様々な映画のBDソフトで実力を徹底チェック
貝山知弘が観たソニー〈ブラビア〉の新高画質回路「X-Reality PRO」の実力 − 高画質ソースの表現力はいかに?
ソニー 新〈ブラビア〉に搭載された新高画質回路「X-Reality PRO」の秘密へ迫る連載企画。第1回目の対談に続く今回は、貝山知弘氏が様々なBDソフトを視聴して高画質化の実力をチェック。熱心なオーディオビジュアルファンがもっとも頻繁に視聴するであろう高画質な映像ソースに対して、「X-Reality PRO」はどのように効果を発揮するのだろうか?
■「明暗と色調のパーフェクトと言えるほどのバランスはデータベース型複数枚超解像技術の賜物」
今回のテストでは、私が好む映画のBDを新〈ブラビア〉でかなり長時間にわたって視聴できた。なおテストに使用したモデルは「KDL-55HX920」で、室内照明はすべて落とした状態での鑑賞である。
最初の『天国の日々』はプロ好みの映画。監督テレンス・マリックと撮影監督ネストール・アルメンドロスが手を組んだ唯一の作品だ。試聴したのはクライテリオン盤のBD。ニュアンスに富んだ映像が眼前に展開する。
この映画の主な舞台は1900年のテキサス州北部の農園。広大な自然の中でロケーション撮影されている。この作品の“華”と言えるのは、いわゆる「マジックアワー」と呼ばれる薄明の時間帯の映像から、夕陽が沈んだ直後と朝日が姿を表すまでの美しい情景だ。この短い時間には光の出所が曖昧となるために独特の階調が得られ、ニュアンスに富む明暗と色が現れる。
例えば日没後の空の色は急速に変化し、そこでは多彩な中間色の乱舞が見られたりする。日が落ちたばかりの情景では逆光が弱くなるので風景と顔のトーンを同じ階調に揃えることもできる。柔らかで濃密なフェイストーン(顔色)が得られるのも大きな特長だ。
しかし、コントラスト差が少ないマジックアワーの微妙なニュアンスをディスプレイ上に再現することはなかなか難しい。階調のバランスをちょっとでも間違うと、暗さだけが目立つ画面となりやすいし、暗部の色がきちっと出せなければ、美しい色調も消えてしまう。
だが眼前の〈ブラビア〉は、こうした微妙なニュアンスを正確に、しかも緻密に表出してくれた。コントラスト差の少ない人物と背景が醸しだす情景は一幅の絵画のように美しい。
この映画の主人公の一人であるアビー(ブルック・アダムス)は人生に疲れ切った若い女性。沈んだ夕日を見送るように立つ彼女の顔には、どこか屈折した哀愁が漂っているが、マジックアワーの中では、その表情が情景の中に溶け込み多彩な感情の漂白を付け加えているのだ。解像度の高い緻密な映像はとかく見逃しがちな微細な描写の意味を判らせてくれるのだ。
新しい〈ブラビア〉は正確にこの作品のエッセンスを伝えた。それは難しく撮影された映像の難しい再現だ。それを可能にした要因は明暗と色調のパーフェクトと言えるほどのバランスである。私はこれこそ「X-Reality PRO」が備えたデータベース型複数枚超解像技術の賜物だと思っている。同一フレームの隣接画素だけでなく、複数枚、つまり時間軸上のデータも見るようにしていることで、データの復元精度が飛躍的に向上している。また、映像波形を解析し、最適な映像に作り替えるためのデータベースを参照することでより高精細な画像になっているのだ。
■「肌の色の個性をこれほど正確に表現したコンスーマー用途のテレビは今までなかった」
私が映画作品の再生で真っ先に注目するのは肌の色である。肌の色は自然でなければならず、画面に表出された肌の色が不自然だと、その作品全体が不自然に思えてしまう。肌の色、顔色は100人100様、健康状態によっても異なるし、化粧によっても、光の当たり方でも変ってくる。すべての顔色を正確に表現するためには、ディスプレイでの色と階調の幅広い表現能力が必要となる。
〈ブラビア〉の映像を見て私が心踊らせたのはまず顔色の多彩で正確な表現であった。一人一人が持つ肌の色の個性をこれほど正確に表現したコンスーマー用途のテレビは今までなかった。