[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第6回】本当に怖い音声圧縮 − 音質劣化を“見た目”で確認!
■リッピング時にどのフォーマットを選んでる? AIFF、ALAC、AAC…それぞれの音質を“見た目”で確認
イマドキのオーディオの再生ソースといえば、音楽ファイルが主流だ。ネット配信から購入する場合を除き、ここで使われる音楽ファイルの音質はCDからPCに音声データを読み込む作業、いわゆる「リッピング」時の設定が大きく関わってくる。今回はそこのところをちょっと詳しくおさらいしたい。
なお本記事の前半部分では、“リッピング時にどの音質を選ぶと良いのか知りたい”という方を対象とした、リッピング形式の基本について述べる。恐らくこの前半部分は、多くのファイル・ウェブ読者の方にとっては当たり前の情報であろうことと思う。
しかし目玉はその先。“本当に怖い音声圧縮”…ということで記事後半では、「圧縮ファイルは実際どれくらい音が劣化するものなのか?」「ビットレート値でどれくらい音質が変わってくるのか?」といった部分を、“見た目”で確認してみようと思う(→AIFF、ALAC、AACの音質を見た目で確認!)。ぜひ最後までお付き合い頂きたい。
■今更といわず…まずは基本からおさらい
ごく簡単なリッピング時の選択肢の大枠は、「圧縮形式(ファイル形式)」と「ビットレート」だ。このふたつによって音質と、そしてもうひとつ大事な要素であるファイル容量が決まる。
「圧縮形式(ファイル形式)」というのは、AACやMP3、Appleロスレス、FLACなどのフォーマットのことだ。この選択によって、音質とファイル容量、そして再生できる環境が決定付けられる。
「ビットレート」は音声の1秒ごとに割り当てられるデータ量だ。数値(kbps)が高いほど高音質になるが、代わりにファイル容量が増える。
というところを踏まえて以下の表を見てほしい。代表的な圧縮形式とビットレート設定ごとの特徴をまとめてみた。
まずは表の左からふたつめの項目に注目してほしい。圧縮形式は大きく「ロッシー圧縮」「ロスレス圧縮」「非圧縮」に分類できる。
AACとMP3が属する「ロッシー圧縮」方式は、音声データを圧縮する際にデータの一部を間引くことで高い圧縮率=ファイル容量の大幅な低減を実現する。その代わり再生時には元の音声データを完全には復元できず、音質の劣化が不可避だ。音質劣化の度合いはビットレートの設定によって変化する。ビットレート値が低くなるほど音質劣化が大きくなり、逆に高くなるほど緩和される。
AppleロスレスとFLACが属する「ロスレス圧縮」方式は、圧縮率が低い代わりに、再生時に元の音声データを完全に復元できる方式。ファイル容量は大きくなるが、音質はCDと同等だ。ビットレートは音声データの内容に応じて自動的に変動し、それに応じて圧縮率も一定ではない。
AIFFとWAVは「非圧縮」方式。元の音声データを抜き出してそのままファイル化する。圧縮を行わないので容量は大きくなるが、音質的には完璧だ。
では表を詳しく見ていこう。
■改めて今更といわず…再生環境も考慮するとリッピング時のフォーマット選択基準はこんな感じ
表の「圧縮率」「音質」の項目を見てもらうとわかるように、その両者が共に高評価になるのは、ビットレートを高めにしたロッシー形式、「AAC/256kbps」「MP3/192kbps」あたりだ。良好と言える音質を確保しつつ、ファイル容量も抑えられる。PCの内蔵SSD/HDDやiOS機器やスマートフォンなどの容量との兼ね合いにも優れるわけだ。
iTunesの初期設定もAAC/256kbpsであり、iTunes Storeで販売されている音楽ファイルの仕様も同様だ。現在のスタンダードはこのあたりと言えるだろう。再生互換性の面でも、AACとMP3は広く普及しており、どちらを選んでもまず再生環境に心配はない。
一方、CDと同等という最高の音質を維持しながら、ある程度のファイル容量を削減できるのは、AppleロスレスとFLACが属するロスレス形式である。オーディオ的観点から音質を最優先するならこちらを選択したい。PCのSSD/HDD、スマホなどの容量との兼ね合いは少し難しくなるが、そこさえクリアできるならこの形式にしておくことが望ましい。
例えば、所有しているCDの枚数がそれほどではないなら、ロスレス形式でライブラリを構築してもPCのSSD/HDD等をそれほど圧迫せず、iOS機器などへの全曲同期も可能だろう。あるいはiOS機器などへの同期設定を工夫することでも対処できる(それについてはまた別の回で説明する予定)。そうであるならば、最善の音質を維持できるロスレス形式にしておくことがベター、長い目で見て間違いが少ない。
ただ気をつけなくてはならないのは、AppleロスレスとFLACは、再生できる環境の面からの選択が少し難しい。iTunesとiOS機器はFLACに対応せず、逆の他の多くの機器やソフトはAppleロスレスに対応しないというのがこれまでの状態。本稿執筆時の2012年6月現在では、多くのネットワークプレーヤーはFLACにしか対応していない。しかし2011年10月にAppleロスレスがオープンソース化されたことを受けて、同形式への対応は広がりを見せつつあることもあり、この流れも注視しておきたい。
AIFFとWAVは非圧縮の形式だ。もちろん音質はCDと同等を維持する。しかしデータ容量は全く圧縮されない。つまり言い方を変えれば、非圧縮形式は「ロスレス形式と同等の音質でロスレス形式よりもファイル容量は大きくなる」のだ。そういう意味では、特別なこだわりがない限りはあえて選ぶ理由はない。
