[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第75回】 DSD対応小型ヘッドホンアンプ「nano iDSD」「DS-DAC-100m」をまとめ聴き!
■“全部入り”スペックで衝撃的な高C/Pのnano iDSD
ではまずはnano iDSDの方から見ていこう。基本情報を押さえていくと…。
・いわゆるポタアンサイズ
・PCM 384kHz/32bit、DSD 6.2MHz対応
・iOS機器とのデジタル接続によるハイレゾ再生
(カメラアダプタ経由の例の方法で)
・ハイレゾ対応ウォークマンとの以下同文
(ソニー純正オーディオ出力用USB変換ケーブルで)
・その他Androidスマートフォンとのデジタル接続
・バッテリー駆動10時間以上
・RCAライン出力搭載
…と、文句の付けようがない、現時点でどころかこの先も、当分の間は「全部入り」と言い続けることができるであろうスペックだ。これで2万6,250円というのは、むしろ逆に大丈夫かと思ってしまうレベルだが…。
その心配は後ほど音を聴いて解消するとして、使い勝手の面では、おおよそは普通のUSB-DAC/ポータブルヘッドホンアンプであり、戸惑うところはないだろう。ボリュームが電源スイッチを兼ねていて電源オン/オフ時には必然的に音量が最小になるのは、僕好みの仕様だ。
ただし一点だけ注意が必要な箇所があり、メーカーからアナウンスが出されている。本機のUSB端子は見ての通りUSB 3.0のB端子だ。しかし端子の物理形状は3.0だが伝送にはUSB Audio Class 2.0が利用されている関係で、PC側のUSB端子が3.0だと正常に動作しない場合があるとのこと。対策としては、
・PCにUSB 2.0の端子も併設されていればそちらに接続
・PCにUSB 3.0の端子しか用意されていない場合はUSB 2.0のセルフパワーハブを経由
ということがアナウンスされている。この点はあらかじめ注意が必要だ。なおUSB 3.0のB端子は2.0のB端子をベースに拡張したものなので、USB 2.0のB端子のケーブルはそのまま流用できる。
■nano iDSDの音質をチェック
さて、気を取り直して!いちばん大事な音質チェックだ。今回はやはりこの製品の大きな特長である、iOS機器と組み合わせてのDSDも含めたハイレゾ再生環境でチェックしよう。
大まかな印象としては、組み合わせた他の機材、そして曲ごとの個性を素直に引き出して、自身の個性は強くは主張しないアンプと感じた。現在利用中のプレイヤーやヘッドホンの基本傾向を気に入っている方が、それはそのままに、もう一押ししたいという場合には、特に都合がよいだろう。
例えば今回のシステムだと、再生アプリHF Playerの艶っぽさとヘッドホンSRH1540のシャープネスを共に生かしてくれることがポイントだ。その結果、トータルで「きつくない解像感」といったようなものが生み出されている。
シンバルやボーカルの刺さる成分を薄刃に鋭利に出しつつも、その刺さり具合というか鋭さの質が不快ではない。艶とかほぐれとか、そういった感触がある。描写が甘いわけではなく、シンバルの金属の質感の描き込み等もしっかりしている。このあたりは高域の再現性に崩れがないためだろう。
しかしではソフト傾向の音色なのかというと、一概にそうというわけでもない。音色の硬軟で言うと好ましい意味で”やや”硬質と感じさせる箇所もある。顕著なのは中高域のスネアドラムやギターで、擬音で言うとカコンとかパキンとかになるような硬質な抜けを見せる場面がある。これはもちろん、その曲その録音に沿った再現だ。
またアンプとしての制動力が確かなのか、ベースやバスドラムなど低音側の音像を無駄に膨らませることはない。引き締め方はタイトだ。しかしきつく制動しすぎたゴツゴツの音色にはしていない。ベースの柔軟性やバスドラムの木質の暖かみも生かされている。偏りがないというか分別があるというか、巧い制動だ。
もちろんDSD再生もチェック。DSDマスタリングの作品を聴いたのだが、エンジニアがDSDマスタリングを選択したその意図がおそらく正しく伝わってきているであろうと感じられる。例えば音のエッジの絶妙な落とし方はDSDがアナログ的な感触と言われる由縁のひとつだが、まさにその感触。全体の奥行感や個々の音色の立体感。濃密なのだけれど窮屈ではない空間性。そういった要素が存分に生かされている。DSD再生環境として十分な実力だ。
それにしても、機能を確認して音を確認した後に改めて値段を確認すると、もう一度驚きが湧いてくる。去年末の時点で、ウェブページには初回入荷分は品切れで、次回生産分のお知らせが掲載されていたが、「まあ売れるだろうな」と納得だ。
では勢いに乗って、次頁からはDS-DAC-100mをチェックしていこう。
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