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100万円強で買える“BVM”

ソニーの液晶マスモニ「BVM-L170」の実力を山之内 正が徹底テスト

公開日 2009/09/01 13:18 Phile-web編集部
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●設置には高さの管理が重要

液晶方式なのでCRT時代のBVMに比べると奥行きはかなり浅いが、それでも本体は約280mmの奥行きがあり、薄型モニターと呼ぶには抵抗がある。今回は自宅でも視聴したが、設置には適切な高さと堅固な構造を両立させたラックを組み合わせる必要性を痛感した。CRTとは異なり視野角によるコントラスト変化があるので、特に高さの管理が重要になる。仕様表によると上下左右ともに85度でのコントラスト低下は10対1に及ぶ。

通常のラックに設置するとやや上から見下ろす状態になる

●黒浮きはあるが不自然さが無く、見ていて安心する画質

1時間ほどのウォームアップを終えた後、HDMI端子にパイオニアのBDP-LX91を接続し、BDで映像を確認する。部屋の明るさを50ルクス前後まで落とした暗い環境ではバックライトの光漏れによる黒浮きがあるが、階調情報は豊かでなめらか、暗部の不自然な色付きがなく、とにかく見ていて安心する。

視聴は音元出版視聴室と山之内氏の自宅で行った。音元出版視聴室では参考用にBRAVIAのフラグシップ機「XR1」も用意した

HD信号のチェックディスクでモノクロームに近い画像を確認すると、炭や硯の質感描写が緻密で、グレーから黒に至る濃淡の変化に不自然な誇張がない。空撮の夜景では街灯に照らされた道路の仄暗さなど、黒が沈み込んだディスプレイでは気付きにくい部分まで浮かび上がってくる。

BVM-L170のユーザーインターフェース。調整項目は非常に多い。

カラーガンマをITU-R BT.709にセット

その一方で、数万対1のコントラストを実現した最近のプラズマテレビや、LEDバックライトのエリア制御を導入した液晶テレビが見せる黒の沈み込みを、BVM-L170の映像に求めることはできない。マスターモニターは明暗差を忠実に描き出すことが不可欠なので、見栄えをよくする方向でコントラスト制御を行うことはあり得ないのだ。CRTのBVMとは異なり、液晶方式に由来する黒浮きが存在するが、原信号の微妙な階調差を忠実に描き出すことで説得力が生まれる場面は少なくないと感じた。

●作品の映像表現の巧みさをそのまま映し出す

映画は《コッポラの胡蝶の夢》を1本通して視聴したが、ここでは階調の豊かさと発色の精度の高さに引き付けられた。マスターモニターは鑑賞用ディスプレイではなく映像信号の監視が主目的なのだが、場面が変わるごとに映し出される色調の美しさに思わず引き込まれ、作品の映像表現の巧みさに感嘆せざるを得なくなるのだ。

月光に照らされたマルタ島の光線の輝きや青の深みのある色彩は、PDP-5000EXやDLA-HD100の設定を時間をかけて追い込んでも引き出すのが難しかった例の一つであった。BVMが1台あると、他の映像機器の画像調整を追い込む作業が格段にやりやすくなる。CRT時代に経験していることだが、液晶になってもそうした用途での利用価値は健在である。

バレエやライヴ映像ではインターレース表示モードが威力を発揮する。自然な雰囲気のなかで画面全体の精細感が増し、ディテールがスーッと浮かび上がってくるのだ。倍速モードは補間を行わないシンプルなものだが、それだけに副作用が気になることがなく、安心して見ていられる良さがある。

17型というサイズが気になる読者も少なくないだろう。たしかに普段見慣れているディスプレイに比べれば小さな画面だが、そこに映し出される情報の絶対量は画面サイズとは関係がない。近距離で見れば、むしろ階調とディテールの余裕が生む安定感はBVMの小さな画面の方が際立つほどだ。

●課題はあるが現時点で最良の選択肢

マスターモニターもついに液晶の時代を迎えた。予想していたこととはいえ、CRTを映像評価の基準として使い続けてきた経験から、複雑な思いがあることは否定できない。

BVM-L170は液晶としては期待以上の完成度を見せてくれたが、マスターモニターとして、これが究極と言い切ることは難しい。バックライトの光漏れ、視野角、レスポンスなど、液晶固有の課題はいまだに解消されていないからだ。

それは確かなのだが、だからといって有機ELなど次世代デバイスでマスターモニターが登場するには、まだ相当な時間がかかるであろう。その間、信頼に値するマスモニが不在になるという事態を避けなければならないこともよくわかる。難しい環境のなかでソニーが手がけた新しいBVMは、現時点では最良の選択肢と言うことができる。

(山之内 正)

筆者プロフィール
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、東京フィルハーモニー交響楽団の吉川英幸氏に師事。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。音楽之友社『グランドオペラ』にも執筆するなど、趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。

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