【特別企画】レンズシフト対応の兄弟機「W1070」との違いは?
フルHD/3D対応の超短焦点ハイCPプロジェクターBenQ「W1080ST」の実力に迫る
映画「The Tourist」を試写したが、精細感は申し分なく、ロングショットで捉えるベネツィアの街も、屋根の瓦が形状だけでなく、微妙な色味の違いまで情報量豊かに再現できている。人物の表情も陰影が滑らかなグラデーションで描かれ、立体感も充分だ。解像度の高さとシャープな表現力は、短焦点レンズである事や価格帯を忘れてしまうほどである。
また、色味もナチュラルさが心地良い。一般的にエントリークラスの製品は色を派手に見せる傾向があるし、WXGAクラスの液晶タイプでは色の濁りによる重さが気になりがちだが、本機は充分に豊かな色再現が出来つつ、誇張したような不自然さが無く、さらにDLPならではの透明感も好感が持てる。カラーホイールを持つ単板式のDLPタイプ故に、原理的にカラーブレーキングからは逃れられないが、試写中は殆ど気にならなかった。
グレースケールやガンマ特性、色域性能については、W1070と同等だった。詳しくはW1070のレポートを参照して欲しいが、ガンマ特性は出荷状態で極めて精密で、色域はHDTVの制作基準であるRec709相当である。基本に忠実で真面目な画作りと言え、映画鑑賞にも充分なクオリティーを備えている。
黒の表現力については、完全暗室でやや浮きが見られるが、少し明かりのある部屋なら問題にならないレベル。映画「The Tourist」のパーティーシーンでは、黒のタキシードも潰れてしまわずに生地のテクスチャや曲面の具合が見て取れ、立体感を維持できている。総じて、上質な画質と言える。
3Dの画質についても基本的にはW1070と同等なため詳しくは同機のレポートに譲るが、クロストークは字幕周辺を念入りにチェックしても確認できない。また、メガネによる輝度落ちが少なく、明るい3D映像が快適なのはもちろん、3Dメガネを掛けたまま薄暗い部屋の中を見通す事ができ、照明の調節やリモコン操作が可能なのも実用的だ。メガネの同期は、映像の中に埋め込まれた赤色画面を検知するDLP-Link方式なので、視聴中の同期外れが無く、赤外線リモコンの操作にも影響を及ばさないので、実に快適だ。
■「W1070」「W1080ST」それぞれどう使い分ける?
二回にわたり、標準焦点のW1070と短焦点のW1080STを検証した。まず注目したいのは、10万円前後の価格帯でフルHDを実現した、コストパフォーマンスの高さだ。加えて、出てくる映像は、単にフルHDという名目上のスペックだけでなく、ユーザー期待を裏切らない解像感やナチュラルな色再現力など、質の高さも特筆に値する。
基本として、映画視聴にも充分な画質性能と高いコストパフォーマンスを持つW1070とW1080STの両機だが、やはり性格が違うので、用途に応じて選択すると、さらに長所を引き出せる。
価格と画質を優先するなら、W1070が良い。実売価格ベースでW1080STよりも2割程度安価、画質面でも有利だ。ホームシアターで天吊り設置をするような場合、焦点距離のレンジ感もピッタリだし、上下±5%だが、レンズシフト機能が利用できるのも嬉しい。
必要な時に卓上に置いて使うような想定の場合、W1080STが良い。投射距離は、60インチ投射で1m、10インチ投射で1.5mしか要らないので、プロジェクターを視聴位置よりも前方に設置できる。これなら、体を動かすスポーツゲームをプレイしても、会議でプレゼンを行っても、投射光を遮らないで済むだろう。しかも大画面でフルHDの高画質と申し分ない。
100インチクラスの大画面&フルHD高画質に憧れつつも、費用面で尻込みしていたユーザーなら、W1070とW1080STは是非試して欲しい好製品である。
【著者プロフィール】
<鴻池賢三 Kenzo Kounoike>
THXISF認定ホームシアターデザイナー。ISF認定映像エンジニア。AV機器メーカー勤務を経て独立。現在、AV機器メーカーおよび関連サービスの企画コンサルタント業を軸に、AV専門誌、WEB、テレビ、新聞などのメディアを通じてアドバイザーして活躍中。2009年より(社)日本オーディオ協会「デジタルホームシアター普及委員会」委員/映像環境WG主査。