評価の高い前モデルにさらに磨きをかける
ソニー新AVアンプ「TA-DA5600ES」を高橋敦氏が試す − 「新製品でありながらも抜群の安定感」
10月21日に発売を控えるソニーのAVアンプ新モデル「TA-DA5600ES」。同製品の特徴に評論家の高橋敦氏が迫った。
■前モデルの特徴を継承しつつ様々な進化を遂げた新型機
「機能を詰め込めすぎずに比較的シンプルにまとめ、インターフェース設計も巧みで操作性は抜群。解像感など諸要素を高度に実現しつつも音調はスッと自然」
僕は近年のソニーのAVアンプにそのような印象を持っているが、本機「TA-DA5600ES」もその印象と期待を裏切らない。高評価を得た「TA-DA5500ES」をベースにしたモデルなので当然だ。
まずはTA-DA5500ESから進化した部分を押さえておこう。
おなじみの自動音場補正技術「D.C.A.C.」は「D.C.A.C. EX」に進化。「スピーカーリロケーション with A.P.M」に対応した。スピーカーリロケーションとは、スピーカーの配置を仮想的に変更する技術。部屋の形状や家具の配置の都合で理想的な位置にスピーカーを置けない場合でも、補正技術を用いて仮想的に、位置や角度の修正を行ってくれる。様々な環境に、より柔軟かつ高品位に、サラウンドを導入できる。
名前が出てきたところで、当然ながら「APM」は継承。フロントスピーカーの位相特性を基準に他のスピーカーの特性を補正する技術だ。フロントの個性を生かしつつサラウンドを展開できる。
サラウンド周りではドルビープロロジックIIzのフロントハイスピーカーへの対応も追加。ハイスピーカーの設置は正直厄介な問題だが、フロント音場の充実度をぐっと増してくれるオプションだ。
ソニー独自の音響効果技術「HD-Digital Cinema Sound」(HD-D.C.S.)も、フロントハイ追加に歩調を合わせて進化。サラウンドバックをフロントハイに置き換える「Front High」モードも追加されている。なおフロントハイを含む接続を想定して、スピーカー端子は9端子を用意している。
HDMI端子は6入力2出力で、入力のうち2系統が特にオーディオ用となっている点も含めて、構成としては前モデルと同様。ただしもちろん、この時期の新製品であるので、3D信号のパススルー出力とARC=オーディオリターンチャンネルに新たに対応している。加えて「低位相ノイズタイプ水晶発振器」を搭載し、ジッターは前モデルの10分の1程度と大幅に低減している。
DLNAクライアント機能も前モデルから引き継ぐが、今回はDLNAレンダラーモードにも対応。スマートフォンのDLNAコントローラーアプリなどでの操作も可能になったわけだ。
ネットワーク再生の高音質化を狙い、NASとアンプを直結するために、新たに4ポートのLANスイッチングハブを搭載。シンプルでスマートなアンプに「入力3が最も高音質で次が入力4」のようなマニアックさを潜ませているあたりもソニーらしい。そのほかでは、96kHz/24bitやFLACには対応しないが、CDからリッピングした音楽ファイルなどを高音質で楽しめる。
前モデルから引き継ぐところも確認しておこう。
シャーシ、シャーシ内での回路や部品の配置は、前モデルとほぼ同様だ。シャーシはメタル・アシスト・ホリゾンタルFBシャーシと呼称されている。フレームを強化する金属製補強ビームによって、シャーシの捻れ変形を防止。内部の各基板を保持する金属部品の新設によって、基板の保持強度を向上。それらの強度向上によって部品の振動レベルを下げ、低歪と速く量感のある低音を実現している。
アンプも基本的な構成などは変えていないようだ。しかし出力を150Wから160Wに強化。低インダクタンス電源トランス採用など、主に電源部が地道に強化されている。各所の信号系および電源のコンデンサーもグレードアップされているとのことである。
■完成度の高かった前モデルの音をさらに磨いたおすすめしやすいモデル
では実際の音の印象を述べていこう。
「ダークナイト」からはまず、爆発やクラッシュが連発される派手なアクションシーンを試聴したが、しばらく見ているとついつい音量を上げたくなった。迫力が物足りないからではなく、しなやかでうるさくない音調なので、音量を上げても不快ではないからだ。もちろん適度な音量のままでも十分な迫力、ダイナミクスを確保している。
この場面は効果音の縦横無尽なサラウンド移動もポイントだが、そのキレとスピーカー感のつながりも素晴らしい。効果音のキレは、粗い鋭さではなく、するっと滑らかな鋭さだ。
その滑らかさは台詞の感触にも現れる。「ダークナイト」の取調室での緊迫したやりとりはもっと粗い怖さを出してもよいかなとは感じた。一方「ヱヴァ・破」では、ざらつかせず、プラスチック的につるっとした艶やかさをよく引き出し、世界観に沿った描写と言える。
さて、「ヱヴァ・破」の冒頭は全方位の情報量が極端に多い場面だが、ここでは解像感、細部描写、サラウンドの精度を見せつける。いや、見せつけるという言い方は不適切かもしれない。意識して確認しない限りはそれらは主張されない。そのようにさらりと、それらの要素を高度に達成している。
音楽ソースは「CHRIS BOTTI IN BOSTON」を試聴。ここまでの流れから期待していたが、期待通りに、女性ボーカルは素晴らしい感触。ロングトーンが滑らかにするっと突き抜ける。実に気分がよい。
ウッドベースは中肉中背で無駄のない、こちらもスムースな音像。ドラムスもタイトすぎずナチュラルで、全体のバランスも極めて良好だ。
完成度の高かった前モデルをベースに、その音をさらに磨き、そして時代に合わせて各機能の追加やアップデートも実施された。新製品でありながらも抜群の安定感さえ感じさせる、おすすめしやすいモデルである。
