[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第6回】本当に怖い音声圧縮 − 音質劣化を“見た目”で確認!
■“見た目”でわかる音声フォーマットの姿 − 非圧縮AIFFとロスレス圧縮Appleロスレスは完全に一致
今回は同一の音声データ(ピンクノイズと呼ばれる波形を利用した)を用いて、非圧縮、ロスレス、ロッシーの高ビットレートと低ビットレートに変換したファイルを用意。WavePadというソフトでその音声を解析して周波数分布をグラフ化した。
まずはCDと同等の音質を維持する非圧縮とロスレスのグラフだ。
このように非圧縮とロスレスはグラフが完全に一致する。お手数であるが、上記の図版それぞれをウェブブラウザのタブで開いて、タブをパパッと切り替えてもらうと、両者の一致をわかりやすく確認できるはずだ。
しかし非圧縮とロスレスについては単なる確認。注目は、ロッシー圧縮における音質劣化の度合いである。
■256kbpsと128kbps、見た目からしてこんなに違う! これがAACの姿
…というわけで続いては、AACの高ビットレート(256kbps)と低ビットレート(128kbps)のグラフだ。まずはAAC/256kbpsから。
こちらもAIFFと共に図版をタブで開いて、切り替えて比較してみてもらえるとありがたい。
AAC/256kbpsは、実際に聴いても非圧縮・ロスレスと比較してそこまで極端な音質劣化は感じられないが、改めてグラフで見てもそのことを確認できる。細かく乱れてはいるのだが、全体の形は大きくは崩れていない。耳で聴いてもグラフで見ても、これなら許容範囲と感じる方も多いのではないか。
…とはいえグラフはたしかに変化しており、音質が損なわれていることも事実だ。やはり許容できないという方も多いだろう。そう感じるのであればロスレスにしておくべきだ。
そして今週のハイライト!AAC/128kbpsだ。
グラフが大幅に崩れており、特にグラフ右端の高音域が「ちょっ…!高音!高音!」とツッコミたくなるほどガクンと落ちている。
実は音声をデジタルデータ化する際には、高い周波数の音ほど大きなデータ量を必要とする。しかし人間の聴覚は高い周波数の音は感知しにくい(とされている)。
そこでロッシー圧縮の低ビットレート時には、「どうせあんまり聴こえないのにデータ量を食う超高音は思い切って省略しちゃえば効率よく圧縮できるんじゃね?」という処理が行われるのだ。理屈としては理解できる。
しかしこのグラフを見ると、「いくらなんでもこれ…だいじょうぶなんだろうか…」と不安を覚えるのが普通だろう。
うん、実際に聴いてもぜんぜんだいじょうぶじゃない。シンバルは明らかに歪むし、響きの成分、全体の空気感が死んでしまう。全くもっておすすめできない。よってロッシー圧縮を使う際には、ビットレート192kbps以上の設定を強くおすすめしたい。
というわけでリッピング時の形式・設定の重要性を、改めて確認してみた。特にいままで音楽ソフトの初期設定をそのまま利用していた方は、この記事を目にしたのも縁ということで、その見直しを検討してみてほしい。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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