HOME > レビュー > 【第63回】楽器ブランド・Rolandが作ったモニターヘッドホンの実力とは?

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第63回】楽器ブランド・Rolandが作ったモニターヘッドホンの実力とは?

公開日 2013/10/18 11:01 高橋敦
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

Roland RH-300、それは絶対評価でもコスパ評価でも魅力的なモデル

上原ひろみさんのピアノトリオのアグレッシブな演奏が展開される「MOVE」は全てのパートが素晴らしいが、個人的に最も心惹かれており試聴時にも特に注目しているのは、サイモン・フィリップス氏のドラムスだ。太鼓らしい豊かな鳴りと太く心地よい抜けっぷりは絶品。このヘッドホンはそこを見事に再現してくれる。低音のボリューム感を確保しつつしかし膨らませすぎないないことで、その感触が実現されている。このあたりはモニターらしいさじ加減と言える。

そして音の立ち上がりと収まりがとても素早いこともポイントだ。そのおかげで前述のように音色のキレ=リズムのキレが際立ち、リズムの再現が曖昧にならず実に正確。複雑で緻密でありながらも音楽的に躍動するグルーブを余すところなく体感できる。

それとも絡むが、リズムの面ではバスドラムとベース、つまり低音楽器の輪郭が共に明確であり、リズムの基礎を支える部分が堅牢であることもポイントとして挙げておきたい。高音側では、スネアドラムのバシッと濁点と「ッ」の効いた荒っぽさの表現も適当だ。音色を下手に落ち着かせてしまうことはない。シンバルは明るく抜けのよい音色で、音場全体も少し明るい雰囲気になる。

またこの曲は手数(音数)が非情に多くなる場面があるのだが、そのときにも音場に余白を残して、窮屈さを感じさせないこともこのヘッドホンの良さだ。

相対性理論「ミス・パラレルワールド」も好感触。こちらでのポイントはギターのエフェクト処理だ。この曲のギターには音程を揺らしつつ重ねるコーラス、音を遅れさせて重ねるディレイといったエフェクト処理が行われている。そのエフェクト成分(原音に加えられる成分)が実にクリアに再現されることで、エフェクトの効果が際立っている。それらのエフェクトは「空間系エフェクト」と呼ばれているのだが、このヘッドホンはまさにその空間性を存分に引き出す。ここはヘッドホンの要素で言えば、解像感やクリアネスといったところの優秀さということになるだろう。ヘッドホンでもスピーカーでも、特にモニター系の製品で優秀なモデルは、このあたりの再現性が高いと感じる。

ギターは音色自体もよい。フェンダーのシングルコイルの音色なのだが、ペラッと素っ気ないようでいてリッチな立体感もある、その独特の感触がしっかりと伝わってくる。

宇多田ヒカルさん「Flavor Of Life -Ballad Version-」でのボーカルも好感触だ。彼女の声に共存する高音の凛とした硬さと低音の包む込むような柔らかさが、どちらも表現されている。ヘッドホン自体に癖がなくダイレクトな再現性を持つからこそ、両者を共に引き出せるのだろう。

…というわけで、今回はRoland RH-300をチェックした。これは期待通りに、絶対評価でもコスパ評価でも魅力的。正確な再現性が結果として生み出す、音楽的な楽しさ。比較的手頃な価格でその楽しさを体感できるヘッドホンだ。


高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 バックナンバーはこちら

前へ 1 2

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE