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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第2回】AKG「K495NC」で “ひとりノイキャン祭り” 開催!

公開日 2012/05/23 16:52 高橋敦
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■K495NCは地下鉄銀座線の騒音に勝てるか?

まず自宅から最寄り駅までの徒歩。住宅地においては、時折通り過ぎる自動車のエンジン音はほとんど消えて、タイヤのロードノイズが「ザー」と軽く聴こえるのみになる。音楽を再生している状態ではその「ザー」は、意識しないと気にならない。やや交通量の多い通りに出てバスやトラックが横を通過しても、全くその調子で実に快適だ。

音質的にはこの時点では、低音の豊かさと柔軟さが印象的である。歩きながら聴いている分には何の不満もない。

続いては電車である。まずは中央線(地上路線)だ。乗り込んですぐ気付くのは、空調の音が気にならないこと。空調の音の低い成分は車内にこもるように響くが、その低音の響きがきれいさっぱりと言えるほどに消える。「ゴゴゴォー」だったものが「シュー」になった感じだ。電車が出発しても、「ガタンゴトン」というあの音が「カタンコトン」と濁点が取れて軽くなって、うるささは相当に軽減される。

騒音が軽くなるおかげで、ロックやポップスだと音楽が騒音に完全に打ち勝つ。ジャズの静かな場面だと騒音は聞こえてはくるが、さほど気にならない。特に騒音の低音側が軽減されることで、それにマスキングされることなくベースが届いてくることが大きい。

前述のジャズでは、バスドラムの低音がバスンと空気を豊かに揺らす感触まで感じられる。ボーカルの入る作品では、その肉声的な厚みも特長。それらに代表されるように、中低音の肉厚さは本機の持ち味だ。ノイズキャンセルはその副作用として中低音が緩むことがあるが、本機はそれを巧く制御しつつ活かしているようだ。

背景が静かになることで高域側も、静かな場面でのシンバルの消え際までを追いかけるといった聴き込みまでもできる。音楽が騒音に負けないおかげで、音量を控えられるのも嬉しい。耳に優しい。

iPhone 4の音量制限を解除している状態で、ボリュームのスライダーはこの位置で十分に音楽を満喫できた

なお、騒音は綺麗に軽減されるのに車内アナウンスはちゃんと聞こえるどころかよりクリアに聞こえる。通常ノイズキャンセルヘッドホンは、人の声の帯域はキャンセルしないため、騒音が抑えられると相対的にアナウンスはクリアに届いてくるのだ。このあたりはカナル型イヤホンの遮音性とは異なる。

さて装着感と快適性だが、オンイヤー型であるため、耳を圧迫される感じはある。装着開始から30分ほどで気になり始めた。しかし、僕は普段オンイヤー型を全く利用していないため、それに慣れていないから違和感が強いという面もあるだろう。イヤーパッドの手触りとふかふか感は文句なし。試聴機が展示してあるお店があれば、実際に装着して確認してみてほしい。

ぷっくりと厚みのあるイヤーパッド。(耳を覆うアラウンドイヤー型ではなく)耳に乗っかるオンイヤー型

ヘッドバンドの長さ調整はクリック感があるタイプ。バンドの数字刻印と合わせてポジションを決めやすい

そして遂に最大の難所であろう、地下鉄銀座線に乗り換えた。本機のノイズキャンセル能力は地下鉄の騒音をも凌駕するのか!?

…凌駕しました!

ヘッドホンを外した状態では「ズゴォウォウ」みたいなジョジョ的に強烈な擬音で表すしかないほどに唸る騒音が、ヘッドホンを装着してノイキャンをオンにすると「ゴー」と淡白な騒音になった。さすがにそれでも少しはうるさい。しかし音楽を再生すればそちらが勝つ。これは十分な効果だ。

■ヘッドホン祭会場へ到着! 「人のざわめき」はどうなる?

最後は目的地の「春のヘッドホン祭2012」会場である。つまり「人混みのうるささ」に対しての効果のチェックだ。

こちらは、電車の騒音に対するほどの効果はない。前述のように、人の話し声自体の帯域は積極的にキャンセルされていないためだろう。

しかし、人が集まった場所に生まれるざわざわとした低音は、大きく軽減される。その結果、その場の生々しいざわざわ感というよりは、帯域の狭いラジオ越しに人混みの音を聞いているような、そんな聴感になる。その効果は十分に大きく、音楽>騒音の図式を余裕で維持。聴こえてくる音の印象は電車内でのそれとあまり変わらない。様々な騒音下でもその影響を抑え込んで安定した音を楽しめることが、本機の魅力と言える。

■帰宅後、静かな環境で音質を最終チェック

さて帰宅後、静かな室内環境で音質を最終チェックした。

Esperanza Spalding「Radio Music Society」からの曲では、冒頭のエレクトリックギターの音に厚みがある。本来もう少しペラッとした音がいいのだが、これも悪くない。音色の厚みはやはり本機の持ち味である。エレクトリックギター独特の樹脂的な艶やかさは良く出ており、質感描写も十分だ。

シンバルは柔らかな音色。バシッというキレは控えられるが、演奏のしなやかさは引き立てられる。それでいて音色の広がりや抜けも確保している。AKGヘッドホンに期待するところに応えてくれている。

エレクトリックベースの音像は大柄で、音色は肉厚で柔軟。柔軟ではあるがふにゃふにゃではなくて、しっかりとした音色だ。

ボーカルは宇多田ヒカルさん「HEART STATION」で確認。やはり肉厚で豊かな声にしてくれる。感触としては柔らかいので彼女の低音の凄みは少し薄れる。しかし木管楽器の低音のような優しい響きが際立ち、これはこれで好感触だ。

機能性、ノイズキャンセル性能、音質。どれをとってもハイエンドにふさわしいレベルだ。柔軟で豊かな音調を好む方には特におすすめできる。通勤・通学などの外出時にも、騒音を抑えて安定した高音質を楽しみたい方は、注目して損はない。


高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。


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