初のコンシューマー向け製品
AudysseyのiPodドックスピーカー「South of Market Audio Dock」の実力をチェック
■豊かな低音としなやかな高音。バランスの整ったサウンド
Helge Lien Trio「Spiral Circle」は北欧のピアノトリオの作品。最近作はしなやかで温かみある感触だが、数年前のこの作品の音調は透明度が高く強烈に硬質。それこそ北欧の冬を思わせるような、張り詰めた音が収録されている。
まず感心させられたのは、バスドラムやフロアタムなど大柄なドラムパーツのその大柄さの再現。胴の内に含む空気の容積の多さを感じさせるような、低音の深く豊かな響きがそれを生み出している。ドラムの音の芯はソリッドだ。だからこそ、そこから広がる響きが豊かに感じられる。
続いて入ってくるウッドベースもやはり胴の容積、震える空気の量を感じさせる、自然な低さと太さである。
そのドラムスやウッドベースの音色の感触は、強烈な硬質さは少し和らげて、しかしこの音源らしい硬質は十分に残しつつ、木質の温かみを引き出す印象だ。高域側も尖って突き抜ける感じにはしない。シンバルは高域の天井に向けて十分に伸びて抜けているが、シャープという印象にはしていない。
微妙な表現になるが、硬質な金属にも「金属なりのしなやかさ」というものがあると思う。それを感じさせる音色だ。ピアノの音色も同様に、硬質さは硬質さとして適当に残しつつも、滑らかな艶が印象的である。
ベースやバスドラムなどの低域からシンバルなどの高域にかけての帯域バランスは、実に整っている。こういった絶妙なバランスはなかなかに得難いもので、それをさらりと達成しているあたり、さすが音響を知り尽くしたAudysseyだ。
■専用iOSアプリの使い勝手は?
基本的な音調や帯域バランスを把握したところで、本機のもうひとつの目玉でもある専用のiOSアプリ「Audyssey South of Market Audio Dock」を試していこう。
アプリに用意されている機能は、本機に内蔵されているAudyssey独自の音響機能の設定を任意に変更・調整する機能だ。前述のように、本機は素の音でも素晴らしい音調やバランスにまとめられているが、個人の好みや設置環境に合わせて、そこからさらに音を追い込んでいくことができるのだ。
アプリで設定可能な項目は「ダイナミックボリューム」「トーンコントロール」「カスタムEQ」の3つだ。
「ダイナミックボリューム」は、音源自体の音量が上下しても、スピーカーから出る音量をある程度一定に揃えてくれる機能だ。例えば静かなジャズからシャッフル再生で爆音のロックに続いたときなどにも、音量の落差が出すぎないようにしてくれる。
実際に試してみたところ、具体的には、音の大きな音源の方の音量を抑えるように働くようだ。動作は「ヘビーモード」「ライトモード」「オフ」から選択できる。「ヘビーモード」が通常、「ライトモード」が少し音量を控えたモードと思われる。
続いては「トーンコントロール」。注目は「Tilt」という項目で、本機でデビューしたAudysseyの新技術だ。Tiltのスライダーを「高音」側に動かすと音調が明るさと軽妙さが増し、「低音」側に動かすと落ち着きと重みを増す。高域と低域それぞれの単純な増減ではなく、いくつかのパラメーターを同時に動かしているものと思われる。それをスライダーひとつで操れるのがユニークで、かつ非常に便利だ。
最後のセクションは「カスタムEQ」だ。イコライザのカーブを指先のタップとドラッグで調整できる、いかにもiOSアプリらしい操作性が特長。カーブの途中をダブルタップするとそこにイコライザーポイントが追加されるので、そうしたらそのポイントを上下にドラッグしてイコライザーのカーブを作る。その調整設定は複数保存しておくことが可能だ。
チェックを終えての感想は「さすがAudyssey」という一言に尽きる。素の音のバランスの良さも「さすがAudyssey」だし、それに加えて、音量や音質の調整機能も「さすがAudyssey」だ。
積み重ねてきた音響技術を実に見事発揮した本機は、Audysseyの看板となるにふさわしい逸品だ。
(高橋敦)