓を本格化することが最大の狙いだろう。レノボ・グループは現在、モトローラ・モビリティをスマートフォン事業の主軸と位置付けて展開しており、それは日本でも変わらない。だが、モトローラ・モビリティはレノボ・グループの傘下になって以降、日本市場では撤退こそしなかったものの、シェアが小さいオープン市場で細々と事業展開していたため、市場での存在感は決して大きいとは言えない状況にある。
■日本市場開拓に舵を切ったモトローラ・モビリティ
だが、モトローラ・モビリティは2020年から、日本のスマートフォン市場の本格開拓に大きく舵を切っている。それを象徴しているのが、同年にモトローラ・モビリティの日本法人であるモトローラ・モビリティ・ジャパンの社長が日本人の松原丈太氏に交代したこと。それ以降、同社はこれまで拒み続けていたスマートフォンへのFeliCa搭載など国内向けカスタマイズを強化するなどして、日本市場の積極開拓を進めるようになったのである。
2023年にはそれが結実し、エントリークラスの低価格モデル「moto g53y 5G」、そして折り畳みスマートフォンのエントリーモデル「motorola razr 40s」を、相次いで携帯大手の一角を占めるソフトバンクに供給。市場からの注目度も高まり、着実に成果を挙げつつあった。
そうした最中にあって、日本メーカーのFCNTが突如経営破綻し、売りに出たことはある意味レノボ・グループにとって、“渡りに船”だったともいえるだろう。FCNTは日本での高いブランド力に加え、NTTドコモを中心とした携帯大手向けの強力な販路を持つなど、モトローラ・モビリティが持ち合わせていない要素を多く備えており、日本での事業を強化したいレノボ・グループにとってメリットが大きいと判断したことから事業承継に至ったのだろう。
ただそうなると、気になるのがFCNTとモトローラ・モビリティの関係である。現在のところどちらも別の会社として別々に事業展開しているだけに、レノボ・グループが国内における2社や、そのブランドの位置付けをどう整理していくのが非常に気になるところだ。
■各ブランドの位置を付け示す、モトローラ・モビリティ・ジャパンの社長交代
そのヒントとなりそうなのが、先日12月12日に発表がなされたモトローラ・モビリティ・ジャパンの社長交代である。同社は新たに、NTTドコモの米国法人などに在籍していた経験を持つ仲田正一氏を任命したことを明らかにしているのだ。
NTTドコモに近しい人物を社長に据えるというこの人事は、元々NTTドコモ向けに強みを持つFCNTと合わせて、国内最大手のNTTドコモを主体とした携帯大手向けの販路開拓に力を入れる動きと見て取ることができそうだ。最終的に、FCNTとモトローラ・モビリティが一体になるかどうかは分からないが、当面はFCNTとモトローラ・モビリティが持つブランドを使い分けながら、携帯大手向けの販路開拓に重点を置いて取り組むのではないかと考えられる。
実際、これまでFCNTとモトローラ・モビリティが提供してきたスマートフォンのラインナップを振り返ると、かなり性格が違うものが多い。シニア向けや安心・安全重視のイメージが強いFCNTブランドで、折り畳みスマートフォン「razr」シリーズのようなエッジが効いた端末を提供しても消費者がついてこない可能性があるだけに、レノボ・グループのスケールメリットを生かしながらも、製品によってブランドを分けるというのが妥当な戦略といえるのではないだろうか。
2024年には、レノボ・グループの下で復活したFCNTが再び新製品を投入する可能性が高いだろうし、モトローラ・モビリティも引き続き新製品を投入して攻めの姿勢を見せてくるだろう。レノボ・グループ傘下の2社がどのような動きを見せるのかは、2024年の国内スマートフォン市場を占う上でかなり重要なポイントとなりそうだ。