オーディオ製品としての音質の確かさ、地力が高い
利便性と高品質を兼ね備えたパイオニアの新AVアンプ「VSA-LX53」を大橋氏がレポート
iPodデジタル接続やiPhone/iPod touchで操作ができる「iControlAV」対応、Bluetooth伝送時の音質改善技術「サウンドレトリバーAIR」、インターネットラジオ聴取機能など先進の機能を搭載しつつ、独立電源の採用やノイズリダクション機能の強化など画質・音質のクオリティ向上にも注力したAVアンプ中級機「VSA-LX53」。「家庭で音の中心を担うユーティリティプレーヤーとして現時点でほぼ万能の存在」と大橋氏が絶賛する本機のクオリティについて詳しくレポートする。
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現代のサラウンドアンプに課せられた仕事は多い。BDのHDオーディオのデコードから映像のアップスケーリング、CDからアナログLPまで再生できないといけない。それらが全部できて数万円だからメーカーの努力に頭が下がるが、「どの製品を買えばいいですか?」と訊かれたら「十万円以上をお買いなさい。」と薦めている。正直申してエントリー機はHDオーディオ再生を中心に一通りのことができるというレベルである。さらに15万円辺りに大きな山がある。この手応えを得るきっかけになったのが昨年のパイオニアVSA-LX52であった。基本の音質がいい。S/Nのよさ、歪みのなさ。CDをアナログ/デジタルで入力して再生するとそれが如実に分かる。サラウンドアンプは映画だけ再生できれば結構、というユーザーは少数だろう。家庭でCDからBDまで幅広く音楽を再生する重責を担うにはこれ位の品位が必要である。機能の充実も申し分なく、昨年のサラウンドアンプのベンチマークとなった製品といっていい。
そのVSA-LX52が新製品VSA-LX53に交替した。結論を先に言うと今回も秀作である。何よりCDの音がいい。エントリークラスは多かれ少なかれ音に雑味が混じるが、VSA-LX53は音に汚れがなくピアノを再生して一音一音に丸み、重みがある。パワーアンプはディスクリート、しっかりした電源を使っている証左だ。私が最近試聴に使うセルゲイ・エーデルマンのリストピアノソナタはFレンジの広い優秀録音だが低音はリアルな重みでずっしりと鳴り、打鍵に付く響きに濁りがなく自然。音の芯を捉える解像力も印象的だ。帯域的に決して欲張っていないがバランスがいい。アンドラーシュ・シフのベートーヴェンもECMのライブ録音らしい煌き感、透明感があり音場に奥行きがある。分解能とS/Nを反映し音の一粒一粒がなめらかで質感が備わっている。帯域の凹凸、情報の欠落もない。アンジェラ・ヒューイットのヘンデルはファツィオーリ(イタリアの現代ピアノ)の明るく清澄な響きが再現される。弱音も美しい。映画『NINE』のサントラで感心したのはLR間の音影が非常に濃く中央が薄くならない。音楽にエネルギーと溢れるような躍動感がある。ハリウッドのスクリーンミュージカルはこうでないといけない。つまりCDの個々の音楽のそれぞれ違った世界がストレートかつ豊かに表現し別けられる。本機は本物のオーディオである。
サラウンドアンプの仕事の中心であるブルーレイディスクのサラウンド再生はどうか。VSA-LX53の新境地の一つが、パイオニアオリジナルのアドバンスドサラウンドモードである。本機はドルビープロロジックIIzを搭載するがそれと別に、フロントハイトとフロントワイドスピーカーを設置し音場を拡大できる。さらにバーチャルハイト/バーチャルサラウンドバック機能を搭載し、実音源(スピーカーシステム)を設置しなくても高さ方向と背面の奥行きを拡張できるのでこれを試してみよう。バーチャルハイト、バックはリスニングモードをドルビープロロジックIIzにしておくと確実に設定できる。高さ表現能力が最も分かりやすいソフトが『不滅の恋 ベートーヴェン』(BD輸入盤)であるが、バーチャルハイトオンで冒頭の天上高く転がっていく雷鳴は高さより定位が改善され動きが一層明瞭になる。7.1chの定番ソフト『パンズ・ラビリンス』(BD輸入盤)の少女アナが地下の迷宮に入っていくシーンは、バーチャルハイトオンで背景の音楽の広がりが違い映画館的なスケール感がある。バーチャルサラウンドバックオン(ハイトとサラウンドバックは同時使用可能)で妖精が後方を飛ぶ軌跡が力強く途切れず、動きの斜め方向の高低の変化が初めて出た。これは画期的な改善である。前後に逆相成分のデータを重畳することで位相差が大きくなり定位が甘くなるなど副作用を心配したが、却って音場全体の明瞭度と解像感も高まる。
