約3年ぶりのモデルチェンジ完了
普遍的な魅力がさらに研ぎ澄まされた − ゼンハイザーの最新イヤーモニター「IE 80」「IE 60」を聴く
普遍的な魅力がさらに研ぎ澄まされた − 「IE 60」「IE 80」のサウンドを聴く
では両モデルのサウンドを確認していこう。今回の試聴環境は、USB対応ヘッドホンアンプのiBasso Audio「D5 Hj」とノートPCの組み合わせを基本に、iPod nanoを用いて携帯プレーヤーと組み合わせて実力の確認も行った。
試聴ソースは、軽やかなピアノ・トリオ作品、Mathias Landaeus Trio「Opening」、バッハの弦楽作品、Hilary Hahn「Bach:Violin Concertos」、女性ボーカルのポップス、やくしまるえつこ「ノルニル」を用いた。
はじめに「IE 60」のサウンドから聴いていこう。
軽快にハイレベルなサウンドが楽しめる「IE 60」
「IE 60」はジャズのウッドベースに木質の柔軟な弾みを与え、スイング感をよく引き出す。そのベースやドラムなど低音の音色は柔らかに濃い。ピアノの右手は低音ほどには和らげず、音色の角、ピアノ線の張りの強さも緩めすぎずに表現する。シンバルの音色もよくほぐれているが、金属質のザラつきも適度に残しており、生々しい。
弦楽では低音部の優しい太さが強みだ。ビシッと明確な線ではなく、柔らかな広がりで低音を支えて全体を構築する。高音部を担うヴァイオリンは音色の線がやや細身で、バランスとしては低音部が強め。ほどよく低重心の音場である。
ポップスのエレクトリックベースは大柄な音像で存在感も大きい。屋外利用では低音はこれくらい主張した方が良いとの判断だろう。女性ボーカルのささくれた手触りはそれを柔らかなタッチで引き出し、聴きやすく、すっと心に入ってくる。
iPodのヘッドホン出力に直接つないで聴くと、音色の硬質さや明るさが少し増す印象。しかし決定的な違いではなく、この組み合わせでも十分に「IE 60」の実力は発揮される。
スケールの大きな表現力を備えた「IE 80」
「IE 80」で聴くジャズのウッドベースは実に自然でさらりとした手応えだ。演奏者の気負いの無さまでが伝わってくる。ドラムスも微妙な強弱の表現で、音色が表情を変えていく様子まで鮮やかに見えてくる。低音の出方も実に多彩だ。
シンバルはソフトタッチの場面で、サワサワと柔らかく穏やかなきらめきが美しい。ピアノの音色の角は「IE 60」より少し大きめに落とされていて、音色の艶やかさが増している。
弦楽での低音部の濃さや広がりは「IE 60」のそれをスケールアップした感触だ。さらに、高音部まで柔軟であるのが「IE 80」の持ち味で、ヴァイオリンはしなやかに歌う。また空間表現の自然さも、イヤホンとしては最上級である。
ポップスも柔らかい音調で、帯域バランスも良好だ。エレクトリックベースも適当な太さや厚みを備えており、艶やかな質感が心地よく弾む。ボーカルの声の細やかな質感表現や、歌の表情の豊かさは見事と言うしかない。
iPodとの組み合わせでは、強いて言えば厚みや濃さが少しばかり薄まり、音色の濁点成分が少しだけ強まる。
全体のサウンドの印象は前回レポートした「IE 8」のキャラクターを継承しながら、表現力がスケールアップしていることを実感した。ベース・チューニングの機能については、その効果の幅が「IE 8」よりもさらに広がっていると感じる。
「IE 8」ではダイヤルを回した差異の可変幅が、どちらかと言えば控えめで、限界まで回しても強引な効果は出なかったが、「IE 80」ではそのさじ加減をユーザーの好みにより委ねたのか、変化の幅が大きく、またストレートに実感できるものになっている。例えばダイヤルをぐっと絞り込むと、低音の量感は薄れる代わりに、スカっと抜けるような見晴らしの良いサウンドが得られる。この可変幅は大胆かつ、慎重に活用したい。
「IE 60」「IE 80」のサウンドを実際にじっくりと聴いてみたが、両機ともにゼンハイザーらしく、しなやかで繊細な表現力をしっかりと受け継いでいる。普遍的な魅力をさらに研ぎ澄ましたラインナップが登場した。
各製品のスペック
IE 60/¥OPEN
●周波数特性:10Hz〜18kHz ●インピーダンス:16Ω ●音圧レベル:115dB ●ケーブル長:1.2m ●質量:約14g
>>ゼンハイザー「IE 60」の製品情報
IE 80/¥OPEN
●周波数特性:10Hz〜20kHz ●インピーダンス:16Ω ●音圧レベル:125dB ●ケーブル長:1.2m ●質量:約16g
>>ゼンハイザー「IE 80」の製品情報
【問い合わせ先】
ゼンハイザージャパン
info@sennheiser.co.jp
高橋 敦 プロフィール
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。