【特別企画】兄弟機「X11」「X7」試聴も
BAイヤホンの銘機、Klipsch「X10」が復刻! − ハイレゾ音源でその実力に迫る
■「X10」でハイレゾ音源を聴く |
では、X10でいくつかのハイレゾファイルを聴いてみたい。プレーヤーはAstell&Kernの「AK120II」を使用した。
まず、ホセ・ジェイムズの『While You Were Sleeping』を再生。このアルバムはソウルジャズシンガーというこれまでのイメージを大きく裏切るサウンドが特徴的だ。エッジの利いたエレキギターやEDM的なリズムアプローチなど衝撃的な変貌ぶり。ジャズをベースとしながらも、このジャンルの行く末を照射するようなサウンドに満ちている。
一曲目の「Angel」はエレキギターとベースがぐっと前に出てくる。ボーカルはそれらと馴染むようで、程よい粘りも感じられた。声のテクスチャーも荒れることはない。丁寧な歌いっぷりも伝わってくる。また、全体として音空間の密度が高く、同時にスピード感もあるため、まるで音楽に弾力が加わったかのようだった。
沖縄の唄者(うたしゃ)、上間綾乃の最新作『はじめての海』もハイレゾでリリースされた。聴いたのは井上陽水のカバー「海へ来なさい」。X10は、伸びやかな上間のボーカルと力強いピアノ、暖かいコーラスといったこの曲のキーポイントを存分に表現する。特に歌い始める直前の、ふっと息を吸い込む瞬間がリアルで生々しい。
次に聴いたのは、ウクライナ出身の実力派ピアニスト、ヴァレンティーナ・リシッツァが、マイケル・ナイマン作品に挑んだ『ピアノ・レッスン〜リシッツァ・プレイズ・ナイマン』だ。ピアノ一台で紡がれるミニマルなサウンドスケープ。X10はそのピアノの音色を非常にバランスよく聴かせてくれた。
また、輪郭が明瞭で音楽がきびきびと躍動しているものわかる。さらに印象的だったのは高域に煌めきが生じていたことだった。まばゆい、と言っては大げさだが、適度な光沢を感じることができた。
ジャズのヴィブラフォン奏者、ボビー・ハッチャーソン。ブルーノートレーベルで1960年代に数々の名盤を残したアーティストだ。ヴィブラフォンは、つくづく思うが面白い楽器である。クールに響くかと思えば、演奏によっては狂気さえ孕む音色を放つからだ。ちなみに、前者の代表作が『Happenings』(1966年)で、後者はエリック・ドルフィーがリーダーの『Out To Lunch』(1964年)だろう。ともにハイレゾでもリリースされているので聴いてみてはいかがだろうか。
そんなハッチャーソンが実に37年ぶりとなるブルーノート復帰作『Enjoy the View』を発表した。ヴィブラフォン、サックス、オルガン、ドラムスのカルテット。それぞれのプレイが実にビビッドだ。特にオルガン(ジョーイ・デフランセスコ)が凄まじい。フットペダルで低域を奏でながら、時折、稲妻のように高域を割り込ませる。X10はそんなスリリングな演奏を存分に表現してくれる。
また、各プレーヤーが押しては引き、引いては押すような奥行きのある演奏をしていることも感じられた。ベテランたちがそれぞれのプレイに耳を傾けながら、息を合わせている、そんな様子が思い浮かぶ。緊張と緩和が一体化したような雰囲気すら漂う。
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