VSA-LX53のアドバンスドサラウンドと並ぶもう一つの新境地がiControlAVである。Wi-Fiアクセスユニットを介してiPhone/iPod touchで本機をリモート操作する機能で、iPhone/iPod touch用アプリケーションはiTunes Storeから無償でダウンロードできる。これも実際に使ってみよう。インストール後最初に認証が必要で、制御する機器(VSA-LX53)を選択するとゲートページの4分割画面が表示される。コントロール(音量、ミュート、入力切換、サラウンドモード、ゾーン選択、ステータス、同社BDの基本操作)、プレシジョン(PQLSオンオフ、フェイズコントロール)、エンファシス(セリフと低音の調整)、バランス(フロントLRとサラウンドの音量バランスの4項目である。例えば“バランス”の場合、iPhone/iPod touchのバランスセンサーを利用し水平状態から傾けると、画面上をボールが転がっていき音量バランスを変えることができる。“エンファシス”では同様に傾けるとイラストのセンタースピーカーがグングン大きくなりセンターCHの音量が増す趣向。ついでに紹介しておくとこのアプリケーションでパイオニアのBDプレーヤー(BDP-330、BDP-LX53など)も操作できるからiPhone/iPod touchユーザーは一度体験しておくといい。
VSA-LX53がもう一つiPodユーザーに魅力なのはドックレスで簡単にデジタル接続ができることだ。先のiControlAVと逆にVSA-LX53のリモコンでiPodをコントロールすることも可能。これも試聴しておこう。さすがにデジタルで解像感が格段に高い。ビートルズのアルバム『レット・イット・ビー』(アップルロスレスでリマスタCDからリッピング)の「トゥー・オブ・アス」のアコギの鳴りと輝き感がくすまず、ボーカルの輪郭がシャープである。
他にも携帯音楽プレーヤーやPC内音楽ファイルをワイヤレス再生するブルートゥースへのオプション対応と伝送時のロスを補間するサウンドレトリバーAIR、インターネットラジオの24局プリセットなど機能は豊富。もちろんHDMI Ver.1.4に対応し3D映像信号のパススルー出力やARC(オーディオ・リターン・チャンネル=地デジ等の音声をTOSを使わずHDMIで入力できる)に対応する。PQLSマルチサラウンドを搭載、ブルーレイソフトのサラウンド音声をLPCMに変換しロージッターHDMI伝送が可能だ。
枚挙に暇がないほどの機能を搭載し家庭で音の中心を担うユーティリティプレーヤーとして現時点でほぼ万能の存在がVSA-LX53だが、注目してほしいのはそれよりもオーディオ製品としての音質の確かさ、地力だ。それについて私がこれ以上言葉を費やすより実際に販売店で体験した方が近道である。VSA-LX53にはその価値がある。
現代のサラウンドアンプに課せられた仕事は多い。BDのHDオーディオのデコードから映像のアップスケーリング、CDからアナログLPまで再生できないといけない。それらが全部できて数万円だからメーカーの努力に頭が下がるが、「どの製品を買えばいいですか?」と訊かれたら「十万円以上をお買いなさい。」と薦めている。正直申してエントリー機はHDオーディオ再生を中心に一通りのことができるというレベルである。さらに15万円辺りに大きな山がある。この手応えを得るきっかけになったのが昨年のパイオニアVSA-LX52であった。基本の音質がいい。S/Nのよさ、歪みのなさ。CDをアナログ/デジタルで入力して再生するとそれが如実に分かる。サラウンドアンプは映画だけ再生できれば結構、というユーザーは少数だろう。家庭でCDからBDまで幅広く音楽を再生する重責を担うにはこれ位の品位が必要である。機能の充実も申し分なく、昨年のサラウンドアンプのベンチマークとなった製品といっていい。
PIONEER AVアンプ VSA-LX53 |
