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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第69回】ダイナミック型イヤホンに“新星”あらわる! Dynamic Motion「DM008」を聴く

公開日 2013/12/13 11:45 高橋敦
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■シャープな描写と聴きやすさを両立するDM008

まずとにかく感心するのは、シャープな描写と聴きやすさを両立させていること。端的に言えば、シンバルワークの鋭利な描写と女性ボーカルの刺さらなさを兼ね備えるというのはなかなか難しい条件だが、このモデルはそれを満たしている。低音側もダイナミック型らしくガツンと来る音圧や厚みを持ちつつも、当たりがやたらと強いわけではなくて上質な硬質感がある。

レッチリのドラマーであるチャド・スミス率いるBombastic Meatbatsの「Need Strange」は、ハードなフュージョンファンクとでも言えばいいのか、とにかくパワフルかつグルーヴィな演奏だ。そのハードタッチさは十分に引き出しつつも、ガチガチした感じにはしないのが本機の本機の持ち味。

例えば瞬間的にツーバス並みの速度で叩き込まれるバスドラムがそのグルーヴに効果的なアクセントを加えているのだが、そのバスドラムのアタックが実に良い。粒立ちが良く一発一発がクリアなのだが、しかし音がガチンと硬すぎることはなく、太鼓の胴の木質の感触もほどよく生かされている。金属バットではなく、木のバットで殴られているような衝撃だ。まあどっちにしても致命傷なわけだが。このあたりは大型マグネットのパワーで大口径ではないドライバーを余裕を持って駆動することでの、音の立ち上がりと収まりの再現性が発揮されているものと想像する。

そのバスドラムも含めてドラムスの太鼓は、アタックの後に来る響き、空気感が豊かだ。これは音像の膨らみが豊かということではない。太鼓の音の本体は太さはありつつ、スパンとキレが良い。だからこそその後に来る細かな響きが際立つ。だから、ドラムスの手数が極度に多いソロの場面でも、音の余韻が膨らんで伸びて重なりすぎることはなく、空間に余白というか余裕が残って見通しが良い。これもやはり駆動力、制動力を感じさせる。

最初に述べたように、シンバルの描写は鋭利だ。ハイハットの基本の音色も開閉も、シュッと素直にキレている。クラッシュシンバルも炸裂感を出しつつも澄んだ音色。金属質の手触り感のようなものも、よく生かされている。クラビネットやギターの歪みのエッジ感も、直線的ではなく、豊かな倍音によるジューシーな感触を再現。高音の再現性もハイレベルだ。

女性ボーカルはまずは相対性理論「ミス・パラレルワールド」で確認したのだが、この時点でやくしまるえつこの声のシャープさとほぐれをバランスよく生かし、かなりの実力を感じられた。そこで再生の難易度がさらに高い、坂本真綾「30minutes night flight」にチャレンジ!

この曲における真綾さんの歌い方、そして録音は、ボーカルの刺さる成分を完全に意図的に強く出している。それがメロディとリズムのアクセントになっており、また言葉として刺さる力にもなっている。しかし再生環境が微妙だと、刺さりすぎて耳に痛い。

しかし本機は、明らかに刺さってくるのにそれほど耳に痛くないというか、刺さってくるのが気持ちいいと感じられる。高域が素晴らしく綺麗にフラットに上まで伸びているイヤホンやヘッドホンだとキレが良すぎて痛くないという域に達するが、それとはどうも異なるニュアンスだ。しかし高域が伸びていなくて音が鈍っているわけでもない。だってちゃんと刺さってはくるし、細かなシンバルワークの解像感なども高いのだから。

僕の分析力不足でその女性ボーカルの「刺さるけれど痛くない」感触になっている理由、理屈を判然とさせることができずに申し訳ないのだが、とにかくそこはこのイヤホンの聴きやすさを象徴している部分だと思う。またここで挙げたふたつの曲は共にギターのコーラスやディレイなどエフェクト処理もポイントだが、それらの再現性も実にクリア。定位感も含めてスペーシーな空間性の表現力も高い。

というわけでDynamic Motion DM008。ダイナミック型の良さだけを際立たせて、ダイナミック型ではハイエンドでしか感じられなかった鋭利さも備えるのに、そしてなぜか聴きやすいと、何とも見事な仕上がりだ。デビュー製品がこれなら、今後の展開にも期待せざるを得ない。


高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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