さてついに今回の目玉。「実際のところ圧縮形式ごとの音質劣化ってどんな具合なの?」というのを、“見た目”で確認してみよう。
イマドキのオーディオの再生ソースといえば、音楽ファイルが主流だ。ネット配信から購入する場合を除き、ここで使われる音楽ファイルの音質はCDからPCに音声データを読み込む作業、いわゆる「リッピング」時の設定が大きく関わってくる。今回はそこのところをちょっと詳しくおさらいしたい。
なお本記事の前半部分では、“リッピング時にどの音質を選ぶと良いのか知りたい”という方を対象とした、リッピング形式の基本について述べる。恐らくこの前半部分は、多くのファイル・ウェブ読者の方にとっては当たり前の情報であろうことと思う。
しかし目玉はその先。“本当に怖い音声圧縮”…ということで記事後半では、「圧縮ファイルは実際どれくらい音が劣化するものなのか?」「ビットレート値でどれくらい音質が変わってくるのか?」といった部分を、“見た目”で確認してみようと思う(→AIFF、ALAC、AACの音質を見た目で確認!)。ぜひ最後までお付き合い頂きたい。
■今更といわず…まずは基本からおさらい
ごく簡単なリッピング時の選択肢の大枠は、「圧縮形式(ファイル形式)」と「ビットレート」だ。このふたつによって音質と、そしてもうひとつ大事な要素であるファイル容量が決まる。
「圧縮形式(ファイル形式)」というのは、AACやMP3、Appleロスレス、FLACなどのフォーマットのことだ。この選択によって、音質とファイル容量、そして再生できる環境が決定付けられる。
「ビットレート」は音声の1秒ごとに割り当てられるデータ量だ。数値(kbps)が高いほど高音質になるが、代わりにファイル容量が増える。
というところを踏まえて以下の表を見てほしい。代表的な圧縮形式とビットレート設定ごとの特徴をまとめてみた。
まずは表の左からふたつめの項目に注目してほしい。圧縮形式は大きく「ロッシー圧縮」「ロスレス圧縮」「非圧縮」に分類できる。
AACとMP3が属する「ロッシー圧縮」方式は、音声データを圧縮する際にデータの一部を間引くことで高い圧縮率=ファイル容量の大幅な低減を実現する。その代わり再生時には元の音声データを完全には復元できず、音質の劣化が不可避だ。音質劣化の度合いはビットレートの設定によって変化する。ビットレート値が低くなるほど音質劣化が大きくなり、逆に高くなるほど緩和される。
AppleロスレスとFLACが属する「ロスレス圧縮」方式は、圧縮率が低い代わりに、再生時に元の音声データを完全に復元できる方式。ファイル容量は大きくなるが、音質はCDと同等だ。ビットレートは音声データの内容に応じて自動的に変動し、それに応じて圧縮率も一定ではない。
AIFFとWAVは「非圧縮」方式。元の音声データを抜き出してそのままファイル化する。圧縮を行わないので容量は大きくなるが、音質的には完璧だ。
では表を詳しく見ていこう。
■改めて今更といわず…再生環境も考慮するとリッピング時のフォーマット選択基準はこんな感じ
表の「圧縮率」「音質」の項目を見てもらうとわかるように、その両者が共に高評価になるのは、ビットレートを高めにしたロッシー形式、「AAC/256kbps」「MP3/192kbps」あたりだ。良好と言える音質を確保しつつ、ファイル容量も抑えられる。PCの内蔵SSD/HDDやiOS機器やスマートフォンなどの容量との兼ね合いにも優れるわけだ。
iTunesの初期設定もAAC/256kbpsであり、iTunes Storeで販売されている音楽ファイルの仕様も同様だ。現在のスタンダードはこのあたりと言えるだろう。再生互換性の面でも、AACとMP3は広く普及しており、どちらを選んでもまず再生環境に心配はない。
一方、CDと同等という最高の音質を維持しながら、ある程度のファイル容量を削減できるのは、AppleロスレスとFLACが属するロスレス形式である。オーディオ的観点から音質を最優先するならこちらを選択したい。PCのSSD/HDD、スマホなどの容量との兼ね合いは少し難しくなるが、そこさえクリアできるならこの形式にしておくことが望ましい。
例えば、所有しているCDの枚数がそれほどではないなら、ロスレス形式でライブラリを構築してもPCのSSD/HDD等をそれほど圧迫せず、iOS機器などへの全曲同期も可能だろう。あるいはiOS機器などへの同期設定を工夫することでも対処できる(それについてはまた別の回で説明する予定)。そうであるならば、最善の音質を維持できるロスレス形式にしておくことがベター、長い目で見て間違いが少ない。
ただ気をつけなくてはならないのは、AppleロスレスとFLACは、再生できる環境の面からの選択が少し難しい。iTunesとiOS機器はFLACに対応せず、逆の他の多くの機器やソフトはAppleロスレスに対応しないというのがこれまでの状態。本稿執筆時の2012年6月現在では、多くのネットワークプレーヤーはFLACにしか対応していない。しかし2011年10月にAppleロスレスがオープンソース化されたことを受けて、同形式への対応は広がりを見せつつあることもあり、この流れも注視しておきたい。
AIFFとWAVは非圧縮の形式だ。もちろん音質はCDと同等を維持する。しかしデータ容量は全く圧縮されない。つまり言い方を変えれば、非圧縮形式は「ロスレス形式と同等の音質でロスレス形式よりもファイル容量は大きくなる」のだ。そういう意味では、特別なこだわりがない限りはあえて選ぶ理由はない。
さてついに今回の目玉。「実際のところ圧縮形式ごとの音質劣化ってどんな具合なの?」というのを、“見た目”で確認してみよう。
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