「SE535」「SE425」との違いとは
上位機とどこが違う? SHUREのBA型エントリー機「SE315」再検証
■上位「SE535」「SE425」に引けを取らない実力
肝心の音質だが、結論から言うと、SHUREの現行ラインナップの中では、最も「音」や「音楽」が楽しめるモデルだ。
そもそも感度の高さや繊細な表現力はバランスド・アーマチュアドライバーの得意とするところだが、独自の「MicroDriver」は、さらに解像度に磨きを掛けた印象。筆者の愛聴盤であるJane Monheitのアルバム「Taking A Chance On Love」のトラック「I Won’t Dance」では、のっけのドラムにパンチ力の弱さを感じるものの、ブラス系楽器の歪み無く突き抜けるエネルギー感や、各音の分離が気持ち良い。特筆すべきはジェーンの豊富なヴォーカルテクニックと豊かな感性が如実に掴める情報量の多さ。マイクのタイプや種類までも目に浮かぶようである。また、このヴォーカルの生々しさとナチュラルさは、本機がシングルドライバーである事も功を奏していると言えそうだ。
全体の印象として、低域の量感こそ控えめなものの、マルチウェイのように特性を乱す要因が無く、さらにネットワーク回路を持たない事による音質劣化要素の少なさなど、原理面でいくつかのアドバンテージがあるのは確かである。複数ドライバーを持つ上位のSE535やSE425が、低域を中心に本機よりも幅広い周波数帯域をカバーするのに対し、本機はシンプルで鮮度優先。素材の良さをダイレクトに味わえる。
ラインナップ上、SE535やSE425の下位機にあたるが、音質面では決して引けを取らないし、多様な楽器や声が複雑に入り交じる音楽を聴いた時の音のまとまりとバランスの良さ、一音一音の鮮度に着目すると、本機は最も優れていると感じる。
最後に、低域が控え目と表現したが、決して不足しているという意味ではない。上位の複数ドライバーモデルと比べたときの話である。ベースポートを最適化することで低域性能を高められており、従来モデルや一般的なシングルのバランスド・アーマチュアドライバー機に比べると、量の点でも質の点でも優秀。空気感を湛えるだけの量、ドラムやベースなど、低音楽器の音程や輪郭を充分に描き分けられる質が伴っている。
総じて、周波数特性を重視するモニター志向と言うよりも、鮮度で「音」と「音楽」を楽しみたいユーザーにおすすめできる良品だ。
◆鴻池賢三 プロフィール
THXISF認定ホームシアターデザイナー。ISF認定映像エンジニア。AV機器メーカー勤務を経て独立。現在、AV機器メーカーおよび関連サービスの企画コンサルタント業を軸に、AV専門誌、WEB、テレビ、新聞などのメディアを通じてアドバイザーして活躍中。2009年より(社)日本オーディオ協会「デジタルホームシアター普及委員会」委員/映像環境WG主査。