[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第20回】ローファイ上等!? Fenderのギターアンプ “Greta”をオーディオ的に楽しむ
むむむ…いい感じだ。ギターアンプはエレクトリックギターという楽器の帯域に特化して設計されているので、もちろんハイファイとかフラットとかワイドレンジとかそういうタイプではない。ローファイでミドル中心のナロウレンジだ。ダイナミクスの幅も狭い。
しかしにも関わらず、本機で音楽を再生すると、他の楽器の音色もいい感じというかおいしい。ドラムスのナチュラルな太さと暖かみに、ポコンとビンテージ感のあるアタックと抜け。エレクトリックベースは弾性に富んで躍動感があり、ある曲ではゆったりとしたグルーブを、ある曲ではぐんぐん進むドライブを、的確に生み出す。
ボーカルの肉声感も特筆できる。目の前にいるような実在感とは異なり、マイクとスピーカーを通して伝わってくる生々しさだ。「ライブっぽい声」である。そして声の輪郭は滑らかで、それでいて心をざわつかせる柔らかなささくれも残されている。
もちろん、エレクトリックギターのクリーントーンのやや硬質な艶やかさ、ディストーションを効かせた音色のジューシーな倍音あたりは特にさすがだ。文句なし。これは、繰り返しになるが、おいしい。
また僕は常日頃からradiko,jpでラジオ番組を聴く際に、ライン入力を備えるTivoli Audio社のModel Oneというモノラルラジオを使っている。これがまた聴きやすい音で素晴らしいのだが、本機とradiko.jpの相性も抜群だ。前述のボーカルの感触と同じく、人の声が実に人の声らしく聞こえるし、ちょうどよい具合に和らいで優しい。それにこのルックスからラジオが流れてくる雰囲気がまた秀逸だ。
■高橋敦が語る“ボリューム使いこなし”のコツ
さて音の印象はそんなところだが、本機には、ギターアンプで音楽を再生するにあたっての独特の使いこなしが必要だ。それはボリュームの設定方法。
本機はギターアンプであるので、本機のボリュームを上げれば音が歪むのは当然だ。オーディオ的には「!?」という感じだろうが、ギターアンプとはそういうものだ。また本機への入力が大きくなっても音が歪むので、接続したプレーヤーの側のボリュームを上げても音が歪む。
…いやつまりどっちにしても音量をある程度以上に上げようとすると音が歪むのだが、できるだけ歪ませずに音量をうまく調整するにはどうしたものか?
僕が試した範囲では、本機の側のボリュームを半分程度にまで上げて、あとは接続したプレーヤー側のヘッドホン出力の音量の調整で適当な音量に合わせるというのが、具合が良かった。音を歪ませることなく、十分な音量を得られる。
本機の側のボリュームを上げずにプレーヤー側のボリュームで音量を稼ぐことにはもうひとつ理由がある。本機の側のボリュームをある程度以上に上げると、電源ノイズが盛大に聞こえてくるからだ。これもギターアンプとしては普通のことなのだが、音楽を聴くときにはちょっと邪魔。使いこなしで回避しよう。まあ、あえて歪ませる!あえてノイズも出す!という楽しみ方も、本機に限ってはそれもありだが。
本機にはトーンノブも用意されている。これはいわゆるハイカットで、全開から絞っていくと高域が抑えられていく。僕の印象では、全開から少し絞った状態がバランスが良い。そこを中心に半分〜全開あたりで動かすと、音色の明るさや特にシンバルの強さをうまく調整できる。
う〜ん、これは個人的にはかなり好感触。オーディオファン万人におすすめできるアイテムでは全くないが、ローファイ上等!モノラル上等!なロック好きの方、メインのシステムの他に耳心地の良いナロウレンジサウンドもいいかな…という方などには、ちょっと気に留めてみてほしいアイテムだ。普通のオーディオとは違う世界を楽しめるだろう。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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