[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第74回】「人気声優×人気ヘッドホン」総当たりテスト! 帰ってきた好評(?)企画、今年はヘッドホン編
・中島愛「ありがとう」
この春をもってご自身の名義での音楽活動を停止する中島愛さん。ならばこの曲もさらに真剣に聴き込まねばなるまい。この歌は歌詞と共に大きく包み込むようなゆったりとしたバラードとなっており、中島愛さんの表現力が特に存分に発揮されている。聴きどころだらけだ。
・相性評価一覧
MDRー10RC|★★★・・|
MOMENTUM|★★★★・|
K712PRO |★★★★★|
SRH1540 |★★★★・|
・中島愛×MDR-10RC 相性評価:3
声自体は悪くはないのだがベースの方が目立つのが気になる。この曲のベースでそもそも強調されている帯域とこのヘッドホンがプッシュする帯域が重なってしまったのか、他のヘッドホンと比べて明らかにベースが大きすぎるのだ。しかし屋外で聴く場合にはこれくらい低音が出ていてちょうどよいバランスになるかもしれない。
歌の表現力には問題はない。ベースとの相対的な関係なのか声質は少し軽く感じられるが、他の感触は良好。少し掠れさせたような手触りをやや強めに出し、心に引っかかる感じを強めてくれるのも悪くはない。抑揚やビブラートの揺れにも素直に追従して滑らかに届けてくれる。
・中島愛×MOMENTUM On-Ear 相性評価:4
これは歌を中心に全体のバランスもよく、歌ものとして実に聴きやすい。そして声の感触もウォーム傾向でかなりよい。
声の倍音がほどよく伸びており、落ち着いた鈴鳴り感を生み出している。またこの曲ではウィスパー成分やファルセット成分を瞬間ごとに絶妙に含ませる歌い方がされているが、その様子も細やかに届いてくる。すると歌の情感がぐっと増すのだ。音楽全体を見たときのワイドレンジさや解像感といった要素は穏やかに整理されているのだが、しかし歌に耳を向ければその情報量は十分に豊か。このヘッドホンはやはり、今回のように歌だけに集中する聴き方には特に向いている気がする。
・中島愛×K712 PRO 相性評価:5
ウィスパー成分やファルセット成分の配合の具合の表現力が秀逸。加えて柔らかくふわっとほぐれた感じの再現性が素晴らしい。
冒頭「悲しいとか」「淋しいとか」の「し」の子音の感触とか語尾の「か」の声の抜き方とかそういった部分でまめぐさんは、声の倍音を自然に強めたり地声を抜いて倍音を残したりといった、実に豊かな表現をしている。このモデルはその倍音を優しく柔らかく届けてくれる。「負けん気で」の「気」のファルセットも、すっと高く抜ける声でありながらやはり柔らかい。まさにこの歌にぴったりの表現をしてくれるモデルだ。ダイナミクスとビブラートとファルセットとウィスパーを同時並行制御するようなロングトーンの美しさも、ほれぼれする再現っぷり。
・中島愛×SRH1540 相性評価:4
こちらはややクールな傾向だが、これはこれで透明感があって歌の美しさが際立つ。ウィスパー成分やファルセット成分の美しさは特に素晴らしい。それらの成分がシャープに豊かだ。何というかガラスの微粒子をまとったような歌声で、柔らかさではなくあくまでもシャープさなのだが、しかし実にきめ細かいので刺さる感じにはならない。
歌の表現力も秀逸。例えばサビの最後の「壊れそうなら」「そばにいるよ」の語尾である「ら」と「よ」の声色と伸ばし方というか抜き方などで、彼女の声色や音量のコントロールの精緻さにこのヘッドホンも精緻に追従してくれていると実感できる。
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