注目モデルを貝山知弘氏がレポート
あらゆるオーディオスタイルに対応した新世代DAコンバーター - Fireface UCXを聴く
そして今年の春、同社の最新モデルとなるFireface UCXが登場し、大きな注目を集めている。すでに多くの場所でその音質が語られているが、果たしてRMEが実力を発揮するのはPCを接続した時のみなのだろうか?
今回はRMEが誇るあらゆるオーディオ環境でのデジタル接続にスポットをあて、“デジタルオーディオブランド”としてのRMEの実力をレポートする。
※本機でのオーディオリスニングのために便利な機能を持つ専用アプリケーション「TotalMix FX」の使い方はこちら
予想以上に大きいDAコンバーターによる音質差
過日、編集部からRMEのオーディオインターフェース「Fireface UCX」を試聴しないかという誘いがあった時、ふと8年前の情景が頭をよぎった。
当時、私の試聴室《ボワ・ノアール》のマルチchシステムでは、プリアンプ〜パワーアンプ間でデジタル伝送を採用しており、6ch分のDAコンバーターが稼働していた。プリアンプはゴールドムンド「MIMESIS 24ME」。アナログ出力はなく、全ての出力がデジタルのみというプリアンプだった。
同社のパワーアンプにはデジタル入力を備えたモデルがあったが、私のシステムでは、入力はアナログのみのパワーアンプを使用したので、別個にDAコンバーターを用意する必要があった。結局、モノラルパワーアンプ5台+DAコンバーター(ステレオ仕様)3台という物々しいシステムとなってしまった。
スイッチのON/OFFをはじめ、組み換えるのも大変という代物だったが、デジタル伝送のノウハウを体得するには格好のシステムだった。例えばDAコンバーターによる音質差が出ることなどは構築前から予測していたが,実際に各種のDAコンバーターを使ってみるとその差が想像以上に大きいことに気づいたりもした。PCオーディオに精通しているとは言えぬ私が、今回の試聴依頼をストレートに受けた根底には、こうした体験の記憶があったからだ。
なお、今回の試聴の基本方針は、DAコンバーターとしての絶対的な音質評価である。それもUSB接続を用いたPCオーディオ環境下ではなく、主にCDトランスポートを用いての環境である。つまり、本機がPCオーディオのみならず、全てのオーディオ環境で発揮できるDA変換精度がどれほどのものかを探るというものだ。
現在、《ボア・ノワール》には2系統の再生システムがある。今回はステレオ再生システムにFireface UCXを投入して音質評価を行うことにした。アキュフェーズのセパレート型SACD/CDトランスポート「DP-900」を使用し、そこからのデジタル出力をFireface UCXに入力。そのアナログ出力をアキュフェーズのプリアンプ「C-3800」のアナログ入力に接続する。
パワーアンプはテクニカルブレーン「TBP-Zero」(2基使用)、スピーカーシステムはフォステクス「G2000」だ。Fireface UCX、DP-900、C-3800の電源は200Vの引き込み線からNSのアイソレーション・ステップダウン・トランス「NSIT-3500」100Vに変換した後、アキュフェーズのクリーン電源「PS-1220」を介し取り出している。
試聴ソースは市販のCDを2枚。『ユジャ・ワン/ファンタジア』(グラモフォンUCCG1754)の前半、『サイモン・ラトル(指揮)、ベルリンフィル/マーラー:交響曲第2番「復活」』(EMI HQ盤、TOCE90181)の第1楽章を聴いた。基本的には44.1kHz/16bitでの再生を行い、後に参考までにアップコンバートの効果も試している。
演奏者の感性の細かな変化まで再現する高い解像度
一聴して高・中・低音のエネルギーバランスがきちっと整っていることが分かる。音の芯が強く、音像の締まりが適切で、低音がブーミーにならぬサウンドが得られているのは、プロの世界で高い評価を獲得するRMEの特徴ととらえた。fレンジ(周波数レンジ)は広く確保されている。ローエンドは深く沈み込み、ハイエンドはすっきりと伸び切っている。低音は力感と量感とのバランスが良く、全体に安定した音の土台を造り上げている。