<高橋 敦>
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。
■前モデルの特徴を継承しつつ様々な進化を遂げた新型機
「機能を詰め込めすぎずに比較的シンプルにまとめ、インターフェース設計も巧みで操作性は抜群。解像感など諸要素を高度に実現しつつも音調はスッと自然」
僕は近年のソニーのAVアンプにそのような印象を持っているが、本機「TA-DA5600ES」もその印象と期待を裏切らない。高評価を得た「TA-DA5500ES」をベースにしたモデルなので当然だ。
まずはTA-DA5500ESから進化した部分を押さえておこう。
おなじみの自動音場補正技術「D.C.A.C.」は「D.C.A.C. EX」に進化。「スピーカーリロケーション with A.P.M」に対応した。スピーカーリロケーションとは、スピーカーの配置を仮想的に変更する技術。部屋の形状や家具の配置の都合で理想的な位置にスピーカーを置けない場合でも、補正技術を用いて仮想的に、位置や角度の修正を行ってくれる。様々な環境に、より柔軟かつ高品位に、サラウンドを導入できる。
名前が出てきたところで、当然ながら「APM」は継承。フロントスピーカーの位相特性を基準に他のスピーカーの特性を補正する技術だ。フロントの個性を生かしつつサラウンドを展開できる。
サラウンド周りではドルビープロロジックIIzのフロントハイスピーカーへの対応も追加。ハイスピーカーの設置は正直厄介な問題だが、フロント音場の充実度をぐっと増してくれるオプションだ。
ソニー独自の音響効果技術「HD-Digital Cinema Sound」(HD-D.C.S.)も、フロントハイ追加に歩調を合わせて進化。サラウンドバックをフロントハイに置き換える「Front High」モードも追加されている。なおフロントハイを含む接続を想定して、スピーカー端子は9端子を用意している。
HDMI端子は6入力2出力で、入力のうち2系統が特にオーディオ用となっている点も含めて、構成としては前モデルと同様。ただしもちろん、この時期の新製品であるので、3D信号のパススルー出力とARC=オーディオリターンチャンネルに新たに対応している。加えて「低位相ノイズタイプ水晶発振器」を搭載し、ジッターは前モデルの10分の1程度と大幅に低減している。
DLNAクライアント機能も前モデルから引き継ぐが、今回はDLNAレンダラーモードにも対応。スマートフォンのDLNAコントローラーアプリなどでの操作も可能になったわけだ。
ネットワーク再生の高音質化を狙い、NASとアンプを直結するために、新たに4ポートのLANスイッチングハブを搭載。シンプルでスマートなアンプに「入力3が最も高音質で次が入力4」のようなマニアックさを潜ませているあたりもソニーらしい。そのほかでは、96kHz/24bitやFLACには対応しないが、CDからリッピングした音楽ファイルなどを高音質で楽しめる。
前モデルから引き継ぐところも確認しておこう。
シャーシ、シャーシ内での回路や部品の配置は、前モデルとほぼ同様だ。シャーシはメタル・アシスト・ホリゾンタルFBシャーシと呼称されている。フレームを強化する金属製補強ビームによって、シャーシの捻れ変形を防止。内部の各基板を保持する金属部品の新設によって、基板の保持強度を向上。それらの強度向上によって部品の振動レベルを下げ、低歪と速く量感のある低音を実現している。
アンプも基本的な構成などは変えていないようだ。しかし出力を150Wから160Wに強化。低インダクタンス電源トランス採用など、主に電源部が地道に強化されている。各所の信号系および電源のコンデンサーもグレードアップされているとのことである。
■完成度の高かった前モデルの音をさらに磨いたおすすめしやすいモデル
では実際の音の印象を述べていこう。
「ダークナイト」からはまず、爆発やクラッシュが連発される派手なアクションシーンを試聴したが、しばらく見ているとついつい音量を上げたくなった。迫力が物足りないからではなく、しなやかでうるさくない音調なので、音量を上げても不快ではないからだ。もちろん適度な音量のままでも十分な迫力、ダイナミクスを確保している。
この場面は効果音の縦横無尽なサラウンド移動もポイントだが、そのキレとスピーカー感のつながりも素晴らしい。効果音のキレは、粗い鋭さではなく、するっと滑らかな鋭さだ。
その滑らかさは台詞の感触にも現れる。「ダークナイト」の取調室での緊迫したやりとりはもっと粗い怖さを出してもよいかなとは感じた。一方「ヱヴァ・破」では、ざらつかせず、プラスチック的につるっとした艶やかさをよく引き出し、世界観に沿った描写と言える。
さて、「ヱヴァ・破」の冒頭は全方位の情報量が極端に多い場面だが、ここでは解像感、細部描写、サラウンドの精度を見せつける。いや、見せつけるという言い方は不適切かもしれない。意識して確認しない限りはそれらは主張されない。そのようにさらりと、それらの要素を高度に達成している。
音楽ソースは「CHRIS BOTTI IN BOSTON」を試聴。ここまでの流れから期待していたが、期待通りに、女性ボーカルは素晴らしい感触。ロングトーンが滑らかにするっと突き抜ける。実に気分がよい。
ウッドベースは中肉中背で無駄のない、こちらもスムースな音像。ドラムスもタイトすぎずナチュラルで、全体のバランスも極めて良好だ。
完成度の高かった前モデルをベースに、その音をさらに磨き、そして時代に合わせて各機能の追加やアップデートも実施された。新製品でありながらも抜群の安定感さえ感じさせる、おすすめしやすいモデルである。
<高橋 敦>
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。