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『ブラック・スワン』の難シーンをプラズマ“Wooo”はどう再現したか
■ナタリー・ポートマンの鬼気迫る熱演
『ブラック・スワン』成功の最大の理由は、ナタリー・ポートマンの熱演にある。もう一つは、誰もが知っているチャイコフスキーの名作バレエ『白鳥の湖』とドラマを巧みに融合した着想の妙にある(本作はオリジナル脚本)。
N.Y.のバレエカンパニーに所属する主人公のニナは、『白鳥の湖』新プロダクションの主役に抜擢されるが、かつて舞踊手であった母親の強い支配下で育ち男性経験がロクにない彼女は清純なオデット(白鳥)の役は完璧に踊れても、オディール(黒鳥)の邪悪な誘惑者ぶりをうまく表現出来ない。
「キミの黒鳥はさっぱりセクシーでない。それで誰が誘惑されるかい?」と振付師に罵倒され苦しむニナ。振付師は苛立った挙句、ロサンゼルスから代役のリリーを呼び寄せる始末。開幕の日が次第に近づきニナの精神に変調が起きる。
バレエの心得のあるポートマンが可能な限りプリマバレリーナになり切り、精神が蝕まれていく後半は『スター・ウォーズ』で御馴染のあのポッチャリした顔立ちが別人のように痩せこけ、凄絶な人相に変わっていく。激しい精神的葛藤の末、ずっと封印されてきた憎しみ、嫉妬、性愛という心の闇を解放しついに<殺人を犯す>ことで、クライマックスで役柄との一体化を遂げ舞台を成功させる。その邪悪な黒鳥になりきった演技も見事である。
バレエを題材にした映画として本作を見た場合、正直言って『赤い靴』『愛と喝采の日々』『愛と哀しみのボレロ』等バレエがモチーフになった先行作に比べると、カンパニーの描写がどこか場末っぽい雰囲気だ。サブカルっぽいって言ってもいい。しかし、本作はバレエそのものがテーマでないから、これでいい。
撮影も上手い。たとえばこれがもし日本映画だとしたら、本作のような流動感のある撮影、カメラが舞台に入り踊るニナ(ポートマン)を影のように追う迫力ある舞台シーンにはならない。もし同じ脚本を日本で撮ったら、望遠で客席側、あるいは舞台袖から追う静的な撮影になっただろう。
舞台シーンの観客の歓声は、出来あいの音源を持ってきて被せた感があっていささか安っぽいが、チャイコフスキーの管弦楽の5.1chサラウンド化にハリウッドのサウンドデザイナーのセンスと手腕が冴える。これも日本映画では決して真似できない芸当。クライマックスの舞台シーンとプリンシパルルーム(プリマバレリーナ〜主役舞踊手の楽屋)での惨劇にひたすらサラウンド化した『白鳥の湖』が流れるが、現実に演奏されている音楽というより、主人公ニナの心の中に鳴り響き、のしかかり、支配し苛む音響であることが見事に表現されている。
主演ナタリー・ポートマンが特典映像で「実は、低予算映画なの」と語っているように、いささか軽量級の仕上がりだが、欲張らず要素を絞り込み、一幕悲劇のようにスピード感と緊迫感のあるウェルメードな作品になった。