【特別企画】
パイオニア「BDP-LX58」レビュー:高CPモデルの実力を山之内正が検証。上位機との比較も
『007 スカイフォール』の終盤、スコットランドに到着した後のシーンにも同じことが当てはまる。森を背景にしたボンドとMのクローズアップショットで背景が不自然に引き寄せられることなく、自然な距離感を感じさせるのだ。そうしたナチュラルな映像のタッチは上級機BDP-LX88とよく似ている。
本機でアップスケーリングして4K信号を出力した場合と、VW500ES側で4K超解像処理を行った場合の映像のタッチは後者の方がディテールを際立たせる方向になるが、それはあくまでもフィルムまたはデジタルシネマ作品をターゲットにしたデフォルト設定の話。プレーヤーとプロジェクターそれぞれ詳細な画質調整項目が用意されているので、ある程度の時間をかければ好みの設定に追い込むことができる。だが、さきほど紹介したビデオアジャスト機能の設定は基本的にナチュラルな方向にチューニングされているので、その選択だけでかなり幅広くカバーできるはずだ。ディスプレイと素材の種類を選ぶだけの操作で済むので、とても実用性が高い。
『アラビアのロレンス』では映像情報とフィルムグレインの描き分けからチューニングの巧みさが伝わってくる。パイオニアのディスクプレーヤーはDVDの時代から解像度とS/Nのバランスの良さが際立っていたが、その伝統をいまもしっかり受け継いでいるようだ。
特にうまさを感じさせるのはノイズリダクションの設定だ。ノイズ感を単純に一掃してなめらかなタッチに変えるのではなく、フィルムならではの質感を残したうえで、砂嵐の粒子感など、重要な微細情報をマスクするようなノイズは効果的に抑えている。そのさじ加減が絶妙だ。
音質も上位機と共通する音調を実現。
コストパフォーマンスの高さを実感できるモデルと言える
チューニングのうまさという点では音も例外ではない。まずは音源に忠実で余分な演出を加えないことが基本で、それはメディアの種類を問わない。ディスク再生ではSACDとCDの違いを精妙に鳴らし分け、ファイル再生ではリッピング音源とハイレゾ音源の情報量の差を明瞭に聴き取ることができる。
原音に忠実な再生音を基本として押さえながら、音楽では躍動感や臨場感、映画の場合は台詞、効果音、音楽のバランスなど、それぞれの作品のなかで最も肝心な要素をしっかりと聴き手に伝える能力が高い。古楽器演奏の録音を聴けば鋭い立ち上がりや残響との対比が鮮明に浮かび上がり、ライヴコンサートの映像作品では生々しい臨場感が伝わってくるという具合だ。
音調についてもBDP-LX88と共通する部分が少なくない。密度が高く芯のある音を引き出すことと、サラウンド音場の彫りが深く、立体感を積極的に描き出すことが特徴で、ボーカルの表情も起伏に富んでいる。
同じ日に視聴したのでBDP-LX88と比較した記述が多くなってしまったが、その結果として浮かび上がってきたのは本機のコストパフォーマンスの高さである。特に画質についてはBDP-LX88に肉薄する高水準で、グレードの高い4Kプロジェクターと組み合わせてもなんら不満を感じることがない。音については空間情報や音色の豊かさなどBDP-LX88が優位に立つ部分があるが、物量の差を考慮すれば十分納得がいく範囲である。総合的に見て価格対性能比がきわめて優れた製品であることは疑いようがない。