そのVSA-LX52が新製品VSA-LX53に交替した。結論を先に言うと今回も秀作である。何よりCDの音がいい。エントリークラスは多かれ少なかれ音に雑味が混じるが、VSA-LX53は音に汚れがなくピアノを再生して一音一音に丸み、重みがある。パワーアンプはディスクリート、しっかりした電源を使っている証左だ。私が最近試聴に使うセルゲイ・エーデルマンのリストピアノソナタはFレンジの広い優秀録音だが低音はリアルな重みでずっしりと鳴り、打鍵に付く響きに濁りがなく自然。音の芯を捉える解像力も印象的だ。帯域的に決して欲張っていないがバランスがいい。アンドラーシュ・シフのベートーヴェンもECMのライブ録音らしい煌き感、透明感があり音場に奥行きがある。分解能とS/Nを反映し音の一粒一粒がなめらかで質感が備わっている。帯域の凹凸、情報の欠落もない。アンジェラ・ヒューイットのヘンデルはファツィオーリ(イタリアの現代ピアノ)の明るく清澄な響きが再現される。弱音も美しい。映画『NINE』のサントラで感心したのはLR間の音影が非常に濃く中央が薄くならない。音楽にエネルギーと溢れるような躍動感がある。ハリウッドのスクリーンミュージカルはこうでないといけない。つまりCDの個々の音楽のそれぞれ違った世界がストレートかつ豊かに表現し別けられる。本機は本物のオーディオである。
サラウンドアンプの仕事の中心であるブルーレイディスクのサラウンド再生はどうか。VSA-LX53の新境地の一つが、パイオニアオリジナルのアドバンスドサラウンドモードである。本機はドルビープロロジックIIzを搭載するがそれと別に、フロントハイトとフロントワイドスピーカーを設置し音場を拡大できる。さらにバーチャルハイト/バーチャルサラウンドバック機能を搭載し、実音源(スピーカーシステム)を設置しなくても高さ方向と背面の奥行きを拡張できるのでこれを試してみよう。バーチャルハイト、バックはリスニングモードをドルビープロロジックIIzにしておくと確実に設定できる。高さ表現能力が最も分かりやすいソフトが『不滅の恋 ベートーヴェン』(BD輸入盤)であるが、バーチャルハイトオンで冒頭の天上高く転がっていく雷鳴は高さより定位が改善され動きが一層明瞭になる。7.1chの定番ソフト『パンズ・ラビリンス』(BD輸入盤)の少女アナが地下の迷宮に入っていくシーンは、バーチャルハイトオンで背景の音楽の広がりが違い映画館的なスケール感がある。バーチャルサラウンドバックオン(ハイトとサラウンドバックは同時使用可能)で妖精が後方を飛ぶ軌跡が力強く途切れず、動きの斜め方向の高低の変化が初めて出た。これは画期的な改善である。前後に逆相成分のデータを重畳することで位相差が大きくなり定位が甘くなるなど副作用を心配したが、却って音場全体の明瞭度と解像感も高まる。
VSA-LX53がもう一つiPodユーザーに魅力なのはドックレスで簡単にデジタル接続ができることだ。先のiControlAVと逆にVSA-LX53のリモコンでiPodをコントロールすることも可能。これも試聴しておこう。さすがにデジタルで解像感が格段に高い。ビートルズのアルバム『レット・イット・ビー』(アップルロスレスでリマスタCDからリッピング)の「トゥー・オブ・アス」のアコギの鳴りと輝き感がくすまず、ボーカルの輪郭がシャープである。
他にも携帯音楽プレーヤーやPC内音楽ファイルをワイヤレス再生するブルートゥースへのオプション対応と伝送時のロスを補間するサウンドレトリバーAIR、インターネットラジオの24局プリセットなど機能は豊富。もちろんHDMI Ver.1.4に対応し3D映像信号のパススルー出力やARC(オーディオ・リターン・チャンネル=地デジ等の音声をTOSを使わずHDMIで入力できる)に対応する。PQLSマルチサラウンドを搭載、ブルーレイソフトのサラウンド音声をLPCMに変換しロージッターHDMI伝送が可能だ。
枚挙に暇がないほどの機能を搭載し家庭で音の中心を担うユーティリティプレーヤーとして現時点でほぼ万能の存在がVSA-LX53だが、注目してほしいのはそれよりもオーディオ製品としての音質の確かさ、地力だ。それについて私がこれ以上言葉を費やすより実際に販売店で体験した方が近道である。VSA-LX53にはその価値がある。