強弱のレンジも大きく確保されており、スケールの大きい音表現が可能だ。『マーラー:「復活」』の冒頭では、低音弦の響きが大編成オーケストラの迫力を伝え、ユジャ・ワンのピアノではグルックの『メロディ』のしなやかな弱音が心にしみる。S/Nは大きく確保されており、ノイズと歪みは全くというほど耳につかない。音場はクリアで見通しがよく、音像はくっきりと自然に表出され、音を濁す強調感は全くない。音の解像度が高いために演奏細部の表現が緻密で、短い時間での強弱やテンポ、そして音色の変化などを克明に表出できる。これは解像度が劣るDAコンバーターでは聴きとることもできぬ微細な変化であり、Fireface UCXが誇るデジタル処理能力の高さを物語っている。
このニュアンスは『ファンタジア』の随所で感じることができる。彼女は自らの感性の赴くままに、ある時は爽やかに弾きまくり、またある時は心にしみるほどじっくりと弾き込んでいく。こうした感性の微妙な表現は、低解像度のDAコンバーターでは決して表出されることはない。一方で、こうした演奏家の細かな感性までをもFireface UCXは描き出す。
10万円台でこれだけの再生音が得られるDAコンバーターは他にない
DP-900+Fireface UCXの音質傾向は、アキュフェーズ本来の組み合わせDP-900+DC-901と同じ線上にあることが判った。エネルギーバランスの整い方、再生帯域の広さ、強弱音の差の大きさ(ダイナミックレンジ)、ノイズや歪みの少なさ、音の解像度の高さ、音の安定度、音場と音像のリアリティなど、数々の評価項目全てで、本来の組み合わせにけなげに肉薄しているのだ。実売約14万円という本機の価格を考えると、これがいかにすごいことだと私は思う。この価格でこれだけの再生音が得られるDAコンバーターは私の知る限りないからだ。
これまでFireface UCXは、どうしてもPCオーディオ環境でのUSB接続時に聴ける音質がクローズアップされてきたように思う。しかし、CDを始めとするこれまで通りのオーディオ再生でも、極めて高次元での音を聴かせてくれた。あらゆるデジタル音源を高精度にアナログ変換するFireface UCXは、超ハイCPのDAコンバーターと評しても誇張にはならぬと思う。
PCオーディオでのRMEの魅力を凝縮した特設サイトが完成!
RMEを取り扱う(株)シンタックスジャパンでは、RMEの製品を使ってPCオーディオを楽しむためのサイトを立ち上げた。プロのクオリティを誇るRMEの技術解説からPCオーディオ環境での使い方の解説、試聴会情報まで網羅したサイトとなっている。細かい使用方法など本サイトを見れば一目同然! 必見のサイトといえるだろう。
http://audio.synthax.jp/
トピック:
- ジャンルD/Aコンバーター
- ブランドRME
- 型番FIreface UCX
- 発売日2012年3月23日
- 価格¥OPEN(予想実売価格¥139,000前後)
●OS:Windows XP SP2以降/Vista/7(32/64bit対応)、MAC OS X 10.5以降(Intel MAC)【アナログ部】●SN比:11dB RMS unweighted、113 dBA●周波数特性:6Hz〜45.3kHz(96kHz、−0.5dB)●THD:<−105dB、<0.0005%●chセパレーション:>110dB●入力インピーダンス:10kΩ【DA部】解像度:24bit●Dレンジ:111dB、113bDA(44.1kHz)●周波数特性:6Hz〜45kHz(96kHz、−0.5dB)●出力インピーダンス:75Ω(フロント、7/8、フォンは30Ω【デジタル部】クロック:内部(インターナル)、ADAT in、S/PDIF inワードクロックin●低ジッター設計:<1ns(全入力、PLLモードにて)●内部クロック:800psジッター、ランダムスペクトラム拡散●外部クロックのジッター抑制:約30dB(2.4kHz)●デジタル入力:USB(typeB)×1、FireWaire×1、MIDI×1、ADAT(光TOS)×1、RCA同軸デジタル×1【一般】電源:外部電源アダプター●平均消費電力:13W●サイズ:218W×44H×155Dmm(ラック耳なし)●質量:1.5kg●取り扱い:(株)シンタックスジャパン